第2話 幼馴染に誘われて冒険者になる
「へぇ、ここがマージアの街かぁ」
俺は10歳からずっと屋敷の敷地内にいて外に出ることは許されなかった。
街に出ることなんて1度もなかった。
新しく見る景色が新鮮で俺は心を躍らせていた。
「クレマーチス、冒険者ギルドへ行くわよ」
俺がキョロキョロ街の様子を眺めていると、カルミーアは強引に俺の腕を掴んで進んでいく。
——あのぅ、当たってるんだけど……。
「着いたわよ。どうしたのクレマーチス? 顔が赤いわよ」
カルミーアは、俺の顔がなんで赤いか不思議そうな表情で俺を見る。
「いや、なんでもないよ。気にしないで……」
「ふーん、変なクレマーチス」
俺はカルミーアに連れられて冒険者ギルドの建物の中に入っていく。
——強そうな人がいっぱいいるなぁ。
「すみません、素材の換金をお願いします」
カルミーアは大きな声で受付のお姉さんを呼び止める。
「はーい。どれかしら?」
受付のお姉さんは、ささっと受付台に寄ってきて対応をする。
「グリーンウルフの素材をお願いするわ」
「はーい。『鑑定』……」
ギルドの職員は『鑑定』の魔法が使えるのが採用条件のようだ。
冒険者が偽物を持ってきてもすぐにバレてしまう。
ズルはしちゃだ目だよなぁ。
「はい、素材代で銀貨10枚ね」
「ありがとう」
——銀貨10枚!? 結構な金額になるんだな。
「クレマーチス、クレマーチス。聞こえてる?」
「あ、あぁ、うん」
「ぼうっとしない。あなたも冒険者登録をするのよ!」
「え、俺が?」
俺が冒険者になることなんて全く思っていなかたからびくりした。
「そうよ。これから一緒に冒険をするんだから、当たり前じゃない」
——まぁ、行くあてもないし、素材で結構稼げて生活に困らなそうだからいいか。
「うん、わかった。どうすればいいの?」
俺がカルミーアに質問すると、カルミーアは受付のお姉さんのところへ再度駆け寄った。
「お姉さん、クレマーチスの冒険者登録をお願いできますか?」
「はい、こちらの登録用紙に記入してもらってね」
俺はカルミーアからもらった登録用紙に必要事項を記入した。
記入が終わるとカルミーアが受付のお姉さんに登録用紙を渡す。
「はい、職業は魔法使いですね。……こちらがギルド証になります」
俺はギルド証を受け取る。
——わぁ、これがギルド証かぁ。
これは身分証としても使えて、いろいろな街に出入りするためにも必要な物らしい。
「頑張ってクエストをこなしてね」
「はい、頑張ります!」
これで終わりかと思ったら、まだ何かあるらしい。
「あ、ついでにパーティー登録をお願いします」
——パーティー登録?
パーティーは冒険者同士で勝手に組む物ではないらしい。
しっかりと契約書にサインしてパーティー結成が許される。
「はい、お二人で大丈夫ですか?」
「ええ、私とクレマーチスでお願いします」
カルミーアは俺は、契約書にサインをしてパーティー結成完了だ!
これからは、カルミーアと一緒にパーティーとしてクエストをこなしていくことになった。
グゥゥゥゥ! 俺の腹の虫が勝手に鳴いてしまった。
「あはは、クレマーチス、お腹が空いているのね」
恥ずかしそうな表情をしている俺を見て、カルミーアは大笑いをする。
「あはは、そういえば朝から何も食べてなかったよ」
俺は愛想笑いをして誤魔化そうとする。
「じゃぁ、オススメの定食屋を紹介してあげる。今日は私の奢りよ!」
カルミーアの表情からして、相当美味しいものなんだろうな。
期待感が高まるよ。
そして、カルミーアはまた俺の腕を強引に掴んで定食屋に連れていかれる。
——だから当たってるってぇ……。
マージアの街はそんなに広い街ではないので、すぐに定食屋に到着する。
「へい、いらっしゃい。なんだ、カルミーアのお嬢ちゃんか。お、今日は彼氏を連れてきたのかい?」
カルミーアはお店の人とかなり馴染み深いようだな。
——って、俺がカルミーアの彼氏って……。
「え、ち、違うわよ。ただの幼馴染だよ……。それより、いつもの2人前でお願いね」
カルミーアは一生懸命な表情で否定をする。
実際そうじゃないけど、ハッキリ否定されると辛いものもある。
「あいよ、席に着いて待ってておくれ」
店の人に案内され、俺たちは定食屋の席についていつもの料理を待つ。
「って、いつもの料理ってなんだ?」
「見ればわかるわよ。楽しみにしてて」
しばらく待っていると、店主が2つの四角いお盆をもってやってきてテーブルに置いていく。
「お待たせ、ニラレバ定食2人前ね」
「ありがとう。さぁ、クレマーチス食べて食べて!」
——俺、レバー苦手なんだけど……。
カルミーアにキラキラした目で見つめられると「レバーが苦手」なんて言えなかった。
「じゃぁ、いただきます。あーん。もぐもぐ……うまい! こんなにおいしく食べられるなんて、ある意味魔法みたいだ!」
——レバーが苦手な俺でも食べられるなんて信じられない!
「でしょう、ここの店主のニラレバ定食は絶品なのよ! あれ?」
カルミーアは何かを見つけたかのように、首を傾げる。
「うん、どうしたの?」
カルミーアは目を擦って再度、俺の顔を見た。
——俺の顔に何かついているのだろうか。
「もう一口、ニラレバを食べてみて」
カルミーアは何かを観察するかのように俺をジーと見る
「あ、ああ。あーん、もぐもぐもぐ」
「うーん?」
やっぱり、カルミーアは首を傾げる。
「ねぇ、おじさん。今日のレバーってどの魔物のものを使ってるの?」
カルミーアは今日の素材は何かを聞いているみたいだ。
自分でも作るのかな?
「え? ああ、先ほど新鮮なグリーンウルフのレバーが届いたんでなぁ。なんだお嬢ちゃん、彼氏に料理を作ってあげるのかい?」
「だから、ち、違うってばぁ……。でもそうね、私が作るってのもアリよね……」
彼氏は否定されたけど、料理はしたいのかな?
俺たちは食事が終わると、定食屋を出て宿屋へ向かった。
「おばちゃん、部屋ってまだ空いてる?」
「あいよ。部屋ならいっぱい空いてるよ。大きな声で言えることじゃないけどね」
「それじゃぁ、もう一人分をとりあえず……10泊分お願いします」
「同じ部屋でいいのかい?」
「いえいえいえ、別の部屋でお願いします」
カルミーアは焦っているようないつもと違う表情で受け答えをする。
「そうかい、てっきり彼氏かと思っちまったよ。おほほほ」
「もう、みんなおんなじことを言うのね。お、幼馴染ですよー」
「はいはい。そういうことにしておきますよ」
それにしてもカルミーアは街の人にかなり気に入られているようだ。
みんなの対応がすごく明るくて柔らかい。
しばらくはこの宿を拠点として冒険をしていくようだ。
部屋を借りて俺は自分用の部屋へ向かう。
家を追い出された時は、どう生きていけばいいのか不安だった。
カルミーアと出会えて冒険者という道を示してもらえて本当に嬉しかったよ。
――カルミーアありがとう。
心の声が聞こえたのか、カルミーアが俺の部屋に入ってきた。
「クレマーチス、今いいかしら?」
「うん、大丈夫だよ」
なんだろう、昼間のカルミーアの表情と違ってちょっと暗い感じだ。
――どうしたのだろうか。
「あのね、話しておきたいことがあるの。私、家を飛び出してきちゃったの……」
「え、何か嫌なことがあったの?」
カルミーアは本当に切実そうな表情で「うん」と呟きながら頷いた。
カルミーアは俺の弟、ハルトグートと婚約させられそうになったらしい。
それが嫌で家を飛び出してきたそうだ。
「2歳も下だし、生理的にも無理だし、同じ家ならクレマーチスの方がいいって言ったらお父様は……」
カルミーアの父親の言葉は俺には簡単に想像できた。
「そうか……。実を言うと、俺は実家を追い出されてきたんだ。もう帰る場所はないんだ……」
「そうだったの。クレマーチスも大変だったのね……」
――重い、非常に空気が重い。こんな時、どうしたらいいんだろう……。
しかし、カルミーアがいきなり前向きな表情に変わって立ち上がった。
「カルミーア、どうしたの?」
「ぐちぐち悩んでても仕方ないわね。二人で冒険者として成り上がって親をギャフンと言わせてあげましょう!」
「お、おう」
――カルミーア、気持ちの切り替え早くない?
「じゃぁ、スッキリしたから私は寝るわね。明日もよろしくね。おやすみ、クレマーチス」
「あ、ああ、おやすみ、カルミーア」
カルミーアはスッキリした表情をして自分の部屋へ戻っていった。
お陰で俺も何か吹っ切れたような気がした。
ベッドに横になりすぅっと夢の中に引き込まれていった……。
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