第36話 魔界への入口を探して

 俺はベッドに横になりながらカルミーアに話しかける。


「ねぇ、俺魔界へ行ってみようと思うんだ」


「え!?」


 それは驚くよな。


 でも、どうしても行ってみたいんだよなぁ。


 しかし、カルミーアから意外な答えが返ってきた。


「面白そう、私も連れていってくれるよね?」


 カルミーアは完全に行く気満々だ。


「じゃぁ、一緒に行こうか」


「うん。じゃぁ、明日に備えて寝ましょう」


「チュッ」


 俺はカルミーアとおやすみのあいさつをして眠りについた。


 翌日は王都の図書館へ行き、何か魔界に行くための良い資料がないか探すことにした。


 俺たちは朝食を済ませ、空間転移魔法で王都へ移動した。


 一度行ったことがある場所へ一瞬で行けるのは便利だ。


「カルミーア、図書館の場所はわかる?」


「ええ、一度近くを通ったことがあるから分かるわ」


 俺はカルミーアに案内してもらいながら図書館へ向かった。


 Sランクの冒険者証は有効で、止められることなく図書館に入ることができた。 


 司書の人に「魔界に関する資料はありますか?」なんて聞けないので自力で探すしかない。


 俺たちは二手に分かれてそれらしい資料を探すことにした。


 しばらくすると、俺たちはそれぞれ10冊程度の本を持って合流した。


 キャレルに本を置き、片っ端から本を読みあさっていく。


 1冊1冊読んでいくが、伝説上の話ばかりでヒントになるものがなかなか見つからなかった。


「クレマーチス、これってどういう意味かしら?」


 カルミーアが一冊の本を俺のところへ持ってきて、気になるページを見せてくれた。


『世界の狭間、それは世界の果てにあり。そこに異界へ通ずる亀裂があるなり』


 よく見るとカルミーアが持ってきてくれた本はかなり古びたものだった。


 異界とはおそらく魔界のことではないだろうか。


 世界の果てとはどこにあるのだろうか?


「カルミーア、ありがとう。いいヒントになった」


「そう、よかったわ」


 カルミーアは役に立ってホッとしたような顔をした。


 おそらくこれ以上のヒントを図書館で見つけるのは難しいだろうな。


「カルミーア、世界の果てって聞いたことある?」


「いいえ、聞いたことないわ。古い本に書いてあることなら、アルマの街へ行ってみない?」


 カルミーアは何か閃いたようだ。


「カルミーア、どういうこと?」


「歳を重ねた人なら何かわかるのではないかしら?」


「そうか、そういうことか」


 俺が気がつくとカルミーアはニッコリと笑ってくれた。


 アルマの街にはドワーフ族の人が多く住んでいる。


 ドワーフ族は長寿で有名だ。何かしらのヒントを得られるかもしれない。


 俺たちは図書館を出て、王都から離れる。


 周りに人がいないことを確認して、空間転移魔法でアルマの街へ移動した。


 アルマの街へ到着すると、以前より見違えるほど素敵な街に蘇っていた。


 冒険者や商人などかなりの人が戻って生活を営んでいた。


 だが、かなり街並みが変わっていてグレーズンがいる場所がわからなかった。


「すごいね、あれだけ酷かった街がここまで良くなるなんて」


「うん、そうだね。俺たちが頑張った甲斐があったよ。でも、グレーズンさんはどこにいるんだろう?」


 俺たちはなかなかグレーズンさんを見つけることができなかった。


 キョロキョロ見て回っていると、ドワーフの人に声をかけられた。


「これはこれは、私たちを助けてくれた冒険者さんじゃないですか」


「はい、お久しぶりです。用事があってこちらに来ました。前と比べてとても賑わっていますね」


「ええ、全て冒険者さんのお陰です。ありがとうございます」


 立ち話をしている場合ではないが、無下にもできない。


 さりげなく話題を変えないと……。


「あのー、グレーズンさんを探しているのですが、どこにいらっしゃるか分かりますか?」


「あ、ええ、あそこの鍛冶工房で働いていますよ」


 偶然出会ったドワーフの人がグレーズンさんが働いている工房を指差して教えてくれた。


「どうもありがとうございます。また来たときにはよろしくお願いいたしますね」


「いえいえ、こちらこそ。それでは失礼しますね」


 カルミーアが助けてくれてよかった。


 永遠に話し続けないといけないと思ったよ。


「カルミーア、ありがとう」


「どういたしまして。じゃあ、急ぎましょう」


 俺たちは急いで鍛冶工房に行き、グレーズンさんを呼んでもらえるようにお願いした。


 すると、直ぐに表に出てきてくれた。


「これはこれは、クレマーチスさんに、カルミーアさん。お元気そうで何よりです。それで、ワシに何か御用ですか?」


「はい、グレーズンさんに教えてもらいたいことがありまして」


「おお、ワシで答えられることなら喜んで」


「あのう、『世界の果て』って分かりますか?」


 カルミーアが質問すると、グレーズンさんは腕を組んで記憶を探っているようだ。


「世界の果て……うーん、どこかで聞いたことがあるようなないような……」


「どうしたグレーズン、何を悩んでいる?」


「ああ、ブローズンか。『世界の果て』について質問を受けたんじゃ。どこかで聞いたことがあるんじゃが思い出せなくてのう」


「そりゃぁ、北の北のずーっと北の果てのことじゃないか? 氷が全く溶けない極寒の地と呼ばれているところだよ」


「そうじゃ、思い出した。その通りじゃよ」


 極寒の地、そんなところがあるのか。


 普通の人が訪れることができない場所なのだろうな。


「クレマーチスさんとカルミーアさんは、その極寒の地に行くのかい?」


「ええ、そのつもりです」


 俺が返事をすると、グレーズンさんはまた考え始め、答えがわかると口を開いた。


「わかった。そのまま行くと死にに行くようなものじゃ。前にもらった素材で防寒装備を作ってやるわい」


「本当ですか? ありがとうございます」


「いいってことじゃよ。アルマをここまで復興できたのはクレマーチスさんたちのお陰なんじゃ。遠慮はせんでくれ」


 俺たちはグレーズンさんの好意に甘えさせてもらうことにした。


 ただし、装備が完成するのは明日ということだった。


 俺たちは装備の完成を待つため、アルマの街で1泊することになった。


 翌朝、朝食を済ませグレーズンさんのいる鍛冶工房へ向かった。


 鍛冶工房ではグレーズンさんが待っていてくれた。


「おはようございます。お待ちしておりました。こちらが、例の防具です」


 俺は防寒用の装備をグレーズンさんから手渡された。


「ありがとうございました。徹夜で作られたんですか?」


「ワシらが集中したらそんなもんじゃよ。気にせんでええよ」


 職人魂ってすごいんだな。尊敬してしまう。


「グレーズンさん、お世話になりました。また機会がありましたら、遊びにきますね」


「ああ、また来ておくれ」


 俺たちはグレーズンさんに見送られながらアルマの街を離れた。


「クレマーチス、北の果てってどうやって行くの?」


「とりあえず、俺が行ける一番北の街へ行ってそこからは、飛んで行こうと思ってるよ」


 ここから俺が知っている北の街はマージアだ。


 俺はカルミーアを抱え空間転移魔法でマージアへ移動した。


 着いた場所はこの前と同じで森の中だった。


「カルミーア、気持ちはわからなくないけどこのまま行くよ。大丈夫?」


「ええ、問題ないわ」


 俺はカルミーアを抱える。


『フライ!』


 俺は空高く飛び上がり、北の方角を確認する。


「カルミーア、ちゃんと掴まっててね。スピードを上げて行くから、なるべく目を閉じておいた方うがいいよ」


「うん、わかった」


 俺はカルミーアをしっかり抱いたまま、真っ直ぐ北へ全速力で飛んでいった。

 

 やはり北へ行けば行くほど気温が下がってきているのがわかった。


 ただ、グレーズンさんの防寒装備のお陰で寒さをほとんど感じない。


 とてもありがたいことだ。

 

 しばらく北へ向かって飛んでいくと、先の方に何か光るものが見えた。


 北の最果てだ、きっとそこに世界の狭間があるはずだ!

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