第6話 本拠地へ


「それにしてもお前、凄い格好だな」と先輩は俺の服装を指摘した。


 茶髪のパーマのカツラにサングラスにマスク。

 アロハシャツに短パンのジーンズ。その他に腕や首にチャラチャラしたアクセサリーを身に付けており、完全に遊び人というような格好をしていた。


「俺だってこんな格好は嫌ですよ。でも正体を隠すためなら仕方ありません」


「俺が選んで言うのも変だが、そっちの方が逆に目立つな」


「先輩のセンスが悪いと思っておきます」


「俺のせいかよ。ところでどこに向かって走ればいいんだ?」


「とりあえずA県まで行って下さい。そこに九条グループの本拠地である本社があります」


「A県か。ここからどれくらい掛かるかな。今日中に辿り着ければいいけど」


「マップアプリで見ると車で六時間くらいの距離です。昼過ぎには着くと思います」


「運転する俺の負担も考えろよ。長時間の運転は辛いんだぞ?」


「すみません。俺が免許を持っていないばかりに。小型船舶免許や水上バイクの免許などは持っているんですけど」


「順番が逆だ。早く教習所に通えよ。社会人として必須の資格なんだから」


「はい。そのうち行きます」


 そこから先輩はぶっ通しで高速道路を走らせた。

 休憩を挟みながら目的地まで残り僅か。


「あ、先輩。九条グループの公式サイトに追加で動画がアップされています」


「そうか。どんな内容だ?」


「再生してみますね」


 俺は最新のアップ動画を再生した。

 映し出された人物は九条鈴蘭ではなくスーツを着た白髪の男性だった。

 この人は確か事故の現場で俺が最初に救助した男性である。

 男性は深々とお辞儀をして語り出す。


『皆様。どうも初めまして。私は九条グループの執事をしております。磯辺と申します。先日、九条鈴蘭お嬢様からの通達でご協力して下さった皆様には私が代表して感謝を伝えさせて頂きます。本当にありがとうございました。これまで何百件ととある男性の情報の提供が相次ぎますが、どれも本人に繋がる有力な手掛かりにはなりませんでした。現状、男性に辿り着くまでには至りません。悪戯やガセの情報もあるため、本部の人間は苦労しております。そこでお嬢様から一つの決断を致しましたので私が代表してお伝えさせて頂きます』


 注目して動画を見ると磯辺という男性から俺の似顔絵画像が映し出された。

 懸賞金百万円という文字が『×』と表示されて新たな金額が発表される。


『えー。この度、この男性に繋がる情報を提供してくれた方には五倍の五百万円を差し出す決断に至りました。皆様の情報をお待ちしております。連絡先はこちらになっておりますのでお掛け下さいますようお願い申し上げます』


 磯辺のお辞儀で動画は終わった。


「ご、五百万円って」


「ご、ご、ご、五百万?」


 俺よりも先輩の方が動揺していた。

 その証拠にハンドルを持つ手が大きく震えて蛇行運転になっていた。


「せ、先輩。ちゃんと運転して下さい」


「わ、悪い。それよりも」


「はい。九条グループは何としても俺を見つけ出そうと必死のようですね」


「だな。その本人が自ら本拠地に乗り込もうとしているんだから向こうも混乱するだろうな」


「でも、不思議ですね。そこまで大金を支払ってまで俺を見つけ出す価値があるのか疑問です」


「それは九条鈴蘭にしか分からない。だから直接本人に聞くんだろ?」


「はい。そのつもりです」


「ところで雜賀。俺は目的地までの同行だが、その先のことは考えているのか?」


「まぁ、色々考えていますよ」


「色々って何だよ」


「それは秘密です」


「無鉄砲に突っ込むつもりじゃないだろうな?」


「ちゃんと裏口から入りますよ」


「セキュリティー考えろよ。そんなうまくいくわけないだろ」


「まぁ、何とかしますって」


「それが心配なんだよ」


 九条グループの本社は都内の中心地である一等地に構えている。

 そこに九条鈴蘭本人がいるとは限らないが、少なくともそこに行けば何かしらの情報が得られるかもしれない。

 そして一般人が入れる手前まで俺は本拠地に辿り着いた。


「で、でけぇ。何階建て何だ」


「三十以上ありますね。てか、このビルの建物全てが九条グループの所有地って考えると恐ろしいですね」


 都内でも一番高いビルとしても有名な九条グループの本社ビル。

 ここに何かしらの手掛かりがあると考えるとスケールが大きく感じた。


「俺はこの辺で時間を潰すけど、本当の雜賀一人で大丈夫なのか?」


「はい。先輩は俺が捕まらないことを祈って下さい」


「お、おう。幸運を祈るよ」


 そう言って先輩はその場を去っていく。

 後は俺の力で誤解を解く。


「さて。行くか。待っていろよ。九条鈴蘭」


 俺は目の前の九条グループ本社ビルに向けて歩き出した。


■■■■■

★★★パワーを私に下さい。

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