第15話 感謝の気持ち


 俺はとある会議室に案内された。

 三十人以上が一度に座れるような広い空間に俺は隅の方に座る。


「コウスケ様。こちらで少しお待ち願いますか」


 と、磯辺は申し訳なさそうに言う。


「彼女は?」


「鈴蘭お嬢様はお色直しの為、別室に行きました。それまで今しばらくお待ちくださいませ」


 俺は部屋に一人残されて待つ羽目になる。

 特に暇つぶしが出来るものがないので俺はただスマホを弄る。

 待つこと十五分。

 ようやく扉のノックがされる。


「コウスケ様。お待たせしました。場所に移動をお願いできますか?」


「ん? ここじゃないのか?」


「すみません。鈴蘭お嬢様が動きたくないと申しますので」


 どれだけ面倒くさがりなんだ。

 まぁ、俺としてはどこであろうと問題はない。


「分かった。案内してくれ」


「はい。こちらになります」


 俺はエレベーターに乗せられてある階で降ろされる。


「ここは?」


「社員が共有で使えるリフレッシュルームになります。鈴蘭お嬢様は一番奥の個室におられます」


「そうか。じゃ、行ってくる」


 磯辺は見守るだけで特に同行する素振りはない。

 俺を信用していることには変わりないのだろうが、お嬢様を一人にさせてもいいのだろうか。それとも本人に止められているのかもしれない。


「ここか?」


 俺は案内された扉に向かってノックする。


「どうぞ」


 部屋の奥から声がする。

 部屋に入ると九条鈴蘭はマッサージチェアに深く腰を掛けて安らかな顔で上を向いていた。

 服装はジャージ姿であり、金持ちのお嬢様とは思えないくらいラフな格好をしている。


「気持ちいい。動けない」


 なるほど。動きたくないと言うのはこう言う意味だったのか。


「おい。九条鈴蘭。話をしようじゃないか」


「あぁ、そういえばそうだったわね。あなた、名前は?」


 本名を言ってもいいのか悩んだが、ここまで来て偽名を使うのはどうかと思う。俺は本名を言った。


「俺は雜賀航輔だ」


「年はいくつ?」


「十九歳だ」


「なるほど。私より二つも年上か。航輔だったら呼び名としてはコウくんかコウちゃんどっちがいいかな?」


「呼び名なんてどうでもいいよ。じゃ、コウくんにしようっと。よろしくね。コウくん」


 どうも調子が狂う。今のところずっと九条鈴蘭のペースに持っていかれている。まるで合コンのノリだ。これではいかん。


「九条鈴蘭。俺はお前に聞きたいことがある。どうして俺に懸賞金を掛けてまで探している? 俺はお前の何を盗んだって言うんだ。俺は何も盗んじゃないない。言い掛かりで俺を探し出すような真似は見過ごせない!」


 ビシッと指を差すが、差された本人は危機感が何もない。

 はぁ、と溜息を吐く始末だ。


「一度にあーだこーだ言わないでくれる? 私はあなたに大事なものを盗まれた。だからどんな手を使ってでも見つけ出そうとした。ただそれだけです」


「ただそれだけって意味が分からない。瀕死の状態を救い出した相手に対してこの仕打ちはあまりにも理不尽極まりない」


「あぁ、そういえば正式にまだ言っていなかったわね」


「……?」


 九条鈴蘭はマッサージチェアから立ち上がって俺の方へ歩を進めた。

 そして深々とお辞儀をした。


「あの時は私を助けてくれて本当にありがとうございました。あなたがいなければ私は今頃、海の藻屑になっていました。このご恩は一生忘れません」


 改めてお礼を言われたことにより、人の命を救ったことに対して誇らしげに思えた。

 これが俺のしたかった本当の人助けであったかもしれない。


「いや、当然のことをしたまでだよ」


 感謝の気持ちが深いのか、彼女は頭を下げたままである。


「もう分かったから頭を上げて」


 俺がそう言ったことでようやく彼女の頭は上がった。


「さて、お礼を言えたことですし、それとは別であなたには償ってもらうことがあります。それを今から説明しますね」


 急に顔つきが変わった九条鈴蘭は冷酷な表情を見せた。


「一体、何のことだよ」


「あなたが私から奪った大切なものですよ。その責任を取ってほしいんです」


「俺が君から奪ったもの?」


「そうです。それは


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