第41話 十二時間②


 瑠衣は歩き続けてある場所に立ち止まった。


「ここです」


「ここって小学校?」


 瑠衣は小学校の校門の前に立ち止まったのだ。


「入りましょうか」


「入るって勝手に入ったらまずいだろ」


「ここは私の母校でもあります。入る分には問題ありませんよ」


 誰にも許可を取らずに瑠衣は校内へ入って行く。


「おい。待てって」


 俺は瑠衣を追うように無断侵入をしてしまう。


「うわぁ。懐かしい。七年ぶりくらい?」


「しらねぇよ。それよりいいのかよ。勝手に入って」


「大丈夫ですよ」


「お前の大丈夫は信用できん」


 校内に入って俺は違和感を感じた。


「おかしいな。今日って平日だろ? それなのに生徒が誰もいないなんて」


「今日は創立記念日で学校は休みですよ。偶然にも」


「偶然ね」


 瑠衣は体育館の脇へ向かう。そしてとある木の前に立ち止まった。


「この木は学校の中で守り神として大事にされています。さぁ、手を合わせてお参りしてください」


「お参りって神社かよ」


 言われた通りに俺は手を合わせて頭を下げる。


「よし。じゃ、これを持って下さい」


 瑠衣はどこから持ってきたのか、スコップを俺に差し出した。


「はい?」


「ここを掘ってくれますか?」


 瑠衣は木の横にある場所に指を差した。


「何で俺がそんなことを」


「いいから掘って下さいよ。私、力仕事嫌いなので」


「はいはい。掘ればいいんだろ」


 よく分からないまま瑠衣に指示された場所をひたすら掘る。


「どこまで掘ればいいんだよ」


「私がいいって言うまで掘って下さい」


「何だよ、それ」


 文句を言いながらひたすら掘り進める俺だったが、カチンと硬いものがぶつかった。


「でかい石でもあるのか?」


 手で軽く撫でるとそこにはお菓子の缶が埋まっていた。


「航輔。ビンゴですよ」


「これってもしかして……タイムカプセル?」


「はい。そう言うことです」


 お菓子の缶はガムテープで頑丈に貼られている。

 手が汚れるからとテープ剥がしも俺がすることになる。


「取れた。開けていいのか?」


「どうぞ」


 他人のタイプカプセルを開けるのは変な気分だが、本人が目の前にいるのであれば問題ない。

 パカッと何が入っているかワクワクしながら箱の蓋を開けた。

 箱を開けた瞬間、とてつもない異臭を放ち耐えられず俺は投げ捨てた。


「く、臭い! 何だ、この匂いは! 瑠衣、お前箱に何を入れたんだ」


「何だったかな。随分前だからうっすらとしか覚えていないよ」


「うっすらとでも何を入れたんだよ」


「私の大食いって今に始まったことじゃありません。小学校に入った頃からよく食べる子だったんです。三食の食事では足らずに友達の家に行ってお菓子や夕飯を食べさせてもらっていたほどに。食い意地が張っていたと言うべきですね。あははははは」


「それと今と何の関係がある?」


「当時の私は思ったんですよ。将来の自分はお腹を空かせていたら可哀想だなって思って私の好物を将来の自分に送ろうって想いがあったかもしれませんね」


「おい。まさかあの箱の中身っていうのは……?」


「多分、お菓子とかじゃないですか? 覚えていませんけど」


「バカなのか、お前!」


「バカとは何ですか。昔の私が可哀想じゃないですか」


 ということはあの異臭の正体は七年間地中に眠っていた何かの食べ物ということになる。汚ねぇ! 小学生の瑠衣は何を考えていたんだ。

 そんなものを将来の自分に送って喜ぶとでも思っているのか。呆れて何も言えない。


「瑠衣。それはお前が責任を持って処分するんだな」


「まさか食べろって言うんですか?」


「そんなものを食べたら腹壊すわ。いくら食べ物を粗末にしたくない俺からしてもあれはもう食べ物じゃない。正規の場所で捨てるんだ」


「分かりましたよ」


「よし。じゃ、行くぞ。あの匂いを嗅いだら気分が悪くなってきた」


「航輔。何か忘れていませんか?」


「忘れている?」


「掘ったらちゃんと埋め戻さないと。ね?」


 こいつ。最初からそのつもりだったな。約束を果たすまで残り九時間。

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