第12話 一日の終わり
身動きが取れない中、早乙女さんは徐々に迫ってくる。
「ストップ。ストップ。俺、マッサージもういいですから」
「そう遠慮せずにジッとしていて下さい。まぁ、動けないんですけどね」
上半身を脱がされて隠すものは何もない。
「凄い。見事なシックスパック。思った通り。普段から鍛えているんですか？」
「えぇ、日々筋トレは欠かせませんから」
「へぇ、それで。私、マッチョが好きなんですよね。コウスケさんはどんな女性が好みなんですか？」
「好み？ えっと清楚系といいますか……」
そう言いながら早乙女さんの手つきはやらしく俺の肌に触れる。
「清楚系ですか。私はどうですか？ 見た目は派手かもしれませんけど、中身は清楚なんですよ」
アピールが凄い。
「早乙女さん。一つ確認したいことがあるのですが」
「はい。なんでも答えますよ」
「早乙女さん。あなた、嘘を付いていますよね？」
「嘘ってどういうことですか？」
「そもそも整体師っていう話から嘘だと思います」
「そんな。どうしてそんなことを言うんすか？」
「マッサージを受けたことのない俺でもプロの整体師ではないって言うことは安易に想像できます。そう考えた時、一流ホテルなのにプロの整体師ではないと言うことは訳ありだと思ったんです。あなた、何者なんですか」
「なるほど。頭いいんですね。確かに私は整体師でもなければここの従業員でもない」
「従業員でもないって。ならどうやってここに入ったんですか」
「裏口からこっそりと」
「こっそりってここは一流ホテルですよ。こっそりで入れるほどセキュリティは甘くありませんよ」
「でも実際にここにいるわけですから」
一体、どうなっているんだ。
どう言う目的でここにいるんだ。俺はこの人にあるのは初めてだ。
俺が覚えていない線もあるかもしれないが、ここまでして接触させるほど何かしたわけではない。
「だ、誰か。助けて下さい。監視カメラで見ていませんか？」
「残念。監視カメラは既に私の手で回線を切っておきました。つまり誰もこの状況を知らないってことです」
抜かりがない。
「目的は？ あなたの目的はなんですか。俺にどうしてほしいんですか」
「目的？ 私はあなたの肌に触れたいだけだよ」
早乙女さんは俺の顎を撫でるように触る。
「俺には俺の目的があるんです。こんなところで好き勝手にされる訳にはいきません」
「そんなことを言っても私に好き勝手にされる以外にあなたの選択肢はないんだから」
グッと俺は全身に力を入れた。
「え？ まさか無理やりそこから脱出しようとしている？ 無理、無理。だってそれステンレス製だよ？ 人の力だけで壊れる訳……」
「うおおおぉぉぉ！」
バキバキ。バッキーンと両手の錠が外れた。
「う、嘘でしょ。あなた、本当に人間？」
「俺は人助けが趣味ですからこんな拘束程度で大人しくしていません」
「あ、あの。乱暴はやめて。何でも言うこと聞くから。ね？」
「なら一つ、言うことを聞いてくれますか？」
「な、何でしょう」
「今すぐこのホテルから出て行って下さい。勿論、誰にも見つからないように」
「通報しないんですか？」
「通報？ 何のために？」
「だって私はあなたに手荒なことをしようとした。それなのにこのまま何もなかったことにするんですか？」
「現状、俺に被害はなかったんです。それにあなたは別に悪い人じゃない」
「そんなの分かる訳……」
「分かります。俺の目は節穴じゃありませんから」
「あなた。本当に変わっているんですね」
「さぁ、早く誰かに見つかる前に逃げて」
「ありがとう。コウスケさん」
早乙女さんはスッと部屋から立ち去った。
無事に逃げ出すことを願いつつも結局、彼女は何者だったのか分からないままだった。
「はぁ、何だか疲れた」
俺は長旅の疲れもあり、その日はすぐに眠りに着くことができた。
俺の目的はあくまでも九条鈴蘭に直接会って冤罪を晴らす。
ただ、それだけだった。
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★★★で盛り上げて下さい。
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