第10話 おもてなし①
一流ホテルを入った早々、俺は後ずさりをしてしまった。
未知の世界は勿論のことだが、それよりも圧倒的な出迎えの数で驚いてしまった。
「いらっしゃいませ」
通路を作るようにホテルマンがズラッと並んでお出迎えをされた。
まるで王様のように全員が俺に敬意を払うようにビシッとお辞儀をしていたのだ。
「コウスケ様ですね?」
一人のホテルマンに尋ねられて俺は「そうです」と答える。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
人間通路では全員「いらっしゃいませ」とずっと頭を下げている。
これが一流ホテルのおもてなしというものだろうか。
なんだか申し訳なく思ってしまう。
受付についても落ち着きはない。
「お待ちしておりました。コウスケ様。本日はご来店誠にありがとうございます」
「ど、どうも」
「本日お取りした部屋はVIP最上級一室をご用意しております」
なんだか凄そうな部屋である。
俺は部屋のキーを受け取ってエレベーターに案内される。
「コウスケ様のお部屋は最上階の一室全てです。何かありましたら遠慮なくもうして下さい」
「は、はぁ。ありがとうございます」
エレベーターに乗ってようやく一人になったことでホッと一息いれる。
「サービスはいいんだけど、あれだけ多くの人に敬意を払われると落ち着かないんだよな」
エレベーターが到着すると目の前には一つの扉しかない。
この階層の全てが俺の部屋とはそういう意味のようだ。
なんだか入るのが怖くなってくる。
キーを差し込むとロックが外れた。
その先に広がる空間は高級感漂うものがズラッと並んでいた。
金、金、金、金と全ての家具が黄金の作りになっていた。
「ぐ、ぐぉー! ま、眩しい!」
目のやり場に困るくらい金が眩しかった。
部屋の広さは勿論のことだが、全てが高級品であることから絶対に味わえない新鮮味があった。
「金の流し台ってどうなっているんだ。ここもこれも? トイレットペーパーまで金じゃないか!」
まるで子供のように俺は部屋の中にあるもの一つ一つにツッコミを入れながら楽しんでいた。
「一泊いくらするんだ。ここ。恐ろしいな。一流ホテルのVIPルームって」
部屋のものに見飽きた俺はキングベッドに転がりながら言う。
悪くない。だが、落ち着かない。
そんな感覚が俺を不安にさせていた。
「飯はどうしたらいいんだろう。えっと、ルームサービスはこれかな」
テーブルの上にあったメニュー表を取り出す。
スタッフの呼び出の仕方とサービス内容がズラッと並んでいる。
エステやマッサージなどプロが立ち会うと言う特権だ。
「すみません。何でもいいので何か食べるものが欲しいのですが」
電話でそう言うと「かしこまりました。少々お待ちください」と言われる。
それから十分ほどで次々と高級料理が部屋に運ばれてきた。
「どうぞ。ご堪能ください。後ほど片付けに参りますので」
並べられた料理は一人では食べきれないほど寿司やステーキ、キャビアなど高い食材が並ぶ、並ぶ。
「なるほど。これはこれでありだな。頂きます」
食べたいものを好きなだけ食べるスタイルで俺は無我夢中で高級料理をかぶり付いた。味わって食べると言うよりも空腹を満たすための食べ方で美味しいも不味いもないが、どれも食べたことのない味だった。
そんな時に俺の入る部屋に訪問者が現れた。
食器を下げにきたスタッフだろうか。
「失礼します。コウスケ様」
そこには短髪の金髪美少女が立っていた。
爆乳でとにかく可愛い女性である。
口の中に入っていたものを勢いよく飲み込んだ。
「ど、どうも」
「今夜は私がコウスケ様のお世話をさせて頂きます。どうかよろしくお願いします」と、深々とお辞儀をした。
「お、お世話?」
一流ホテルのおもてなしは一般人の俺には理解しがたいものばかりである。
「あ、まだ食事中でしたか。ここで待たせてもらってもよろしいですか?」
「別に構わないけど」
「ありがとうございます」
そう言って金髪美少女は壁沿いに突っ立ったまま静止していた。
「あの、そこでそんな風に待たれると気を使うんだけど」
「そうですか。ではどのように待てばよろしいでしょうか」
「えっと、適当に楽にしてもらっていいですか?」
「はい。かしこまりました」
そう言って金髪美少女はソファーに寝っ転がった。自由すぎないか?
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