第39話 約束
「確か、航輔には大事な彼女がいるって言っていましたよね?」
「あぁ、それがどうした?」
「その彼女さん。どれくらい好きですか?」
「どれくらいって言われても困るけど、宇宙規模で好きだよ」
「そうですか。へー、そう言うこと。ふむふむ」
瑠衣は何が言いたいのか。探りを入れられている。
「決めました。航輔にするお願い」
「何だか予感しかしないのだが? 金ならないぞ」
「別に奢ってとか現金をくれとかそう言う話は考えていませんよ」
「じゃ、何を望む?」
「時間。航輔の時間が欲しい。それが私のお願い」
「時間って曖昧だな。どれくらいの時間だ?」
「二十四時間」
「一日? それはちょっと」
「じゃ、十二時間でどうですか?」
「んーまぁ、それなら何とか」
「じゃ、決まりです」
「ちょっと、雑賀さん」
瑠衣から遠ざけるように火乃香さんは俺を連れ出した。
ひそひそ声で瑠衣に聞こえないように話すことになる。
「何ですか? 火乃香さん」
「多分、瑠衣ちゃんの考えていることってデートをしてほしいってことじゃないの?」
「デート? 俺は時間をあげるだけですよ?」
「それはつまりデートだよ。彼女さんに悪いと思うなら断るべきよ」
「な、なるほど。でも賭け事をして負けたのは俺だし」
「それでも理屈が通っていないでしょ」
「うーん。困りましたね」
「一応、彼女さんに許可を取るべきよ。まぁ、許可取れないと思うけど」
「電話してみます」
すずちゃんが何と言うか。電話を掛けるとワンコールで繋がった。
『ハロー。コウくんから電話なんて珍しい。急用?』
「すずちゃん。実は困ったことがあってさ……」と俺は前置きをしてから現在の事情を話した。
終始、すずちゃんは俺の話を聞いていた。
『ふーん。事情は分かった。でも、それで私が許可を出すとでも? そもそも私に相談でずに黙っていればよかったものをわざわざ言うなんて』
「内緒ってわけにはいかないだろ。俺たちは付き合っているんだから」
『ふふ。まぁ、そう言うバカ真面目なところが好きなんだけどね。いいよ。約束したならちゃんと守ってあげて』
「え? いいのか?」
『いいとは言えないけど、約束を破って大食い彼女に私の大好きなコウくんの印象を下げられたら困るからね。誰に対しても誠実清楚。それがコウくんの魅力でしょ?』
「ありがとう。てっきり断られると思ったよ」
『気にしないで。但し、次に私と会ったら楽しいことをいっぱいすること。まだまともにデート出来ていないから』
「分かった。最高のデートにさせるよ」
『うん。愛しているよ。コウくん』
ピッと俺は通話を切った。
「許可取れたよ」
「え? 彼女さんオッケーしたの?」
まさかの返答に火乃香さんは大声を張り上げていた。
「信用しているからこそのオッケーだよ」
「何だか雑賀さんの彼女って器が大きいのね」
確かにお金持ちならではの余裕は感じられる。
有名企業の社長の一人娘で高いスペックを持っている反面、中身は普通の女の子というのは俺だけが知っている特権みたいなもの。
「ねぇ、いつまで待たせるつもり?」
一人放置された瑠衣は不服そうである。
「待たせたな。十二時間だけお前に時間をやる! それでいいな」
「お。通っちゃった。なら楽しみが増えたね。次の休みはいつ?」
「来週の木曜日が夜勤上がりだからその日なら何とか」
「じゃ、その日に航輔の時間を借りるよ」
話がまとまりつつ、一人だけ反発する者がいた。
「雑賀さん。本当にいいんですか? もう少し冷静に判断した方がいいです」
と、火乃香さんは発言する。
「まぁ、時間なんて対したことじゃないですよ」
「いや、そうじゃなくて」
「先輩。私たちの話なんですから間に入ってこないで下さい。これは決まったことなんですから」
「あぁそう。なら好きにしたら? 私は何が起こっても知らないから」
火乃香さんは怒ったように背を向けた。
「はい。決まり。航輔。場所と時間は追って言うから覚悟しなさい」
「覚悟することなのか?」
「当然。今にみていなさい」
こうして俺の細やかな休日は瑠衣に奪われようとしていた。
決まってしまったことは受け入れるしかない。
十二時間くらい対したこともないだろう。
そう、高を括る俺だったが、この約束が思わぬ方向へ動くことになる。
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