第37話 黒龍王の討伐(魔王のライバル)

 俺とカルミーアは北の最果てに辿り着いた。


 ここは雪と氷だけの極寒の地だ。


 グレーズンさんの作ってくれた装備がなければ凍死をしていることは間違いないだろう。


「ここが北の最果てなの?」


 ぐるっと見渡してみても同じ光景にしか見えないので、カルミーアは不思議な感覚に包まれているようだ。


 俺も同じだ。


「そんな感じがする。どこかに『世界の狭間』があるはずなんだけどね」


 吹雪がすごくて遠くを視認しにんすることが難しい。


 俺は魔力的な何かがあるのかと思って集中して探っている。


 俺は目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる……。


 しばらく集中して探っていると、なんとなく光るものがあるような気がした。 


 俺は目を開ける。


「あっちだ!」


 俺は何かを感じた方向を指差して叫んだ。


 俺が急に叫んだのでカルミーアが少しビクッとなってしまった。


「驚かせてしまってごめんね」


「ううん、大丈夫よ」


 俺はカルミーアの手を強く握って、感覚を頼りに全身する。


 進めば進むほど吹雪の強さが増しているように感じた。


 俺たちの接近を拒むかのようだ。


 俺たちが進むにつれて、何かの力のような感じが大きくなってきている気がした。


 ——近くに何かがある!


 カルミーアがトントンと俺の肩を叩いて、ある方向を指差した。


「あれ、何か光っていない?」


 俺はカルミーアが指差した方向を見る。


 光のような、空間が歪んで見えているような不思議なものが存在していた。


 俺たちは恐る恐る近づいていく。


 近づいて行っても特に何かが起こることはなかった。


「これが『世界の狭間』なのだろうか?」


 迂闊に入ったら何が起きるかわからない。


 慎重に進まなくてはと俺は思う。


「この先に魔界があるのかな?」


 カルミーアは俺の手をぎゅっと強く握りしめる。


 未知なる世界に行くのだという不安や恐怖心があるのだろう。


「カルミーア、俺にしっかりとしがみついて。魔力障壁を展開して中に入るよ」


「うん」


 カルミーアは俺の腕をしっかりと掴み体を寄せる。


 俺は魔力障壁を展開して「世界の狭間」に侵入していく。


 入った瞬間に圧力のようなものを感じたが、魔力障壁を展開しているので圧迫されて潰されることはなかった。


 カルミーアは目を閉じていたが、俺はしっかりと目を開けて前進した。


「カルミーア、もう目を開けていいよ」


 俺たちが目にしたものは、人間の世界とは異なる空間が広がっていた。


 辺りは薄暗く、溶岩などの薄い光でなんとか魔物や物が見える感じだ。


 岩や石ころだらけで植物はほとんど存在していない。


 更に、今まで極寒の地にいたのが嘘みたいに温度が高い。


 防寒装備を着ているのが苦痛に感じるほどだ。


「すごいわね。ここが魔界なのかしら?」


 カルミーアも俺と同じように辺りを見回している。


 カルミーアは俺にしがみついてるので、カルミーアの少し早目の鼓動が直に伝わってくる。


「カルミーア、大丈夫だよ。俺から離れないでいてね」


「うん」


 俺がカルミーアに声をかけると、カルミーアの鼓動が安定してきた。


 俺たちが魔界を彷徨さまよっていると、魔界の魔物たちが襲ってきた。


 しかし、それほど強い魔物が多いというわけでもなさそうだ。


 俺の魔法で簡単に倒せてしまった。


「思っていたほど魔界の魔物も強くないわね」


 カルミーアは警戒していたほど危険ではないようでホッとしたようだ。


 カルミーアも魔剣を手に取り、一緒に戦う姿勢をとった。


「じゃあ、念の為に支援魔法をかけておこう」


『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』


 俺たちは身体強化を施して、強敵が来ても対処できるように準備をした。


「ありがとう、クレマーチ」


 カルミーアはいつもの表情に戻ったみたいだ。


 新しい冒険を楽しもうとしている。


 ただ、残念なのは古竜より強い魔物がなかなか現れないことだ。


 襲ってくる魔物には悪いけど、ため息しか出ないよ。


 しばらく歩いていると、そこそこ魔力が高い魔物が近づいてきているのがわかった。


 しかも、そこそこの速さで近づいてきている。


「カルミーア、何かが来るよ。警戒してね」


「ええ、わかったわ」


 俺とカルミーアは近づいてくる魔物に対して警戒体制をとる。

 

 近づいてきたのはドラゴンのようだ。


 ブラックドラゴンのように漆黒の色をしている。


「ほう、人族が魔界に迷い込んだようじゃのう。残念じゃが、ワシの養分となるがよい」


 驚いた、ドラゴンがしゃべるとは……。


 目の前のドラゴンが殺気を放ってくるも、俺たちはひるまなかった。


「ほう、ワシの殺気に何も反応せぬか……まぁよい、死ねー!」


 ドラゴンはいきなり漆黒の色のブレスを吐いてきた。


『アイスウォール!』


 俺は氷の壁を作ってブレスを止める。


 若干氷が溶けるくらいで、特に問題はない。


「何!? そんな初級魔法でワシのブレスを止めるじゃと!」


 ドラゴンは初級魔法に自分のブレスを止められたことにショックを受けているようだ。


「そんなに大したことはないわね」


 カルミーアはやる気だ。


獄炎爆炎剣ごくえんばくえんけん!』


 カルミーアは魔剣に獄炎をまとわせる。


「なんじゃと! それはあいつの魔剣ではないか!?」


 ドラゴンは、カルミーアの魔剣を見て驚いている。


 あいつって、ケイオスディスカトールを知っているのかな?


「いくわよ。たぁぁぁ!」


 カルミーアは突進していく。


 ドラゴンは、鋭い爪でカルミーアを切り裂こうとする。


 しかし、カルミーアの方が上手うわてだ。


 カルミーアはドラゴンの片足の指を全て切り裂いた。


「うぎゃぁぁ! よくもやりおったなぁ!」


 ドラゴンは怒り狂って魔力を溜め始めた。


 ——魔力を溜める時間なんて与えないよ!


『エアカッタ!』


 俺は風の魔法を放ち、風の刃がドラゴンの首を目がけて飛んでいく。


「ふん、そのような初級魔法で……」


 ドラゴンは無事な方の前足で魔法を防ごうとするも、簡単にドラゴンの前足と首を切り裂いた。ドラゴンは即死だ。


「やったね、クレマーチス!」


 カルミーアは喜んで俺に抱きついてきた。


 古竜よりは強かったのでよい素材になりそうだ。


 俺とカルミーアとしては満足だ。


『アイスミスト!』


 俺は倒したドラゴンの鮮度を保つために、氷の魔法で凍らせて収納した。


「また同じようなドラゴンはいないかなぁ?」


「うーん、どうだろうね。しゃべるドラゴンなんて初めて見たからなかなかいないんじゃない?」


 カルミーアの言うことはもっともだ。


 とても希少種なんだろうなと思いながら、俺たちは魔界の散策を続けた。


 散策を続けて数時間、カルミーアが何かを見つけたようだ。


「ねぇ、あそこに大きな建物があるよ!」


 カルミーアが指差した先に大きな城のようなものが立っているのが見えた。


 ——まさか魔王の城じゃないよね?


 カルミーアは行きたくてうずうずしているようだ。


 ——それほど大きな魔力を感じないし、大丈夫だろう。


 俺たちは大きな城に向けて歩き始めた。

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