第35話 大食い少女
「雑賀さん。もしかして」
「はい。そのまさかかもしれません」
これ以上、俺は食べ物を口へ運ぶ行為を拒否してしまっている。
限界だった。
「私は元々少食なところもあるのでこれ以上は食べられませんね」
「ということは……」
この量を余らせるということだ。
それはちょっと勿体ない。
「はぁ、実は鍋以外にも焼肉パーティや焼きそばパーティを想定していたんでですが、それはできそうにありませんね」
「まだあるの?」
「はい。デザートやおやつも充実しています。日持ちするものはいいとして今日食べないと痛みそうなやつはまだあります」
そう言って火乃香さんは冷蔵庫を見せてくれた。
揚げ物や惣菜、寿司、ファーストフードのテイクアウト品など大人数でパーティでもするのかと思うような量が並んでいた。とても俺一人では処理しきれない量である。
「いくら何でも買いすぎでは?」
「はい。私も買ってから思いました。自分が空腹だと食べられそうな気がするのは何故でしょうね」
「やらかしましたね」
「どうしましょうか」
「そんな無理しなくて大丈夫ですよ」
「うーん。少し休憩すれば食べられるようになりますから一旦休憩します」
「そんな無理しなくて大丈夫ですよ」
「でも残すわけには」
「私が次の日に食べます。全部は消化できないので捨てる食材もあるかもしれませんが」
「それはダメです」
俺は猛反対した。食材を食べずに捨てる行為は俺のプライドが許さなかった。
だが、満腹という限界を覆すことはできないのも事実。
ここまでか。
「うーん。こうなったら奥の手を使いましょう」
「奥の手?」
そう言って火乃香さんはスマホをぽちぽちと操作する。
「お、都合が付きましたね」
「都合?」
「今から友人がここに来てくれるって。その人、大食いなのですぐに片付きますよ」
「大食いって言っても一人来たくらいじゃ減らないと思いますけど」
「多分、無くなりますよ」
その自信は何だ? どんな大食い野郎が来るのか。
たまたま近くにいるらしく十分ほどでその人物は火乃香さんの家に来た。
「お邪魔します」
現れたのは黒髪セミロングで小柄な女性だった。
大柄な男が来るかと思ったら全くイメージと違った。
「こちら
「こんばんは。黒宮瑠衣です」
「雑賀航輔です。火乃香さんの隣人です」
「イケメン……」
「え?」
「肌黒のマッチョさん。先輩の彼氏候補ですか?」
ニヤニヤしながら彼女は火乃香さんに肘で小突く。
「いや、私は振られた身だから。それに彼、彼女さん居ますから」
「彼女が居て女の家に? これは危険な匂いがしますね」
「雑賀さんは隣人付き合いですからいいんです。あまり追求しないでよ。瑠衣ちゃん」
大人しい見た目とは裏腹にグイグイと人間関係に迫る黒宮瑠衣。
何だかまた変な子が現れたと思う。
「あの、それよりも」と、俺は火乃香さんに声を掛ける。
「あ、そうでしたね。瑠衣ちゃん。お腹空いてない?」
「ペコペコです。今日はハードスケジュールだったので全然食べていないんですよ」
「それはグッとタイミングだ。実は私たちでは食べきれない量を消費してもらいたい」
「鍋ですか。取り皿とお箸をもらっていいですか?」
「はい。どうぞ」
正座をして礼儀正しく身構えると黒宮瑠衣の目つきが変わった。
「いただきます」
食べ方は綺麗で食事マナーが出来ていることが窺える。
ただ、その速さが異常である。
みるみるうちに鍋の中身は減っていく。ものの数分で鍋の中身は空っぽだ。
「美味しいです。他に何かありますか?」
「ちょっと待ってね」
火乃香さんは冷蔵庫から次々と食べ物をテーブルに並べる。
鍋は完食できてもこの量を一人で食べることは不可能だろう。
「美味しそうですね。本当に全部食べちゃっていいんですか?」
「どうぞ。どうぞ」
「では遠慮なく」
そこから黒宮瑠衣の無双が始まった。俺は終始、その食べっぷりを眺めて居た。
「嘘……だろ?」
彼女はただの小柄な女性ではない。とんでもない胃袋を持つ大食いだった。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
新キャラより鈴蘭出せと聞こえてきそうですが、こっちもありですよね?
★★★をよろしくお願いします!
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