第4話 変装
「捕まえた。百万円」と、先輩はニヤニヤと手の力を強めた。
「先輩。冗談ですよね? これ、何かのドッキリでしょ?」
「九条グループの公式ページで公言しているんだ。冗談な訳あるか。お前、彼女から何を奪ったんだよ」
「俺は何も奪っていません。誤解です」
「まぁ、お前がそう言っても本人が奪われたって言っているんだから言い逃れできないぞ」
先輩はグッと俺を逃さないように腕を掴んだ。
「ちょ、先輩。放して下さいよ」
「いいから来い。百万円」
最早、名前ではなくお金呼ばわりをされてしまう。
「先輩。金で俺を売るつもりですか。見損ないましたよ。先輩が金で動く人だったなんて」
「人聞きの悪いことを言うな。俺は九条グループに貢献しようとだな」
「先輩。俺がそんな悪い人間に見えますか? 一番近くで見ていた先輩が他人の発言を信じるって言うんですか?」
「わ、分かった。悪かったよ。お前はそんな悪い人間じゃない。俺が保証する」
「もし先輩が金で動く人間だったら俺は一生先輩を恨みますから」
「もうしないって。それよりどうするんだ。お前は悪いことはしないが、周りはお前のことを見つけ出そうと隈なく探していると思うぞ」
「確かにこのままではまずいですね。どうしましょう」
「とりあえず姿を隠した方がいい」
「隠すって言ってもどうしたら。田舎に逃げるんですか?」
「数ヶ月身を隠せば世間もお前のことなんて忘れるよ」
「でも、俺には仕事が。休むわけにはいきませんよ」
「そういうところは真面目だな。なら俺にいい考えがある」
「いい考え?」
俺は先輩の考えに乗ることになる。
先輩こと
猿顔で背の低いことがコンプレックスである。
だが、人当たりが良く真面目で誰とでも親しくなれる要素を兼ねそろえていた。俺も喋りやすい先輩として仲良くさせてもらっている。
そんな俺は正体を隠すために連れて来られた場所はとある古着屋である。
「いらっしゃいませ。あ、また来た」
「よう! 亜美ちゃん」
先輩は女性店員と親しそうに挨拶を交わす。昔からの知り合いだろうか。
「先輩。知り合いですか?」
「あぁ、高校の同級生なんだよ。
「ねぇ、おさる。その横にいるイケメンは誰?」
「あぁ、俺の後輩の雜賀だよ。イケメンって」
先輩はおさると言われているのか。まぁ、見た目通りである。
「初めまして。安井亜美です。今日はゆっくりしていって下さいね」
俺は安井さんにギュッと手を握られた。
「ど、どうも。雜賀航輔です。よろしくお願いします」
ボサボサの髪に丸メガネで化粧っけが無い女性だが、ちゃんとしたら間違いなく美人さんであることは想像できる。
「ところで今日は何をお求めで?」
「あぁ、こいつに……」
「あんたは黙っていて」
「は、はい」
先輩への扱いが酷い。まぁ、ある意味関係が築けているこそのものであろう。
「えっと、何か顔を隠せるようなアイテムがあればと」
「顔を隠すって勿体無い。せっかくのイケメンなのに。そのままでいいと思いますよ」
「いや、まぁ。少し事情がありまして」
「事情って何か顔を隠すような事情でも?」
「いや、えっと……」
安井さんはジッと俺の顔を見つめる。
まずい。俺が指名手配をされていると分かってしまうと面倒なことになる。
俺は咄嗟に近くの棚にあったサングラスを付けた。
「うわ。これカッコイイですね。に、似合いますかね?」
「私は素のままが似合うと思うよ。ところでどこかで見たような気が……」
全然誤魔化せていなかった。
思い出そうとジッと俺の顔を見る。
「うーん。忘れちゃった」
ホッと俺は安堵して買い物を続ける。
サングラス、カツラ、アクセサリーなど今までの自分とは思えない姿になった。
「なかなか似合っているじゃないか。これでどこからどう見ても雜賀なんて分からないさ」
変装した俺の姿を見て先輩は満足そうに言う。
確かにこれなら俺とは誰も分からない。まるで今までの自分とは違い、新しい自分のようである。ダサい姿であるが、冤罪で捕まるのはごめんだ。
しばらくこの姿でやり過ごそうと決めた。よし。この姿なら仕事だって……。
そこで俺はある重要な欠点に気づいてしまう。
「先輩。街中を歩くにはこれでいいと思うんですが、仕事だと普段、水着ですよね? こんな格好では仕事になりませんよ」
「………………ドンマイ」と、先輩は諦めるように呟いた。
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