第29話 故郷から救援要請を受けて
俺たちがいる高級レストランにリリーアが駆け込んできた。
「クレマーチスさん、カルミーアさん、大変です。緊急事態です!」
リリーアは街中を急いで探していたんだろう、ものすごく息が乱れていた。
「店主さん、せっかくお誘いしていただいたのに申し訳ございません」
俺は店主に深く頭を下げて謝った。
「いえいえ、冒険者としての使命を優先してください。また落ち着いた時にお越しくだされば結構でございますよ」
「店主さん、ありがとうございます」
俺たちは店主にあいさつをして、宿屋へ急いで戻り装備を整えた。詳しい情報を得るために俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
ギルドマスターは俺たちが到着するのを待っていたようだ。
「お待ちしていました。落ち着いて聞いてください。マージアのギルドから救援要請が来ました」
カルミーアの顔が引き攣った。マージアには大切な両親とこれまでお世話になった街の人たちがいる。心配するのは当たり前だ。
「ですが、今から馬車をどう飛ばしても間に合いません」
カルミーアは両手を顔に当てて絶望した表情になっていた。
「くそう、どうにもならないのかよ!」
タフネスの苛立ちもわかる。通常ではどうにもならない。
だけど俺には一度も使ったことはないが、空間転移魔法がある。初級魔法しか使えないという制限で俺を含めて二人しか転移できない。
「方法ならあります。俺が空間転移魔法を使って移動します。ただし、一緒に行けるのは一人だけです」
俺が言葉を発すると、カルミーアが顔を上げた。
「クレマーチス、私を連れていって!」
「うん、はじめからそのつもりだよ」
周りの人たちは「やれやれ」と呟いた。みんな大方予想通りって顔をしている。
俺とカルミーアは転移をするためにギルドの外に出る。他の人たちも見送りのためについてきてくれた。
「クレーマチスさん、カルミーアさん、よろしくお願いします」
「はい、任せてください」
「ええ、私の故郷ですもの守ってみせますわ」
俺は目を閉じて、転移する場所をイメージして魔力をためる。
足元に転移のための魔法陣が浮かび上がっているのだろう、「おう」とみんなの声が聞こえた。
「では、いってきます」
『テレポーテーション!』
俺とカルミーアが転移してきた場所は、森の中だった。
ここは俺が実家から追い出されてから初めてカルミーアと出会った場所だ。
イメージした場所に転移する場所だから一番印象が強い場所に転移したんだろうと思う。
「じゃぁ、冒険者ギルドに向かおうか」
「ええ、そうね」
俺たちがマージアの冒険者ギルドに到着すると、マージアのギルドマスターにものすごく驚かれた。
「君たち、王都にいたんじゃないのか?」
「ええ、空間転移魔法で移動してきました。まだ未熟で二人しか来れませんでした」
「いやいや、君たち二人がきてくれただけでとても心強いよ」
ギルド内ではBクラス以上の冒険者が集まっていて作戦会議中だったようだ。
テーブルには地図が広げられていていた。
「ギルドマスター、何ヵ所のダンジョンからスタンピードが起きたんですか?」
「ええ、これからみんなに説明するところだよ。二人も一緒に聞いてもらいたい」
俺たちは会議に参加して、状況把握をすることにした。
そして驚くことに、俺のお父様が一人で先行して魔物の軍勢の足止めに行っているとのことだった。
「マーレスボルコ様でもどのくらい持つか……」
ギルドマスターの説明によると、3ヵ所のAクラスダンジョンから魔物の軍勢が飛び出してきたそうだ。
俺とカルミーアなら対処可能だな。
「ギルドマスター、俺とカルミーアは先に行きます」
急な俺の提案にギルドマスターや冒険者たちは驚いた。
「しかし、二人でだなんて」
「大丈夫ですよ。私たちは経験済みですから。ご安心ください」
俺たち以外は意味がわからないという表情を見せた。
わからなくもない。
実際に見た者しかわからないだろう。
「それでは行ってきますね」
「行くって、馬車が無いのにどうやって行くの?」
「大丈夫ですよ。馬車は必要ありません」
カルミーアもどうやっていくのか理解できないようだ。
俺は外へ出て、カルミーアをお姫様抱っこする。
「クレマーチス、ちょっと恥ずかしいんだけど」
「ごめん、これが一番飛びやすいんだ」
「え? 飛ぶって!?」
『フライ!』
初級魔法しか使えなくても魔力が一定以上あれば使えるのだ。
クエストが受けられなくて暇している時に練習をしていた。
「きゃっ、本当に浮いている!?」
ギルドマスターや冒険者たちは開いた口が塞がらないようだ。
これを使える魔法使いは数少ないからね、無理もない。
「カルミーア、飛ばすからしっかり掴まっててね」
「うん」
俺はかなり飛ばして、お父様がいる場所へ向かった。
「すごい、本当に飛んでる。いつの間にこんな魔法を覚えたの?」
「ああ、マジックールの街で勉強のために魔導書をたくさん買っておいたんだ」
お祖父様の教えの通り、工夫して魔法を使うために修練してきてよかったよ。
しばらくすると、お父様の召喚したフィアンマ・フーガ・ゴーレムが見えてきた。
かなりの数を召喚して戦っている。
あれだけの数を召喚するにはかなりの魔力を消費するはずだ。
俺は地面に着地して、俺たちはお父様のところにかけていく。
「おじ様、助けに来ました」
「何しに来た?」
そうツンケンしなくてもいいだろう。
お父様は魔力回復剤を多用しながら戦っていたようだ。
でも、そろそろ限界を迎えそうな感じだ。
回復剤の大量摂取は命に関わる。
「お父様、下がってください。あとは俺とカルミーアで対処します」
俺とカルミーアはお父様の前に立つ。
「もうお前の父親ではないぞ!」
そうなんだけど……。
「呼び方が思いつかないだけだよ」
「ふん」
突然カルミーアが「うふふ」と笑った。
俺とお父様のやりとりが面白かったのかな?
「カルミーア、いくよ」
「ええ、わかったわ」
『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』
俺はカルミーアに支援魔法をかける。
『獄炎爆炎剣』
カルミーアは戦闘準備完了だ。
「俺は二つの集団を片付ける。カルミーアは右の集団をお願い」
「ええ、わかったわ」
俺たちは二手に分かれて魔物の軍勢に向かっていった。
『アイスミスト!』
氷の霧で魔物軍勢を全て凍らせる。
『スタン!』
重力系魔法で一瞬で粉々にした。
『エアカッター!』
ダンジョンのボス2体も一瞬で切り裂いて討伐完了だ。
そのままコア魔石を回収してお父様がいるところへ戻った。
カルミーアも殲滅が終わって少し後に合流した。
「な、なんだお前たちのその強さは?」
お父様は何が起きたか理解に苦しんでいるようだ。
「おじ様、これがクレマーチスの実力ですよ。おそらくもっと強いでしょう」
「そ、そうなのか?」
カルミーアがお父様と話していると、ギルドマスターと冒険者たちが合流してきた。
「魔物の軍勢はどこですか? 陣形を整えねば……」
ギルドマスターたちは臨戦体制に入ろうとしていた。
「ギルドマスター、終わりましたよ。はい、ダンジョンのコア魔石です」
俺はギルドマスターにコア魔石を3つ渡したすと、とても驚いた表情になった。
「え? いつの間に終わったんですか?」
「ああ、この二人が一瞬で終わらせたよ。私には無理だ。見事だったよ」
俺は初めてお父様から褒められて驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます