第3話 とあるニュース
「全く! 雜賀。どういうつもりだ」
「す、すみません」
俺は本部に呼び出されて部長から先輩と共に怒られていた。
その理由は歴然である。
「いくら目の前に事故が起こったからと言って上司の判断を無視して突っ走るバカがあるか。もしお前まで何かあったらどうするつもりだ」
「はい。本当にすみませんでした。でも、一刻も早く助けなきゃと思いまして」
「でもじゃない。緊急事態でも勝手な判断をされたら困るって言っているんだ」
「はい。次から気をつけます」
「頼むぞ。本当に。だが、よくやった。一人の命を救ったそうじゃないか。この調子で頑張るんだぞ」
「は、はい! ありがとうございます」
説教が終わった俺は現場作業に戻る。
「全く。俺まで大目玉を食ったじゃないか」
「すみません。先輩。俺の勝手な判断で」
「もういいよ。済んだ話だ。それよりもお前が助けた人だが……。そのどうだった?」
「えぇ。ちゃんと病院に運ばれて無事だったと聞いています」
「いや、そうじゃなくて」
「はい?」
「その、凄い美少女だったらしいじゃないか。その後、連絡先は交換したのか?」
「確かに美少女でしたが、連絡先なんて交換していません。名前すら名乗りませんでしたよ」
「はぁ? 何だよ。勿体無いな。せっかく美少女だっていうのに」
「別に美少女だから助けた訳じゃありません。俺が誰かを助けたいって思ったから助けたんです」
「でも美少女だったらワンチャンさぁ」
「先輩。まさかそんな下心を持ちながらライフセーバーをしているんですか?」
俺は呆れた目で先輩を見た。
「ば、ばか。そんなんじゃねぇし。あわよくば仲良くなれたらなぁって一ミリも考えていないし!」
絶対に考えている。ガッツリと。
「そうですか。へぇ。そういうことにしておきます」と、俺は無感情で返事をする。
「あ、それは思っていないな。いいだろ。男ならそういう妄想を持っても」
「まぁ、否定はしませんけど、俺は困っている人は皆救いたい。そういう思いで常に行動しているんです。先輩と一緒にしないで下さい」
俺はキッパリと言い放った。
先輩は面白く無いと口を曲げていたが、俺はそれ以上何も言わなかった。
それから数日後のことである。
俺はあるニュースを小耳に挟むことになる。
「おい。雜賀。大変だ」
先輩が慌ただしく俺に駆け寄ってきた。
「どうしましたか?」
「どうしましたかじゃない。これを見ろ」
先輩はスマホを差し出す。
「先輩。業務中にスマホの持ち込みは厳禁ですよ」
「いいからこれを見ろ!」
何事かと思い、俺はスマホ画面の動画を見る。
「これって……」
動画には俺が先日、人命救助で助けた美少女が映し出されていた。
「この子」
「お前が助けた子はとんでもない有名人だよ。九条鈴蘭。九条財閥の一人娘だよ」
「九条財閥って?」
「九条グループを知らないのかよ。数々の娯楽施設を運営する有名企業じゃないか。テーマパークと言えば九条グループがあってこそのものだ」
「先輩詳しいですね」
「一般常識だよ。何で知らないんだよ」
「すみません。世間知らずで。それよりもそれが一体、何だっていうんですか?」
「ここからが肝心だ。動画の続きを見てくれ」
動画の出だしは九条鈴蘭がお辞儀することから始まった。
『どうも。私は九条財閥の九条鈴蘭です。先日、私は不慮の事故で死にかけました。ですが、一人の男性により懸命な救助により私は今、こうして立っています。その男性は名乗ることもなく私の元を去っていきました』
お礼の動画か? 金持ちのやることは理解できないが、ここまでしなくてもいいと俺は思う。
「雜賀。ここからが本番だ」と、先輩は前置きをする。
『ですが、彼は私の大切なあるものを奪っていきました。それは許されない事実であります。そこでその男性の特徴をここに記載します。その男性を見つける手掛かりを提供した人には懸賞金として百万円を贈呈することを約束します。どんな小さなことでも構いません。私は必ずその男性を見つけ出します。奪われたものの重大さを理解させる必要があります。どうか皆様にはご協力してくれるようお願いを申し上げます』と、それだけを言い残し九条鈴蘭は深々とお辞儀をしたことで動画は終わってしまう。
「こ、これってまさか。俺、指名手配されている?」
「そのまさかだ」
ポンと先輩は俺の肩に手を置いてそう言った。
待て待て待て。俺が彼女から何を奪ったって言うんだ。これは冤罪だ。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
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