第7話 接触①
自動ドアを潜り抜けて俺は本社ビルの正面から来客者用の受付に向かう。
「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」
受付の若い女性は笑顔で聞いてきた。
「いえ。していません」
「えっと、本日はどういったご用件でしょうか?」
「
「えっと、彼女に会うのはアポを取る必要があります」
「じゃ、アポを取ってくれ。大至急で」
迷いもなく答える俺に対して受付の女性は少し苦笑いしていた。
「急いでいるんだ。早くしてくれ」
「あの、申し訳無いのですが、お客様はどういう方ですか? 一般の方はお会いすることができないのですが?」
「お、俺か? 俺はその、見ての通りだ」
受付の女性は俺の姿を下から上まで見上げて納得したように口を尖らした。
「あの、失礼かと思いますが、あなたのような遊び人がお嬢様に会う資格はありません。お引き取り下さい」
俺の見た目はどこからどうみても遊び人しか見えない。
そう言われるのも無理はなかった。変装がまさに遊び人だ。
「俺はどうしても彼女に会わなきゃいけないんだ。頼む! 会わせてくれ」
「ですからお引き取り下さい」
「そういう訳にはいかないんだ」
「だ、誰か!」
次の瞬間である。数人の警備員が俺の周りに群がった。
「な、何だよ。お前ら」
「不審者を発見。摘み出せ!」
「「「はっ!」」」
俺は四人掛かりで取り押さえられる。
「や、辞めろ!」
「お引き取り願います」
ほぼ強制的に俺は両腕を掴まれてビルの正面から外へ摘み出された。
「いて! なんて手荒なんだ。ここの連中は!」
俺の文句は空に向けて響くが、警備員たちは既にビルの中へ入って聞いてはいない。
手荒な仕打ちを受けた俺はビルの外で呆然とした。
「なるほど。やはり正面からの突破は不可能ってことか。分かってはいたが」
九条鈴蘭に会うのは簡単ではないことを悟った。
こうなってしまえば正面からの突破は現実的ではない。
そもそもここに本人がいる確証もない。
そんな時だ。悩む俺の前に一台の高級外車が停車した。
運転席から白髪の男性が降りるとすぐに後部座席に回り込み、ドアを開ける。
そこから降りてきた女性に目線が向く。
学生服を着た九条鈴蘭だ。全ての偶然が今、重なった。
「九条鈴蘭。見つけた」
見た目は大人びていたが、学生服を着ているということは少なくとも高校生であり、俺より歳下と考えられる。
「鈴蘭お嬢様。どうぞ。お父様が社長室でお待ちです」
「うん。ありがとう。
気品のある立ち振る舞い。高校生とは思えないほど上品に見えた。
彼女が俺に懸賞金を掛けた張本人だ。
このチャンスを見過ごす訳にはいかない。
彼女に接触しようとしたその時だ。
「鈴蘭様! サインを下さい」
「鈴蘭様。こっちを向いて下さい」
「きゃー。あれが鈴蘭様? 可愛い」
彼女を目当てにしていた男女問わず、一気に波が押し寄せた。
目的はそれぞれ違うが、彼女目当ての人は大多数を占めた。
警備員に守られながら九条鈴蘭はビルの中へ向かう。
その間も彼女目当ての人は周囲を押し寄せた。
「偉い人気だな」
俺程度の一般人が簡単に接触できる相手ではなかった。
近付くだけでも容易ではない。それでも俺は何としても彼女に近づかなくてはならない。
全てはあらぬ濡れ衣を晴らさなくてはならないのだから。
「このままでは絶対に終われないからな」
俺は彼女目当ての野次馬を退けながら前へ前へとなぎ倒すように進む。
警備員のガードする手前まで来た俺は九条鈴蘭の後ろ姿に向けて叫んだ。
「九条鈴蘭。待ってくれ! 俺はお前に会いに来た!」
周囲に響く声で九条鈴蘭は振り向いた。
その間にも警備員は俺を抑え込む。
「またお前か。いい加減にしろ!」
「ぐっ!」
再び俺は数人掛かりで押さえつけられてしまう。
それでも構わず俺は叫んだ。
「九条鈴蘭。あんたが探している男性というのは俺だ! 話をしようじゃないか。今ここで!」
そう、叫ぶと九条鈴蘭はジッと俺を直視した。
「確かに私はとある男性を探していますが、少なくともあなたのような遊び人を探していません。その男を摘み出して」
変装していることが仇となり、俺は再び追放されることになった。
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