第5話 出発
九条グループから出された俺に関する情報はネットを通して拡散されていた。
九条グループのトップである代表取締役社長・九条晶の一人娘から大事なものを奪ったとして世間は俺に注目を集めていた。
黒髪の短髪。肌黒の細マッチョ。爽やか系で歯が白い。
身長は百八十センチから百八十五センチ程度。
年齢は十七歳から二十二歳の間。
極め付けに左手の甲にホクロがあると言う情報が出回っているのだ。
全て俺の特徴と一致していた。
おそらくこの情報は俺が九条鈴蘭の救助に居合わせた人間によるものに違いない。
「まいったな」
プロの似顔絵師を雇ったのか。俺の似顔絵像まで出回る事態に発展していた。
その似顔絵が妙に似すぎていたのだ。これではいつ俺に辿り着いてしまうか、時間の問題である。
「雜賀。この際、自首をしたらどうだ」
悩む俺に対して先輩は肩に手を置く。
「自首って俺、犯罪者みたいじゃないですか」
「実際、そんなもんだろ。警察が動いている訳じゃないが、このニュースを見た債務者は懸賞金欲しさに通報するだろう。そうなればどのみちお前に逃げ道なんてないさ。諦めろ」
「納得いきませんよ。人助けをしたのにどうしてこんな仕打ちを受けないといけないんですか」
「まぁ、そう思う気持ちも分からなくもない。だったら一層、自首をして真実を確かめてみてもいいんじゃないのか? 何も奪っていないんだろ?」
「奪っていません。でも自首したとして俺、本当に彼女から何かを奪ったんだとしたら社会的にも抹殺されてしまいます。相手は九条グループですから」
「俺がしてやれることは相談に乗ることと匿うことくらいだ。あとはお前次第だ」
「先輩。九条グループや賞金欲しさの債務者の目を掻い潜って九条鈴蘭に近付く方法ってないですか?」
「お前、何を考えている?」
「本人から何を奪われたのか確かめに行きます」
「バカ。本人まで会える訳ないだろ。相手はお嬢様なんだぞ。会う前に捕まっちまう」
「でも、俺、納得できません。理由も知らずに指名手配までされて黙って入られませんよ」
「その正義感はどこから出るんだよ。お前みたいな一般人が有名人に会える訳ないだろ。それだったら自首した方が早い」
「自首じゃ、俺が犯罪者だって認めているようなものじゃないですか。俺は絶対に嫌ですからね」
俺はヘソを曲げなかった。
絶対に誤解を解きたい。そんな思いが強かった。
「はぁ。しょうがねぇやつだな。だったら協力してやるよ」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、但し乗り込むのはごめんだ。目的地まで付き合うってだけだ」
「充分です。先輩、ありがとうございます」
「後輩の一大事だ。一肌脱いでやるよ。それでいつ行くんだ?」
「一刻も早く行きたいです。出来れば明日とか」
「明日って仕事はどうするんだよ。急に休めないだろ」
「休んだところでゴミ拾いしかすることないじゃないですか。そんなこといつでも出来ます」
「お前、それ上司に聞かれたら怒られるぞ」
「とにかく時間がないんです。今すぐ誤解を解かないと俺は捕まってしまう」
「確かにこの件は早く解決しないと仕事にも支障が出るだろうな。分かった。休暇を取って行くか。俺も付き合うぜ」
「え? 先輩も休暇を取ってくれるんですか?」
「付き合うって言っただろ。それとも迷惑だったか?」
「いえ。助かります」
「とは言っても理由をどうするかだな。二人一緒に休むのは怪しまれるだろうし、お前はまだ有給なんてないだろ」
「仕事や金のことなんて今はどうでもいいです。俺の誤解を解くのが先です」
「分かったよ。ならそれっぽい理由を考えてくれ」
「九条グループに乗り込むっていう理由でどうですか?」
「馬鹿正直か? お前、そんなことで通ると思うなよ。真面目に考えろ」
俺は友人の結婚式に。先輩は親戚の命日に。嘘を付くのは心苦しかったが、事情を正直に言えないため仕方がない。
俺と先輩は有給申請をして翌日、出発をすることになる。早朝五時。
先輩に選んでもらった変装グッズを身に付けて先輩の迎えを待っていた。
一台の車が駐車場に止まったことで運転席の窓がゆっくり開く。
「よう。雜賀。迎えに来てやったぞ」
「せ、先輩。その車、どうしたんですか」
先輩が乗り付けた車は黒塗りのスポーツカーである。しかもオープンカー。
「俺、昔から車が好きでさ。最近、五年ローンで買ったんだ」
車はカッコイイのだが、所有者が猿顔のチビ男というギャップがアンバランスだった。俺だったら絶対に乗らない。
体格のいい俺はスポーツカーという狭い座席に乗るのに苦労した。
「さぁ、行こうか。九条グループの本拠地へ」と、どちらかと言えば先輩の方がノリノリだった。
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★★★を下さいましっ!
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