第20話 偶然の先
「さぁ、さぁ。ドンドン食べて下さい。遠慮はいらないですから」
「うん。ありがとうございます」
ひたすら俺は肉と白米を交互に胃に流し込む。
「火乃香さんも食べて下さいよ。ずっと肉を焼き続けて全然食べていないじゃないですか」
「私はいいんです。今日は航輔くんのお礼なんですから」
と、言われ続けて俺の満腹度は八割を超えている。
「大分、満腹です」
「そう。良かった。男の人が食べている姿って気持ちがいいものです。永遠に見ていられるくらいに」
「そうですか」
「なんだか不思議ですね」
「不思議?」
「私たちは元々、知り合える人じゃなかった。だけど、こうして一緒に食事をして楽しく会話をしている。それって運命を感じませんか?」
「う。うん」
急にどうした?
「もしかしたら偶然じゃなくて必然だったかもしれません」
「必然?」
「私、昔からお姫様とかお嬢様みたいな存在に憧れていたりするんです。それが今も続いているって子供っぽいですよね」
「いや、そんなことはないですよ。俺もヒーローとかに憧れているガキみたいな発想をしていますから」
「じゃ、私と一緒ですね。実は白馬に乗った王子様が現れるんじゃないかっていつも思っていたんです。そしてその思いは現実になったんですよ」
「ん? どう言うことですか?」
「私にとって白馬に乗った王子様っていうのは航輔くんだったのかもしれません」
「お、俺ですか?」
「はい。これは紛れもなく偶然ではなく必然。私はずっとあなたを待っていたのかもしれません」
「いや、ちょっと待って。それは考えすぎじゃないですか?」
「そんなことありません。これは運命の出会いというやつです」
「ちょ、落ち着いて下さい。火乃香さんは色々あって混乱しているだけです」
「そうかもしれません。そろそろ出ましょうか。航輔くんの胃袋を満足させられたようですし」
「はい。ご馳走様でした。とても美味しかったです」
店を出るとすっかり辺りは暗くなっていた。
「火乃香さんはここから歩いていける距離なんですか?」
「はい。徒歩で二十分くらいです」
「夜道も痴漢とかで物騒ですので気をつけて下さいね」
俺がその場を立ち去ろうとしたその時である。
服の裾を掴まれた。
「火乃香さん?」
「また被害にあったら怖いので家まで送ってもらうことは出来ませんか? 航輔さんだけが頼りなんです」
見た目は普通に見えたが、実際には今日の今日だ。
やはり少し不安なのかもしれない。これも人助け。俺は快く承諾した。
「分かりました。家まで送ります」
「ありがとう。ごめんなさいね。こんなことまで頼んじゃって」
「いえ、大したことじゃありませんので」
横並びになって俺と火乃香さんは夜道を歩いていた。
「航輔くんの帰りが遅くなっちゃいますね。本当に申し訳ないです」
「いえ、俺もこっち方面ですのでちょうど良かったです」
「へー偶然ですね。こんなに近くに住んでいても案外気付かないものですね」
「まぁ、他人であればすれ違っても気にも止めませんよ」
それからぎこちなく俺たちは歩き続けた。
火乃香さんも安心したように凛々しい顔をしている。
それよりもドンドンと俺の家に近づいている気がするのだが、何かの偶然だろうか。
「あ、そうだ。航輔くん。良かったらうちに上がっていかない? お茶くらい出すよ?」
「いえ、もう充分です。明日は仕事ですのでこれ以上はちょっと」
「そうですか。それは残念ですね」
火乃香さんは少しガッカリした様子である。
トボトボと歩いて行くと火乃香さんは立ち止まった。
「着きました。ここが私の住んでいるアパートです」
「え?」
「航輔くん? どうかしましたか?」
「いや、俺もこのアパートに住んでいるんだけど」
「え? 嘘。そんなことってあるんですか?」
「はははっ」
「ちなみに部屋は何号室ですか?」
「203号室」
「私、202号室です」
「隣ですね」
「はい」
偶然の偶然が重なり、俺も火乃香さんも出来すぎた展開に困惑していた。
偶然って本当に凄い。
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