第27話 入院
「……………………」
ボケッと俺はうっすらと目を開けた。
あれ? ここ、俺の部屋じゃないよな。どこだよ。
身体を起こそうとしたその時である。
「いててててっ! な、なんだこれ」
俺は身体の異変を感じた。
手足には包帯が巻かれており、まるでミイラである。
個室に消毒液の匂いからしてここはどうやら病院のようだ。
「そっか。俺、火事の中に飛び込んだのか」
現実に戻った俺はどうしたらいいのか分からずとりあえずナースコールを押した。
すぐに看護士さんが部屋に入ってくる。
「あ、雑賀さん。起きられたんですね」
俺とそんなに歳が変わらない女性看護士は心配の眼差しで言う。
「はい。俺、今どう言う状況ですか?」
「二日間も眠っていたんですよ」
「二日も? こうしちゃいられない」
ガバッと起き上がり痛みが伝わる。
「あぁ、まだ起きちゃダメですよ。しばらく安静して下さい。怪我人なんですから」
「俺の身体、どうなっているんですか?」
「脳への障害はありません。身体には火傷や擦り傷がありますが、安静にしていればちゃんと治りますよ」
「そうですか。どれくらいの入院が必要ですか?」
「そうですね。一週間から二週間は見てもらった方がいいです」
「そんなに? 職場に連絡しないと。それに入院費だって払えるかどうかも心配だ」
「あぁ、その必要はないですよ。彼女さんが全部やってくれましたから」
「彼女?」
「九条って人です。高校生くらいの人で結構しっかりした子でしたよ。手紙も預かっています」
「手紙?」
俺は手紙を受け取ると中身を確認した。
女子特有の丸文字が気になったが、今はスルーしようと思う。
『コウくんへ
ヤッホー。気分はどうかな? 目覚めたタイミングで私がいないことにガッカリさせてしまってごめんなさい。本当は目が覚めるまで昼夜問わず、ずっと横に居たかったんだけど、急な用事で戻ることになりました。残念。また時間ができればすぐに飛んで行きます。(文字通りに)ちなみに職場連絡や入院費等々は済ませておいたのでご安心ください。また会える日を楽しみにしています。早く元気になってくださいね。そしてまたこの間の続きが出来ることを楽しみにしています。愛しい愛しい彼女より。
PS:人助けの為に飛び込んでいく姿は格好良かったけど、もう少し自分の命を大切にして下さい。次、同じようなことをしましたら許しませんからね。あなたの命はあなただけのものではないのですから。これを読んだらすぐに安否確認のため、連絡を入れること。以上。九条鈴蘭』
字が可愛いが文としては真っ当であることに俺は悪びれる感情が湧き上がった。確かに自分都合で勝手に動いてしまったことには申し訳なく思う。
「早く連絡入れないとまた怒られるぞ。俺のスマホは……」
近くに見当たらない。
身体も思うように動かないし、またタイミングをみて連絡すればいいか。
「看護士さん。いや、山際さん」
俺は首から下げている名札を見て名前を呼んだ。
「はい」
「申し訳ないんですけど、何か食べるものはありますか? 腹が減って死にそうなんです」
「分かりました。病院食持って来ますのでお待ちください。その前に血圧を測らせてもらっていいですか?」
「はい」
山際さんが俺の手足となって日常生活の補助をしてくれた。
なんだか情けなく思うが、俺もまだまだ鍛えが足りないようだ。
いや、あの場面では鍛えどうこうの問題でもないか。
空腹を満たしてある程度、落ち着いた頃である。
俺の所有物は別のところに保管されており、スマホもその中である。
「電話するのが怖いな。メールでいいかな。すずちゃん忙しそうだし」
俺は『起きました』と一言だけメッセージを送る。
その直後、すぐに既読がついて着信が入った。
「反応はやっ! てか、電話か」
恐れながらも俺は通話ボタンを押した。
『コウくうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううぅぅぅん。大丈夫ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううぅぅぅ!!!!!』
キーンと耳に響いたが、それほど俺は彼女に心配を掛けたようだ。
それから俺は今の状態など伝えた。
電話を切らせてくれないまま一時間が経過していた。
それでも彼女の声が聞こえただけでも俺は嬉しかった。
この幸せを断ち切ってはいけない。そう、強く思った瞬間でもあった。
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