第23話 訪問
意識が朦朧とする中、火乃香さんは俺に接近する。
「さぁ、目を閉じて楽にすると良いよ」
「それは聞けない相談ですね」
「え?」
俺は自分で自分の頬を殴った。
バコッと鈍い音と共に俺の意識はハッキリした。
「ちょ、航輔くん。何をしているの?」
「痛みで眠気をかき消しました」
「いくら何でもやりすぎでしょ」
「俺は助ける側になりたいんです。助けられる側になるのは間に合っています」
「助けられるって何を言っているの? 私はただ、航輔くんと楽しいことをしようとしていただけなのに」
「それはお互いの同意があって成り立つものです。今回は不成立ですので申し訳ない」
「航輔くんは私が嫌い?」
「好き嫌いっていう感情は特にありません」
「私はこんなに好きなのに」
その瞬間、火乃香さんの頬から涙が流れた。
「火乃香さん。お気持ちは嬉しいです。でも、俺には相手がいますから」
「分かった。じゃ、もう何も求めない。でも、私はいつでも好きだからね」
「ありがとうございます。そしてすみません」
こうして火乃香さんとの騒動は幕を閉じた。
最後まで諦めていないように見えたが、現段階では諦めてくれたようだ。
そして家に帰ると着信が入る。
すずちゃんからだ。
「もしもし」
『合格です』
「へ? 何のことですか?」
『よく断れました。流石、私のファーストキスを奪った相手なだけありますね』
「まさか見ていたんですか?」
『声だけ聞いていましたよ』
「盗聴器か何か仕掛けているってことですか?」
『そのまさか。いやぁ、コウくんが話に乗っていたら九条グループ全勢力を使って襲撃に行っていたところでした』
「そんなことしたら一瞬で嫌いになりますよ」
『冗談だよ。でも激しい嫉妬をしちゃうから注意が必要かな』
「盗聴器なんて野暮な真似はやめて下さい。俺はすずちゃんを大切にしますから」
『その言葉、嘘じゃないよね?』
「当たり前です」
『…………分かった。今回はその言葉を信じよう。だけど、裏切るようなことがあったらどんな手を使ってでも地球の果てまで追いかけるからそのつもりでお願いします』
「裏切らないよ」
『ありがとう。やっぱりコウくんは素晴らしい人だね。スマホカバーをめくって見て』
言われてスマホカバーを外すとプレート状の機械が入っていた。
『それ、私が仕掛けた盗聴器。もう不要だから捨てちゃっていいよ』
「こんなところにあったのか」
『それと嬉しいお知らせです。近々、一週間予定が空きそうなのでそっちで居候させてもらっていいかな?』
「え? 学校は? それに俺も仕事があったりしますので」
『学校は休むことになるけど、大丈夫。それに同居を味わいたいからちょっとだけ居させてよ。ね?』
可愛く、ね? と言われてしまえば断るに断れない。
「分かった。でも、あんまりおもてなしは出来ないと思うけど」
『おもてなしをするのは私の方だから気楽にして下さい。じゃ、楽しみにしていますね』
こうしてすずちゃんは俺の家に来ることになった。
「来るのはありがたいんだけど」
俺は自分の部屋を見渡す。
服は脱ぎっぱなし。ゴミは溜め放題。食器類の洗い物も山積み。
これではあのお嬢様を呼ぶにしてはあまりにも失礼ではないだろうか。
「よし。何とか片付けるか。女性を呼ぶ部屋として不衛生はもってのほかだしな」
俺は疲れた身体にムチを打って部屋の掃除を始めた。
いつ来ても大丈夫なように目に入るものは綺麗に心掛ける。
部屋の掃除を本格的に始めて数時間後。
「ピンポーン」と呼び鈴が鳴る。
時刻は二十一時。
こんな時間に誰だ? ネットで頼んで居たものが届いたのだろうか。
「はい」
扉を開けた俺は目に飛び込んで来た人物に度肝を抜く。
「ヤッホー。コウくん。来ちゃった」
何とそこには九条鈴蘭が立っていたのだ。
そっくりさんでも何でもない。本人だ。
え? え? え?
驚きのあまり、俺はしばらく声が出なかった。
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