第26話 救助


 燃え盛る黒煙を目に俺は抑えきれない気持ちが滲み出ていた。

 もう居ても立っても居られない。


「クッ! すずちゃん。ここから離れないで」


「離れないでってコウくん? どこに行くつもり?」


「助けに行かなきゃ」


「バカな行動はやめて。死んじゃったらどうするつもり?」


「それで死ぬなら本望さ。俺は誰かの命を救うためにいるんだ」


「ちょっ! コウくん? 待って。行かないで」


 すずちゃんの静止を押し切って俺は再びホテル内へ飛び込んだ。

 逃げ遅れた人がいるなら全員助けたい。

 その気持ちを前に俺は階段を駆け上がった。

 助けを求めていた人は確か四階の中央だ。

 二階までは順調に進むことができたが、三階のフロアに入ると煙が充満していた。


「くそ。この上に助けを待っている人がいるのに。こうなったら強行突破だ」


 俺は水を身体にぶっ掛けて四階へ駆け上がった。

 四階では既に火の海となっていた。


「誰か! 誰か助けて」


 微かに女性の助けを求める声が聞こえた。

 どこだ? どこにいる?

 俺は声を頼りにゆっくりと進む。


「この部屋か」


 立ち止まった部屋の奥から聞こえた気がした。

 俺はドアノブを捻ろうとしたがドアノブは高温に熱されていた。


「あちちっ! これじゃ開けられない」


 こうしている間にも中の人が危険に晒されている。

 俺はドアから少し離れて全力で体当たりをした。


「おらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!」


 一発目ではビクともしない。

 続けて俺は二発目、三発目と体当たりを繰り返した。

 そして五発目の体当たりで扉は打ち破られた。


「はぁ、はぁ、はぁ。大丈夫ですか? 誰か」


 部屋には火の手が回っている。

 そして窓辺の隅にポツンと一人の少女が体育座りで佇んでいた。


「君! 大丈夫? 他に誰かいますか?」


 そう、呼びかけると少女は首を横に振る。

 どうやら一人だけ逃げ遅れた様子だった。


「立てる? 一緒に逃げよう」


「無理。手足が震えてうまく立てないようおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ」


 鳴き声で少女は訴える。実際に足が震えてまともに立てないのは明白だ。

 だが、時間は待ってくれない。こうしている間にも火の手は迫りつつある。


「乗って。俺が背負って行く」


「で、でも」


「早く。手遅れになる前に」


「はい」


 少女を背中で担いで俺は立ち上がった。

 来た道は既に火の海だ。逃げ場はない。


「息を大きく吸って。止めて! 強引に突破するぞ」


 俺は火の海に向かって飛び込んだ。

 多少の火傷は仕方がない。今は命優先だ。

 部屋を抜け出すと廊下も火の手が回っていた。

 暑い。熱い。焼き死にそうだ。だが、こんなところで死ねるか。

 この子を必ず助け出す。それまでは死んでたまるか。


「くそ。このままじゃ焼け死ぬ。突っ走るしかない」


 俺は背中に抱える少女に火が当たらないように足を踏み込んだ。


「行くぞ。歯を食いしばれ!」


「は、はい!」


「行くぞ。うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」


 全力で火の海に飛び込んだ。

 階段を一気に駆け下りて下へ下へと進む。

 もう少しだ。息が続くうちに早く脱出しないと。


 バコーン!


 正面出入り口に差し掛かったところで俺はその場で崩れ落ちた。


「くそ! もう少しなのに」


 火の海は脱出した。だが、ここにいると煙を吸い込んでしまう。

 既に俺は煙を吸い込み過ぎていた。


「もう、ダメだ」


「大丈夫ですか」


 その時である。


 数人の消防隊が俺の前に駆け寄って来た。

 どうやら間に合ったようだな。俺の役目はこれで終わりだ。


「助かっ……たのか」


「大丈夫ですか。もしもし。聞こえますか。おい。しっかりしろ」


 消防隊員に呼びかけられるが、俺は反応が出来なかった。

 意識はなくなり、現実なのか夢なのか分からない中、俺は眠るように気絶した。


 

■■■■■

※死んでないです。


★★★で勇気付けて下さい!

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