第5章 王都と新しい勇者の愚行
第22話 王都の観光
やっぱり一番高そうな宿屋に泊まろうということで、俺たちは高級店街に足を運んでいる。
俺たちが歩くと、周りの人の目線がこちらに向いている気がする。
俺たちの特殊オーダーメイドの装備はなかなか大金を払っても手に入れられるものではない。
周りの人からはお金持ち冒険者と思われているのだろうか。
「すごい、みんな俺たちを見てくるね」
「気にしない、気にしない。みんな思ってることは同じだと思うわ」
「でも、さすが王都とあって他の街の高級街とは雰囲気が全然違いますね」
そう、高級街を歩く人たちは高そうな衣装を纏い、品のある歩き方をしている。
各街のトップの金持ちがたくさん歩いている感じだ。
しばらく歩いていると、一際目立った宿屋を見つけた。
「グラーテア」という看板が目に入った。
今までに見たことない高級感が漂っていた。
いや、宿屋と言っていいのかと思うくらい次元の違う建物だ。
「すげぇなぁ、ここに入るのか?」
「ええ、ここにしましょう」
俺たちがグラーテアという宿屋に入っていくと、受付ではとても上品な紳士がお出迎えをしてくれた。
丸いメガネに、整った白髭、まるで執事のようだ。
いや、執事だ。
「いらっしゃいませ。当店にお越しくださいまして、誠にありがとうございます」
あいさつもかなり上品で丁寧だ。
逆にこちらがかしこまってしまいそうだ。
「はい、
カルミーアが上品な面持ちでお願いする。
執事の対応につられてしまったようだ。
「かしこまりました。1泊金貨1枚になります。どのくらいの宿泊予定でございましょうか?」
「10泊でお願いいたしますわ」
「かしこまりました。それでは、合計で金貨40枚を頂戴いたします」
カルミーアは上品に金貨を取り出し、執事に渡す。
「確かに金貨40枚を頂戴いたしました。案内の者がお部屋までご案内いたしますので、あちらへお願いいたします」
「はい、ありがとう存じます」
俺たちに紹介された案内の者の容姿はメイドのようだ。
貴族の屋敷に普通に勤めているメイドと遜色ないくらいの上品さがある。
メイドに案内されて部屋に入ると、俺は何度も目をこすった。
もう宿屋の部屋ではなく、貴族の客間そのものだ。
「すげぇなぁ。もう宿屋じゃないよな。しかし、カルミーアのしゃべり方は面白かったな」
タフネスは基本的に空気は読めない。
「うるさいわね。あんなに上品に対応されたらああなるわよ」
「俺も、カルミーアと一緒かな」
「私もですよ」
3対1、俺たちの勝ちだ。
何と勝負をしているのかわからないけど……。
俺たちは一息ついた後、街に出かけることにした。
外出前に宿屋のメイドから、高級街を鎧でを装備して歩くのは良くないとアドバイスをもらった。
タフネス以外は、特に問題ないようだ。
しかし、高級レストランに入るにはドレスコードが決まっている。
タフネスは一度部屋に戻り、鎧を脱いで俺たちに合流する。
「タフネス、その普段着で高級街を歩くのは難しいわね」
「むむ、やっぱりそうか……」
タフネスは自分の服装を見回しながら、ため息を吐きながら納得する。
「それでは最初に仕立て屋さんに行って、衣装を見繕ってもらいましょう」
「そうね。このままだとずっと奇異な目で注目されそうだよね」
今の状態だと、タフネスが俺たちの使用人みたいな立ち位置に見られそうだな。
案の定、外に出るとタフネスが異常に奇異な目で注目された。
仕立て屋の店員にも同じように見られてしまった。
ただ、本人は全く気にしていないのでよしとしよう。
カルミーアが一番最初に試着室に入り、仕立ててもらう。
仮縫いの状態だが、カルミーアは試着室のカーテンを開けて披露する。
「クレマーチス、どう? 似合う?」
「う、うん。とても綺麗だよ」
「そ、そう。ありがとう」
カルミーアは即決らしく、少し顔を赤めながらすぐに試着室のカーテンを閉めてしまった。
カルミーアの衣装はワインレッドの髪に似合うようにうまくコーディネートされていた。
赤系と黒系色をうまく組み合わせて、髪の毛の色との相性も抜群だった。
——なんか胸がドキドキするよ。
次に仕立ててもらうのはリリーアで、カルミーアにアドバイスをもらいながら生地を選んでいく。
生地が決まるとリリーアは試着室に入り仮縫いをしてもらう。
リリーアも仮縫い状態で披露してくれた。
「うん、リリーアとても似合ってるわよ」
「ありがとうございます」
リリーアは恥ずかしそうにそっとカーテンを閉める。
リリーアの髪は水色のボブヘアで、下地が白く表面は淡い薄い緑色のヒラヒラした感じの作りの衣装だった。
まるで妖精さんのような感じだ。
「あとは二人の衣装ね」
「俺は既製品でいいよ」
男性の衣装といっても種類がたくさんあるわけでもない。
俺はカルミーアに選んでもらい、微妙なサイズ調整と裾直しをしてもらうことになった。
問題はタフネスだった。
鍛えられた筋肉で着られる紳士服はひとつもなかった。
「はぁ、タフネスは口も体も空気を読めないのね」
「うふふ」
結局、タフネスは規格外ということでオーダーメイドになり、普段着とレストラン用の2種類の服を作ってもらうことにした。
ただ、完成までは数日かかるということだったので、俺たちは高級街を出て市場や出店が並ぶところへ足を運んだ。
出店ではすぐに食べられそうなものがたくさん売っていた。
「すごくいい匂いがしますわね」
「そうだね。食欲がそそられそうだよ」
グゥゥゥ!
俺の腹の虫が鳴ってしまった。
「あはは、仕方がないわねぇ、クレマーチスは」
俺の目に飛び込んできたのは肉汁たっぷりの串焼きだった。
もうよだれが止まらなさそうだ。
「じゃぁ、あれを食べましょう」
いつもレバーだったのに、カルミーアは珍しく違うものを食べてもいいという顔をした。
カルミーアは俺が欲しがっていたものを買ってきてくれた。
「はい、クレマーチスの分」
「あ、ありがとう。では、いただきまーす。ほくほく……」
焼きたてで熱いのだけど、肉汁が口の中でじゅわぁと広がって肉が溶けていく。
「うまとろぅ〜」
「うふふ、本当に美味しそうに食べるわね。私のも食べる?」
カルミーアは数本の串焼きを持っていた。
「うん、あーん、ぱく……うまとろぅ〜」
カルミーアから串焼きを差し出されたので、俺は思わずそのままかぶりついてしまった。
「おいお前ら、道の真ん中でイチャつくなよ」
俺たちはタフネスに指摘されると、周りの人たちにも注目されているのがわかった。
さすがに人前で恥ずかしいことをしたんだなと認識した。
俺たちはその場から逃げるように移動すると、タフネスとリリーアと逸れてしまった。
「仕方ないわね。適当に歩いていたら見つかるでしょう」
「そうだね。二人でいろいろ見てまわろうよ」
「そうね。たまには二人もいいわね」
最近俺は、カルミーアを女性として意識するようになってきた。
ちょっとした仕草でも気になってしまう。
——なんだろう、この気持ち。
しばらく歩いていると、アクセサリーを売っているお店を見つけたカルミーアがある耳飾りに釘付けにされてしまった。
——あの耳飾りが欲しいのかな?
「店員さん、そこの耳飾りをください」
「え?」
「はーい、これですね。銀貨10枚になります」
俺は店員さんに銀貨10枚を渡す。
「はい、確かに。毎度あり」
「クレマーチス?」
カルミーアは驚いた表情で俺を見つめる。
「はい、カルミーア。俺からのプレゼントだよ」
「う、うん。ありがとう」
カルミーアは耳飾りを受け取ると、すぐに付けてくれた。
「うん、とても似合ってて綺麗だよ」
「そう? 嬉しいわ」
カルミーアが俺に見せた表情は今までにない感じだった。
——なぜだろう、ちょっとドキドキする。
そして、店員さんがグゥーとしているのが目に入った。
「よくやった!」と伝えたかったのかな?
しばらく二人で歩いていると、タフネスとリリーアが一緒にいるところが目に入った。
「私たちのことを茶化しておいて、あちらもまんざらじゃないわね」
「おーい、タフネスさん。こっちです」
俺が手を振って呼ぶとすぐに気がついてくれて合流してくれた。
「クレマーチス、デートは楽しかったかな?」
——何、タフネスの計画的犯行なの?
「はい、タフネスさんのお陰でとても楽しかったですよ」
「お、おう。それはよかった。あはは」
微妙な空気感の中、俺たちは宿屋に戻った。
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