第13話 最高のサービス


「コウスケ様。コウスケ様!」


「ん。んん? うわぁ!」


 眼を覚ますと白髪頭の磯辺の顔があったことによりビックリして身を震わせた。


「い、いきなり何ですか!」


「おっと。そこまで驚かせるつもりはなかったのですが。それよりも大丈夫ですか?」


「な、何がですか」


「だいぶお眠りのようでしたので心配になって声を掛けに来ました」


「え? 今、何時だ?」


「六時です」


「何だ。まだ朝じゃないか」


「いえ、夜の六時です」


「え? 嘘だろ? じゃ、俺は半日以上も眠っていたのか?」


「そういうことになりますね。気分が優れなかったのですか?」


「いや、気分は凄くいい。頭がスッキリしている。ただ……」


「どうしました?」


 すると「グゥゥゥゥ」と俺の腹の虫が雄叫びを上げていた。


「お食事の用意でしたら出来ていますが、いかがなされますか?」


「すぐに持って来てくれ」


「かしこまりました」


 俺の部屋には次々と料理が運ばれて来た。

 相変わらず高級料理が並べられているが、俺は味が分からず空腹を晴らすための食事をしていた。


「フゥ。食った。食った」


「満足されましたか。コウスケ様」


「あぁ、もう大満足だ」


「それは良かった。それよりもコウスケ様。一つお聞きしたいことがあるのですが」


「何だ」


「昨夜、この部屋に不審者が入ったりしませんでしたか」


「ふ、不審者? いや、知らないけど」


 心当たりはバリバリあったが、俺は知らない風を装った。


「そうですか。監視カメラの回線が悪かったようですので。しかしコウスケ様に被害がないのでしたら良かったです」


「そ、そうか。単なる電波障害じゃないのか。一流ホテルに忍び込む人なんて早々いないと思うけど」


「えぇ、当ホテルのセキュリティは万全です。ネズミ一匹見逃しませんから」


 そう考えると昨日忍び込んで来た彼女の素性が気になるところだが、今となっては知るすべはない。


「ところで俺はいつまでここに居ればいいんだ。ホテルの中だと飽きるんだが」


「鈴蘭お嬢様のお戻りは明日の朝を予定しています。今晩の辛抱ですよ」


「そうは言われてもなぁ」


「コウスケ様は筋トレが趣味とか?」


「あぁ、筋トレは日々欠かせないからな」


「でしたら良いところを紹介しますよ。ついて来てもらえますか?」


 そう言われて俺は磯辺の後についていく。

 エレベーターは二階に止まった。


「さぁ、こちらです。コウスケ様だけの貸切ですよ」


「一体何があるって……」


 案内された場所はトレーニングジムである。

 最新の機材やマシンが並べられており、筋トレ好きの俺にとってそこはまるで楽園のように思えた。


「どうぞ。気が済むまで使って下さい」


「おぉ! すげー」


 俺は子供のようにはしゃいで色んなマシンを試した。

 気持ちのいい汗を流して爽快だった。


「凄いな。これならずっとここに住みたいくらいだ」


 休憩のため、シャワールームに向かった矢先である。

 何やら屋台のような一室があり、気になった俺は近づいてみる。


「いらっしゃいませ。疲れた身体にプロテインは如何ですか? バナナやチョコなど色んな味を取り揃えています。あなたの好みに合わせてカスタマイズだって可能ですよ」


 若い女性店員が笑顔で俺を出迎えた。

 そこは筋トレ好きが喜ぶようなプロテインなどを取り揃えた店だった。


「すみません。今、手持ちがなくて。また来ます」


「当ホテル宿泊の皆様は無料でお渡ししているんですよ。お一つどうですか?」


「え? 本当ですか」


「はい。何になさいますか?」


 まさかの無料と聞いた俺は必要以上にプロテインを注文していた。

 一流ホテルってやっぱりスケールが違いすぎる。

 一般市民の俺には理解しがたいことが次々と続いていた。

 こうして俺は一晩中、身体を痛めつけて気持ちの良い汗を流し続けた。

 そして疲れ切った俺は気絶するように再び眠りに着くことになる。


■■■■■

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