第32話 モノ屋敷


「どうぞ。上がって下さい」


「お、お邪魔します」


 俺はノコノコと女子の家に上がっていた。

 そう、ここは栗見結衣菜の家だ。

 これは決して浮気とかそういうものではない。

 退院祝いと助けたお礼という名目に過ぎない。

 俺の心はすずちゃんに向き合うと決めてあるんだ。そう安々と他の女性に浮つきはしない。それに今日こそちゃんと伝えるんだ。

 俺には彼女がいる。そして君とは付き合えないと。向こうは勝手に俺と付き合っている気でいる勘違いを正さなければならない。


「さぁ、今から料理をしますから適当に座って下さい」


「適当に……ね」


 お世辞にも綺麗な部屋とは言えない。というよりも足の踏み場がない。

 家の中に入る前から何となく察して居たが、結衣菜の家は何というか物屋敷というよりゴミ屋敷に近い。

 木造の一軒家なのだが、家の外までよく分からない物が並べてある。

 そして家の中も通路を妨げるように物が行く手を阻んでいるわけだ。


「随分、物を溜め込んでいるんだね」


「両親揃って捨てられない病だから困っているんだよね。本当は捨ててやりたいんだけど、そんなことをしたら生きがいがないって発狂するレベルなんだよね。変でしょ?」


「それはまた重症だな。分からなくもないが分かりたくないってところかな」

「引いた?」


「いや、俺も変わらないから普通かな。これほどではないけど」


「座る場所に困るんだったらこうするといいよ」


 そう言った直後、結衣菜は大胆に物が積み上げられている中心にダイブした。

 ボフーンと物が一気に崩れ落ちて余計に散らかった。


「な、何をやっているの?」


「ほら、雑賀さんも何も考えずに飛び込んでみて」


「いや、そんな子供みたいなことはちょっと恥ずかしいというか」


「そんなこと気にしなくていいから。ほら、この辺一帯に飛び込んでみて」


「じゃ、少しだけ」


 俺は物山に飛び込んだ。一瞬、子供に戻れたような少年心が擽られた。


「ひゃほーい」


 バカみたいに俺は騒いでいた。


「ふふ。少しだけ待っていて下さい。唐揚げ揚げてきますから」


 俺は物山の頂上に座り混んでいた。

 この感覚、懐かしいな。そうだ。小学生の時、ジャングルジムに登った時の感覚とよく似ている。まさにあれだよ、あれ。


「楽しんでいるようですね。雑賀さん。出来ましたよ」


 そうこうしている間に結衣菜は大皿一杯の唐揚げを持ってきた。


「すご! 物山みたいだ」


「何を言っているんですか。さぁ、食べて下さい」


「えっと」


「あ、箸を用意するのを忘れました。ちょっと待って下さいね。えーと、箸、箸」


「いや、必要ないよ」


 俺はそう言って手摑みで唐揚げを口へ頬張った。


「あつ、あつ!」


「雑賀さん。行儀悪いですよ」


「我慢できなくてつい。揚げたて旨いよ。これなら無限に食べられそうだ」


「本当ですか? 嬉しいです」


 俺は手が油でベトベトになることを気にせずに口へ頬張った。

 唐揚げってやっぱり揚げたてが一番旨いんだよな。この揚げたてのものを食べられないのは損だ。


「調味料入ります?」


「うん。マヨネーズがあれば最高」


「ですよね。唐揚げと言ったらマヨネーズ。雑賀さんは私と舌が合いますね」


 食べれば揚げるという繰り返しで俺の胃袋はパンパンになる。


「まだ食べられますか?」


「いや、流石にもう限界。ありがとう。ご馳走様」


「そうですか。じゃ、次は何をしましょうか?」


「じゃ、そろそろ俺はこの辺で……」


「ギャグでも面白くありませんよ?」


「ギャグって俺は本気で……」


「彼女の部屋に来て何もせずに帰るのが紳士だと思っていますか?」


「俺はそんなつもりで来たわけじゃないんだが」


「ばか」


「一つ、結衣菜には言わなくちゃならないことがあるんだけど」


「言わなきゃならないこと?」


「俺には彼女がいるんだ」


「はぁ、それで?」


「それでってショックとかないのか?」


「別に。雑賀さんに彼女がいるとかいないとか関係ありませんよ。私が好きになった相手には尽くしてあげたい。ただ、それだけです」


 まっすぐな眼を見て結衣菜はそう言った。俺に彼女がいる、いないは重要ではない? じゃ、君は一体俺に何を求めているっていうんだ。

 俺のその気持ちを察したように結衣菜はこう言った。


「私は雑賀さんの都合の良い相手になりたいんです」


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

話の方向性がおかしくなってまいりましたが

★★★をよろしくお願い申し上げます。


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