第21話 ドワーフの街の復興と王都
ブルットを経由してアルマに戻ったので、到着した頃は日がすっかり落ちていて月明かりだけの薄暗い感じだった。
「おお、おかえりなさいませ。随分と時間がかかったのですね」
グレーズンは心配して待っていてくれたようだ。
街中も随分と綺麗に整理されて、家の骨組みも少しずつしっかりと組み立てられていた。
「ただいま戻りました。盗賊退治自体はそれほど時間はかからなかったわ。こちらでは処理できないと思ってブルットの街に寄ってきました」
「そうでしたか。わざわざありがとうございます」
グレーズンたちは夕食の用意をして待っていてくれたようだ。
俺たちはありがたくいただき、休ませてもらった。
翌日、俺たちは、みんなと話し合ってもうしばらくアルマに滞在して復興のお手伝いをすることにした。
基本的には建築資材の運搬だ。
タフネスは剣を斧に持ち替えて、みんなで森林に向かった。
「うりゃぁぁ! 筋肉が喜んでるぜぇ!」
タフネスは自慢の肉体を活かして木々をどんどん薙ぎ倒していく。
それを俺は収納魔法で回収していった。
お昼にはカルミーアが作ってくれた特性サンドイッチが出された。
——なんでサンドイッチの具にレバーが入っているの? しかも俺だけ!
「どう、クレマーチス。美味しい?」
「うん、お、おいしいよ。ありがとう、カルミーア」
「どういたしまして」
カルミーアは満面の笑みで返してきた。
カルミーアの料理が美味しいのは本当だ、決して不味くはない。
「カルミーア、俺たちの目の前でイチャイチャするのをやめてくれないか?」
「別にイチャイチャなんてしてないわ!」
「うん、俺もいつも通りの会話だと思うんだけど」
俺とカルミーアの返事に対して、タフネスとリリーアは深くため息を吐いた。なんでだ?
「うーりゃ、うりゃ、うりゃぁぁ!」
タフネスは休憩の後も調子良く木々を薙ぎ倒していった。
でもあまりやりすぎると山から木が1本も無くなってしまいそうだな。
「タフネスさん、もうこの辺で引き上げましょう」
「俺はまだまだいけるぞ!」
「タフネスさんの体力を心配しているのではないですよ。山の木がなくなることを気にされているのです」
リリーアがタフネスを説得して、タフネスの手を止めさせてくれた。
俺たちが復興の手伝いをすることで、職人の店が次々と開店していき、冒険者たちもアルマの街に戻りつつあった。
もう俺たちの手は必要ないかなと感じて、この街を出ることをグレーズンに告げた。
「皆様、本当にありがとうございました。街を救ってくださっただけでなく、復興のお手伝いもしてくださるとは」
「あのう、こちら我々が作った装備です。受け取っていただけますでしょうか?」
俺たちはグレーズンたち職人総出で作った新装備を受け取った。
鍛冶師だけでなく、裁縫職人とも力を合わせて個々の特性に合ったものを仕立ててくれたようだ。
俺にはスタッフとローブと帽子を作ってくれた。
マジックールで買った装備よりも格段と耐久性が上がっているようだ。
しかもかなり格好良い。
カルミーアには魔剣用の鞘と、金属と布で作られた上下別の鎧のようなものと金属製のブーツだ。
カルミーアの綺麗なワインレッドの髪や容姿に合うようにとてもよくデザインされていて、どこかの騎士みたいに気品を感じさせる。
——って、カルミーアは公爵令嬢で剣聖の娘だから当たり前だよね。
俺はカルミーアの可憐さにうっとりしてしまった。
タフネスには魔法抵抗のある大盾と鎧一式、片手剣も魔剣に負けないくらいの上等なものだった。
完全に敵の攻撃をシャットアウトするぞっと思わせる重厚感が男心をくすぐりそうだ。
リリーアには、聖属性のスタッフと僧侶として品のある制服に近いような作りだった。
魔力を込めることで身体強化ができるような仕掛けも施してくれた。
「皆さん、ありがとうございます」
「いやいや、それは我々の言葉ですよ」
グレーズンたちは早く俺たちの新装備姿を見たそうな目をしている。
俺たちはグレーズンたちの期待に応えようと、新しい装備に着替えて披露した。
「おお、素晴らしいお姿に感激いたしました」
「ワシたちの装備を身に付けてくれてありがとう」
「おいらはもう死んでも後悔はないだ」
——いや、死んでもらっては困ります。
「それでは皆さん、お世話になりました」
「いやいや、こちらこそ。我々は皆様のご武運を祈らせていただきますね」
グレーズンたちに目の前で祈られてしまった。
社交辞令ではなく、本当に祈るのが習慣なのだろうか?
とても惜しまれながら俺たちはアルマの街を後にした。
「それにしても素敵な装備ね。クレマーチス、とても格好良いわ」
「カルミーアこそ、品がある装備で綺麗だよ」
「はいはい、またいつものイチャイチャかい?」
『イチャイチャなんてしてないよ!』
「うふふ、お二人さんは全然自覚がないのですね」
リリーアにも笑われてしまった。
自覚って何のことだろう?
しばらく馬車を走らせていると、今までに見たこともない広さの丈夫な壁で囲まれている街が目に入った。
遠くの方には白い塔や王宮が見えてきた。フリーデン王国の王都だ。
「うわぁ、でかいなぁ。初めて見るぜ」
みんな王都へ来るのは初めてのようだ。
マージアは遠い辺境の地だから王都に来ることはまずない。
「皆さん、ギルド証をお持ちか確認してくださいね。門のところで身分証を確認されるそうですよ」
リリーアが教えてくれて、みんなギルド証を確認する。
ちゃんと持っているから、問題なく王都に入れるよね。
俺たちが外壁の門に近づくと、護衛の兵士が声をかけてきた。
「身分証を確認する。提示をするように」
ちょっと偉そうだった兵士が俺たちのギルド証を見ると、一気に対応が変わった。
「これはこれは、Sランクの冒険者様でございますね。検問は結構でございますので、中にお入りください」
対応の変わりようがすごかった。
Sランク冒険者ということで、かしこまられたのは初めてのような気がする。
外壁の門をくぐると、違う世界に来てしまったかと驚くほどの景色が俺の目に飛び込んできた。
人の往来も多く、人に酔ってしまいそうだ。
「うわぁ、人の数がすごいな。土産物屋なんてあるのか?」
——タフネスは誰にお土産をあげるんだ?
「あ、何か美味しそうなものを売ってるよ」
「本当ですわね。いいの匂いがしますわ」
「みんな、先に冒険者ギルドを探すわよ。観光は後回しにしてね」
カルミーアは意外と現実的なんだな、もっとはしゃぐのかなと思っていた。
冒険者ギルドに寄ると、いつものように魔王のダンジョンの攻略状況を確認した。
王都とあって、冒険者の数は多い。
Sクラス以外はそれほど残っていないようだ。
やはり、Sクラスとなると話は別で攻略を挑んで帰ってこれないパーティーが後を絶たないそうだ。
「それでは、今日はSクラスダンジョンを2つほど受注するわ」
「え、2つもですか?」
命の補償がないSクラスダンジョン攻略を2つも受注するとなれば、驚くのも無理はない。
「命の補償はございませんよ。それでも行かれるのですか?」
「ええ、いくつものSクラスダンジョンを攻略していますから大丈夫ですよ」
「そ、そうですか。かしこまりました」
なんとか受付のお姉さんに納得してもらい、2つのクエストを受注した。
ダンジョンに到着するといつも通り、凍らせて粉砕して終わりだ。
あとはタフネスが瓦礫の山からコア魔石を回収するだけ。
2つのダンジョンを攻略して、1時間もかからずに冒険者ギルドに戻る。
「え、もう攻略されたのですか?」
カルミーアがコア魔石を2つ受付に渡すと、とてもびっくりした表情をした。
「ええ、最近はこんなものよ」
「そ、そうですか。それでは鑑定しますね。『鑑定』……Sクラス2つ……すごい、本当だわ」
鑑定結果が出ると、ギルド内の冒険者たちも騒ついた。
俺たちはいつものことだから全く気に留めていなかった。
俺たちは報酬の金貨200枚をもらうと、宿屋を探すために冒険者ギルドを後にした。
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