第19話 ドワーフの街の惨状

 翌朝の目覚めは最高だった。

 気分爽快、やる気満々、10日間の疲れも一気に取れた感じだ。


 俺たちの支度が終わると、冒険者ギルドにあいさつをして次の街アルマを目指した。


「次の街はドワーフがいる街だわ」


「ドワーフかぁ、鍛冶師のイメージが強いね」


「そうだよ、そうだよ。俺の装備を作ってもらいたくてワクワクしてるんだ」


 アルマの街はドワーフがたくさん住む街で、武器や防具の鍛冶師、家具職人など人材が豊富と言われている。


 俺たちはかなりの量の素材を確保している。


 タフネスは新しい装備を作ってもらえる時が来たと心を躍らせていた。


 ——タフネスさん、市販品でよく頑張ってくれたよ。


 しかし、アルマの街に着くとかなり寂れている光景が目に映った。


 人通りもなく、壊れた建物が散見されていてまるで廃墟だ。


「おい、お前たちなにをしているんだ。外に出ていたら魔物が襲ってくるぞ。こっちへ来い!」


 一人のドワーフの人が俺たちを手招きしていたので、釣られて俺たちは近づく。


「さあ、こっちへ避難するんだ」


 ドワーフの人についてくると、壊れた建物の中に丈夫そうな地下への扉が見えた。


 一緒に地下まで行くと、そこには地下の街が広がっていた。


「強引に呼んで悪かったな。俺はグレーズンだ。こう見えてもドワーフの鍛冶師だ」


 初めて見た時は怖そうな雰囲気だったが、グレーズンは安全地帯に来てホッとしたのか気前のいいおじさんみたいな表情を見せた。


「あのう、グレーズンさん。なんでこの街はこのようになってしまったのですか?」


「ああ、数ヶ月前にスタンピードが起きたんじゃ。それでアルマの街は壊滅したんじゃ……」


 グレーズンさんは拳を強く握りしめて、言葉が詰まった。


 相当悔しくもあり、辛かったんだろうな。


「冒険者ギルドはありませんか?」


「そんなもん、とっくに壊滅しておるわい。全てはあの盗賊団が悪いんじゃ」


 グレーズンの説明によると、とある盗賊団が鍛冶師にとっての資源庫の鉱山を占拠したのが事の始まりだった。


 新たに素材を手に入れられなくなり、武器や防具が作れなくなった。


 自然と冒険者が減っていき、そこへダンジョンのスタンピードが起きたそうだ。


 残ったギルドマスターや冒険者たちで食い止めようとするも、呆気なく魔物たちの餌食になってしまった。


 そして、残った者で地下に穴を掘ってなんとか住めるようにしたそうだ。


「その盗賊団ってどんな奴らかご存じですか?」


「ああ、バリスとか言ったな。そいつをリーダーにして悪さを働かせていたみたいだ」


 バリスかぁ、あれからいろんなところで人々を困らせていたのか。


「バリスね。こんなところまで手を広げていたなんて、最低ね」


「お主たち、バリスを知っているのか?」


「ああ、そいつならとっくに俺たちが捕まえてやったよ。今頃マジックールの街で裁かれているだろうよ」


 グレーズンは驚きの表情をしながら感謝した。


 まさか、厄介な盗賊のリーダーを捕まえていてくれたなんて思ってもいなかったようだ。


 地下に隠れ住んでいる状態だから、他の街の情報なんて入ってこないよね。


「ありがとうございます。それだけでも浮かばれる者も多いことでしょう」


 スタンビードの引き金もバリスが引いたようなものだ。


 職人の宝庫と言われる街なので、装備も整えられるこの街でスタンピードを起こさせるなんてあり得ないだろう。


「冒険者ギルドはないけど、ダンジョン攻略をしていきましょう!」


「うん、アルマの街を放ってはおけないよ」


「そう言うことだ、グレーズンのおっちゃん。俺たちに任せておけって」


「な、なんと、報酬も出ないのにダンジョン攻略をしてくださるのですか?」


 俺たちはグレーズンに「ありがたや」と跪き、拝まれてしまった。


「グレーズンさん、アルマ周辺の地図はありますか? それと私たちの寝床を用意してもらえると助かるのですが」


「おお、それなら問題ない。部屋と必要最低限の家具はこちらで用意するよ」


「あと、キッチンもあったら嬉しいのだけど……」


「容易い御用ですとも」


 他にも生き残りの職人たちがいて対応可能のようだ。


 俺たちがダンジョン攻略に出かけて帰ってくる頃には用意すると張り切っていた。


「では、いってきますね」


「はい、ご武運をお祈りしております」


 って、俺たちは本当にドワーフの人たちからお祈りされてしまった。


「お祈り、ありがとうございます」


 俺たちは外に出ると、地図を広げてどのように攻略していくか計画を立てる。


「まずは北を目指しましょうか。それから時計回りでぐるっとまわりながら殲滅していきましょう」


「うん、取りこぼしがないように気をつけないとだね」


「あとは、すでにダンジョンから飛び出ている魔物たちにも警戒が必要だな」


 作戦は単純だ。


 俺はダンジョンを魔法で次々と壊していく。


 周りの魔物はカルミーアたちが倒していくと言うものだ。


 北に馬車を飛ばしていると、魔物の群れが近づいてくるのが分かった。

 ワイバーンの群れだ。


「タフネス、手綱は任せたわ。私に任せて」


「カルミーア、支援をかけるね」


『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』


「ありがとう、行ってくるわ!」


 カルミーアは馬車から飛び降り、猛ダッシュでワイバーンの群れへ向かっていく。


『獄炎爆炎剣!』


 カルミーアは魔剣に獄炎を纏わせ一振りでワイバーンたちを消し炭にした。


 見ている方も気持ちがいいくらいの無双っぷりだった。


「カルミーア、やるじゃないか」


 カルミーアは俺たちの方に近づいてきて、ヒョイっと馬車に飛び乗った。


「ええ、魔剣とクレマーチスのお陰だわ」


 ——いやいや、魔剣を使いこなしているカルミーアもすごいよ!


 ダンジョンに到着するまでは、カルミーアとリリーアが頑張ってくれた。


 アンデット系は、リリーアの聖属性魔法で一気に消し飛ばす。


 物質系やその他の魔物はカルミーアの魔剣で駆逐していった。


 ダンジョンに到着すると、俺はいつもの魔法でダンジョンを粉々にする。


『アイスミスト!』『スタン!』


 冒険者ギルドはないけど、念の為コア魔石は回収していく。


 放置しておいて復活などされたらたまったものではないからね。


 俺たちは日が暮れるまでダンジョン攻略を続けた。


 ブルット周辺と違うところは至る所に魔物の群れがいることだった。


 これが俺たちに疲労感を蓄積させてくれる、困ったものだ。


「さて戻るわよ」


「はいさ。早く乗ってくれぇ。飛ばすぜ!」


 って、飛ばすのは馬なのだけどね。


 俺はそっとお馬さんに癒しと身体強化の魔法をかけてあげた。


「うぉぉぉ、気持ちいいぜぇ!」


 タフネスはあまりにも馬が快調に飛ばすから興奮している。


「クレマーチス、なにやったのよ?」


「あ、いや、ちょっと馬に癒しと強化魔法を……」


「はぁ、そういうことね。まあ、いいわ」


 カルミーアは、俺が馬に魔法をかけたことではなく、タフネスの絶叫が耳障りだったことにイライラしていた。


 思った以上に魔物の群れを無視できるスピードで何も起こらなかった。


 しかし、タフネスにはカルミーアとリリーアからはきついお説教が待っていた。


 ——タフネスさん、ご愁傷さまです。


 アルマの街に到着すると、馬を荷車から外し俺たちと一緒に地下へ行く。


「おお、おかえりなさいませ。お部屋と家具は揃えております。ゆっくりお休みください」


 俺たちはグレーズンさんに今日泊まるところに案内された。


 本当にこれが簡易的な建物なのかと驚くほどの出来だった。


 ふかふかのベッドも用意していてくれてぐっすり休めそうだ。


「グレーズンさん、ありがとうございます」


 カルミーアが俺たちを代表してお礼を言う。


「いえいえ、このくらい朝飯前ですわ。それにしても、どれほど攻略されたのでしょうか?」


「えーと、ざっと20程よ」


「にじゅう!?」


 グレーズンは言葉を失うほど驚いた顔をした。


 おそらく一緒にいたら気を失ってしまうだろうな。


 しばらくするとグレーズンは正気に戻った。


「では、どのくらいの期間でダンジョン攻略が終わるのですか?」


「うーん、ざっと10日ほどで片付くと思うわ。そのあとは鉱山の調査もしましょうか」


 俺たちは常人の域を超えてしまっているのだろうな、グレーズンに「は、はぁ」と平伏されてされてしまった。

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