第42話 十二時間③
「はぁ、気持ち悪い」
異臭をモロに浴びた俺は気分が悪くなっていた。
「さて。次の予定がありますのでテキパキ進めますよ」
瑠衣は平常運転だ。異臭を放つことを察して常時距離をとっていたのはそういうことだったのだろう。
「俺に休憩はないのか」
「十二時間のうちは私が管理します。航輔の時間はありません。まぁ、そのうち後九時間を切ったところですのでまだまだありますね」
「鬼だな。せめてゆっくり落ち着けるところだったらありがたいんだが」
「それなら好都合です。次はゆっくりプランですから安心できますよ」
「それなら助かる。どこに行くんだ?」
「航輔は暑いのは得意ですか?」
「まぁ、普段から炎天下の環境で働いているから得意といえばそうかもしれないな」
そう言うと瑠衣はニコリと微笑んだ。一体、どこへ行くつもりなのだろうか。
向かった先は健康ランド。
温泉や岩盤浴などが並ぶ娯楽施設だ。ドリンクバーや漫画など快適なものは一通り揃っている。
「おお! 何だ、ここは。人間をダメにする施設ではないか」
「違いますよ。人間の体をリフレッシュする場所ですって」
少々浮かれる俺だったが、受付の段階であるものが目に飛び込む。
店の看板に『九条グループ』という文言が書かれている。
つまり、ここの健康ランドは九条グループの系列店と言うことになる。
「もしかしたら、これ使えたりするのかな」
以前、磯辺さんから貰った商品券を財布から取り出す。
九条グループの施設ならどこでも使える魔法の券だ。使わずに取っておいたが、使わないのも勿体無い。
「あ、あの。これ、使えたりします?」
受付の人に商品券を見せると驚いた表情を見せる。
「あ、あの」
「お客様。これ、どこで手に入れたんですか? 一般の人では出回らないものです。私も初めて見ました」
「いや、知り合いから貰いまして」
札束のような商品券を怪しむが、使えることは使えるらしい。
「通常コースとプラチナコースがありますが、どちらにしますか?」
「プラチナコース?」
「プラチナコースですと施設内の飲食や個別対応など特権があります。ただ、通常コースの五倍くらい根が張ります」
「えっと……」
「プラチナコースで!」と瑠衣は間に入って申す。
「お前、人の商品券だと思って」
「いいじゃないですか。そんなにあるなら使わないと勿体ないです。お金の力でより深く楽しみましょうよ」
「お前が楽しみたいだけだろ」
とはいえ、使わずには勿体無い。俺は商品券を使ってプラチナコースを二名分選択した。プラチナコースでは館内着用の甚平が赤色である。通常だと青色なので一発で分かる。
「マッサージも無料だ。航輔。マッサージを受けましょうよ」
「マッサージ? 俺は別に凝ってないし」
「プロがするんですから絶対気持ちいいですよ。それにこう言う体験も受けるべきです」
「分かったよ」
瑠衣と二人でマッサージを受けることになる。
案内されると別室でベッドの上にうつ伏せに寝かされる。
瑠衣はカーテン越しで同じように寝かされていた。
「お客様。それでは始めさせていただきますね」
「よろしくお願いします」
柔らかい手が甚平越しに伝わる。
「力加減はどうですか?」
「はい。もう少し強い方がいいですね」
「かしこまりました」
程よい力加減でマッサージを受ける。眠気や疲労があった分、身体がほぐされる感覚だった。
「マッサージお上手ですね」
「ありがとうございます。人によってやり方を変えていますので」
「へぇ、そんな技術があるんですね」
「はい。お客様はガッチリした身体つきですので筋肉ではなく神経を刺激することでリラックス効果があります」
「なるほど」
よく分からないが、気持ち良かったらなんでもいいか。俺は気持ちを落ち着かせてウトウトしていた。
「おい。瑠衣。そっちはどうだ?」と、俺の問いかけに反応はない。
「お連れ様は熟睡しています」
「いくらなんでも寝るのは失礼ですよね。起こしてやってください」
「いえ。大丈夫です。お疲れのようなので寝かせてあげてください」
「どうもすみません」
「いえいえ。あなたも同じように寝てもらいますからごゆっくり」
すると、ベッドと身体が密着するように何かが挟まった。
「お久しぶりですね。航輔さん」と耳元で囁かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます