第20話 バリス盗賊団の残党退治
今日もアルマ周辺のダンジョン攻略を継続中である。
この地域全体が魔物の巣窟と化している光景は異常なほどだった。
小さな村は全て壊滅していて無惨な状態になっていた。
「ほんと、バリスたちは何てことをしてくれたのかしら」
「うん、無惨な状態の人たちを見るのはすごく辛いよ」
壊滅した村を初めて見たときは吐いてしまうほど衝撃的だった。
俺たちは出来るだけ、遺体を見つけて埋葬している。
——これでいくつ目の村だろう、悲惨すぎる。
『亡くなられた魂たちよ、安らかに眠りたまえ』
リリーアがいてくれてよかった。
亡くなった人たちを弔う儀式を行うことができ、名前のわからない墓標を作って供養してあげることができた。
俺たちの自己満足かもしれないが……。
今回のダンジョン攻略は心身ともに削られるものになっていた。
けれど、足を止めることはできない。
一日一日とダンジョン攻略を、スタンピードの沈静化、滅びた村の弔いをしながら、奥歯を強く食い縛りながら続けて行った。
そして、10日ほどでアルマ周辺の全てのダンジョンを攻略し、野に放たれていた魔物たちを殲滅することができた。
「長かったわ、やっと終わったわね」
「そうだね。本当に心が痛む10日間だったよ」
「ああ、全く達成感というものを感じられなかったな。酷い有様だったよ。バリスの奴め……」
いつも元気なタフネスでさえ、心に余裕がないほど疲弊していてイライラしていた。
「これほど多くの弔いの儀式をしたのは初めてでした。亡くなられた方々が安らかに眠られればいいのですが……」
亡くなった人を弔うのは僧侶としての仕事とはいえ、リリーアにとっては辛い役目となっていたのは間違いはない。
俺たちは心身ともに疲れ切ってアルマの街へ戻った。
「お疲れ様です。お帰りをお待ちしておりました」
「ありがとうございます。全てのダンジョン攻略とスタンピードで野に放たれていた魔物たちを殲滅しました。もう地上に出ても大丈夫ですよ」
「本当にありがとうございました。何もお礼ができず本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」
グレーズンは泣いて喜んだ。
「別にお礼なんていらないですよ。頑張ってアルマの街を復興させましょう」
カルミーアはグレーズンの手をとり励ましてあげた。
「あなた方との出会いは奇跡としか言いようがありません。本当にありがとうございます。地下の者たちを呼んできますね」
グレーズンは地下にいる者たちに呼びかけ、全員が地上に出てきた。
「本当にありがとうござんます」
「二度と地上に出ることは叶わないと思っただ」
「頑張ってアルマの街をきれいにしないといけないな」
アルマの人たちは嬉しさ半分、悲しさ半分という感じだった。
肉親や友人がかなり犠牲になったので、みんなの心境ははかり知れない。
「やっぱり、ワシらに何かできることはないかね? このまま何も礼をしないとなると、やっぱり気持ちがおさまらねぇ」
「んだんだ、何かさせてくれないだろうか?」
グレーズンたちに何かないか懇願されてしまって、断ることができなかった。
「では、俺たちから素材を提供しますので、武器や防具を作ってくれませんか?」
俺は『アイテムボックス』からいろんな素材を取り出した。
「おお、これほどの素材がこんなに。素晴らしいですな。鍛冶師として腕がうずきそうだ」
「そうじゃな、このドラゴンの鱗は超レア素材じゃぞ」
鍛冶師たちは素材を見ると目の色が変わった。
みんな職人の目をしている。
「しかし、そんなことでいいのですか?」
「ええ、私たちはそれで満足です」
「ああ、素晴らしい方たちだ。勇者から盗賊に落ちぶれた奴らとは大違いです」
バリスが勇者の資格を剥奪されて盗賊に落ちぶれたのは国中に知れ渡っていたようだ。
そうだ、あと一つやらないといけないことを忘れていた。
「あのう、鉱山の場所を教えてもらえませんか? 明日、鉱山に盗賊の残党がいないか確かめてきます」
「そ、そこまでしてくださるのですか?」
俺がグレーズンに質問をすると、涙でぐちゃぐちゃになりながら驚かれてしまった。
「アルマの街にとっては鉱山の資源は必要だと思います。冒険者が戻ってこないとまた同じ惨事が起きかねません」
「それはそうじゃが、そこまでしてくださるなんて……うぅぅ」
ダンジョン攻略ができる冒険者がほとんどいない。
できるだけ不安要素は早めに消しておきたいのが本音だ。
「カルミーア、いいよね?」
「うん、そうね。盗賊の残党は片付けておきたいわね。復興中の街を襲われたりしたらたまらないわ」
——それも考えられるね。
「バリスのやらかした後始末は俺たちがしないとな」
タフネスもやる気満々だ。
リリーアも「私も同じよ」と目で訴えかけてきた。
全会一致ということで、俺たちはドワーフの資源庫でもある鉱山に向けて馬車を飛ばしていく。
しばらくして、林の中に入り鉱山が近づいてきた。
「タフネス、馬車を止めてちょうだい」
カルミーアがタフネスに声をかけて馬車を止めた。
俺たちは鉱山の手前の林の中に馬車を隠した。
ここからは鉱山の様子を伺いながら近づいていく。
やはり見張り役の盗賊たちが鉱山の入口をウロウロとしていた。
「そんなにコソコソしなくたって、一気に押し込めばいいじゃないか?」
「何を言っているの? 相手は人間よ。特に盗賊はずる賢いからどんな罠に引っかかるかわからないわよ」
慎重派のカルミーアと単純派のタフネスで意見が分かれてしまった。
俺としては誰かが囮になって、全ての盗賊を一箇所に集めて貰えば重力魔法で一発なのにな。
——そうか、それでいこう。
「タフネスさん、それでは囮になっていただけますか?」
「は? 俺が囮?」
「うん、それはいい案ね」
「カルミーアまで!」
「一気に押し込めって言ったのはタフネスよ」
「わ、わかった。男に二言はないぜ!」
「じゃぁ、タフネスさんに支援をかけますね」
『ディフェンスアップ!』
「おう、ありがとよ!」
タフネスはとても張り切って鉱山の入口へ向かっていった。
『おいおい、盗賊の前たち、俺が相手だ。全員出てこいやぁ!』
タフネスは盗賊を挑発して自分のところへくるように呼びかけている。
「なんだお前? 頭でもおかしくなったのか?」
「おい、みんな出てこい。こちつを袋叩きにしてやるぞ」
『お前たちが何人集まろうが俺の敵ではない。あははは』
タフネスはかなりノリノリだ。上手く盗賊たちを集めてくれている。
『俺に傷一つ付けられるものなら付けてみろ! ビッグシールド!』
「舐め腐りやがって、あの世で後悔しな!」
「うりゃぁぁ!」
盗賊たちの総攻撃はタフネスに傷一つ付けることができなかった。
——タフネスは本当にタフだなぁ。
そして、俺たちは盗賊たち全員が一箇所に集まったタイミングを見計らって飛び出していく。
「なんだ!?」
「仲間がいたのか?」
「くそう!」
俺たちがいきなり乱入してきたので盗賊たちはあたふたしている。
「タフネスさん、下がってください。巻き込まれますよ」
『スタン!』
「うぎゃぁぁ」
「なんだこれは、動けねぇ」
「うぐぐぐ」
しばらくすると盗賊たちは重力魔法の圧力に耐えられなくなり気を失った。
俺たちはその辺にあった荷台に盗賊たち全員を縛り上げて積んでいく。
馬車と連結させて運ぶことにした。
「カルミーア、ところで盗賊たちをどこへ連れていくの?」
「うーん、そうね。一番近い街はやっぱりブルットかしら」
「そうだな。時間はかかるけどブルットに行こうか」
「私もそれでいいと思います」
俺たちはブルットまでいき、盗賊たちを兵士に引き取ってもらった。
バリス盗賊団の残党を捕まえてくれて助かったと感謝された。
どうやら各街に指名手配されていて行方を探していたようだ。
兵士にアルマの実情を報告して俺たちはブルットの街をあとにした。
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