【レバーを食べて魔力アップ!】〜実家にも勇者パーティーにも追放された初級魔法しか使えないクズ魔法使いは、幼馴染のレバー料理で史上最強の存在になってしまう〜

藤野玲

第1章 実家と勇者パーティー追放

第1話 実家から追放される

 俺はクレマーチス、由緒ある魔法使いのマーレスボルコ公爵家の長男として生まれた。

 幼少期は、全属性適性のある魔法使いという希少な存在に俺は家族達からとても大切に育てられていた。


 だが、俺は10歳になっても中級の魔法を一つも使えるようになれなかった。

 いつになっても俺が中級以上の魔法を習得できなくてお父様は苛立ちを顕にすことが増えていった。

 お父様は「もう待てない」ということで、人物鑑定ができる魔法使いを呼びつけて俺を鑑定した。


 結果は全属性持ちの弊害で「初級魔法しか使えない」ということだった。

 お父様は落胆した。

 俺はその日以来、お父様と顔を合わせることは1度もなかった。


 逆に、弟のハルトグートは8歳で中級魔法を使えるようになった。

 お父様は上機嫌で、ハルトグートを跡取りとして可愛がるようになった。

 

 弟の属性は3つ「火・水・風」で、この世界では属性が3つというのは、ごく平凡な数だった。

 しかし、お父様にとっては「初級魔法しか使えない」方が耐え難い汚点だと思っている。


 属性の多さよりも上級、超級の魔法が使える魔法使いの方が評価される。

 初級魔法しか使えない俺は、この家には必要のない存在なのだろう。


 それでもお祖父様はいろいろと俺の面倒を見てくれた。

 魔法の知識、工夫の仕方、魔力の使い方など……。

 俺がどんなに無能でも、孫は可愛かたったらしい。

 それが俺にとって、せめてもの救いだった。


「クレマーチスや。しっかりと魔力を高め魔法使いとしての知識を高めれば、其方のハンデなどきっと覆せるはずじゃ。めげずに鍛錬を頑張るのじゃぞ」

「はい、お祖父様」

 お祖父様の優しい笑顔は今でも忘れられない。


 しかし、お祖父様が老衰で亡くなると、完全に俺の味方はいなくなり堅苦しい生活を送ることとなった。



 15歳の誕生日を迎えた日、俺はお父様から5年ぶりに呼び出された。


「クレマーチス、お前はこの家から出ていけ。『初級魔法しか使えない』魔法使いは我が家の恥だ。息子でもなんでもない!」


 俺はお父様から誕生日のお祝いの言葉ではなく、信じられない言葉をかけられてショックを受けた。


「お父様、お考え直しください。お願いします。家から追い出さないでください!」


 俺は必死の形相でお父様に懇願する。

 しかし、非情で世間体を一番気にするお父様には声が届かなかった。


「うるさい、お前がいるだけで公爵家の品位が下がる。成人するまで面倒をみてやっただけありがたく思え。これ以上文句を言うなら焼き殺すぞ!」


 お父様は急に立ち上がり、ものすごい形相で手のひらに炎を纏わせる。


「ひぃぃ!」


 俺は驚き逃げるように家を飛び出した。

 家の外に出るといきなり炎の塊が飛んできた。


「うわぁ!」


 炎に包まれて、俺は炎を消すために転げ回った。


「悪い悪い。おにい……いや、もう兄ではなかったな。クズ魔法使い」


 炎の塊を飛ばしてきたのは俺の2歳下の弟、ハルトグートだった。

 小さい頃は「お兄様」と慕ってくれていたが、ある時期を境に俺を見下すようになっていた。


 それは、お父様に弟が可愛がられるようになり、俺が雑な扱いを受けるようになった頃だった。


「ハルトグート……」


「気安く俺様の名前を呼ばないでくれないかな、クズ魔法使い。そういえばもう部外者だったな。不法侵入だな、排除してやる」


『紅蓮の炎でクズを焼き尽くせ、ファイヤーバード!』


 ——ハルトグートは俺を殺すつもりか!?


『ファイヤーボール!』


 俺は初級の炎の魔法で応戦するも、あっけなく炎に包まれ屋敷の外まで吹き飛ばされてしまった。


「ぎゃぁっははは。初級魔法で中級魔法に敵う訳ないだろう。お前は馬鹿か。二度と顔を見せるなよ」


 ハルトグートが屋敷に戻ると門は閉じられ、俺は二度と実家には帰ることができなくなってしまった……。


 ——悔しい。俺は無力だ……。



 しばらく俺は火傷のダメージで動くことができなかった。

 やっと手が動くようになると自分に回復魔法をかける。


『ヒール』


「いっつ、まだ体がヒリヒリするなぁ。うっぐ……」


 俺は起き上がり、自分を癒し片足を引きずりながらゆっくり歩き始めた。


 しばらく歩いて森の中に足を踏み入れる。


 ——森を抜ければ街に……血の臭い? 誰か戦っている?


「きゃぁ!」


 女の子の悲鳴だ!


 ——頼む、間に合ってくれ!


『ソニックブースト!』


 俺は俊敏性を上げて、痛みを我慢して魔物の気配を目がけて倒木や岩などを巧みに避けながら駆けていく。


 見えてきた、グリーンウルフの群れだ!


 ——間に合ってよかったよ。


『ファイヤーウォール!』


 俺は炎の壁を作り、グリーンウルフの群れと少女を分断した。


 ——可愛い子だなぁ、いや、今のうちに回復を……。


「って、カルミーア!?」


 俺の目の前にいる少女は幼馴染のカルミーアだった。

 カルミーアは、ワインレッドの髪を後ろに結び、幼さが若干残るが整った顔立ちをしていた。

 幼少期はまだ俺は自由に外出ができて、カルミーアともよく遊んでいた。

 面影が残っていたので、一眼で分かった。


 しかし、カルミーアが冒険者の格好をしていて少し驚いた。


「クレマーチス?」


『ヒール』


 俺の回復魔法でカルミーアの傷がみるみる回復していく。


「ありがとう、クレマーチス」


 カルミーアは、安心した表情に変わる。


「お礼はまだ早いよ。炎の壁が消えたらまたグリーンウルフが襲ってくるよ」

「ええ、わかってるわ」


『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』


 次はグリーンウルフに苦戦しないように、俺はカルミーアに支援魔法をかける。


「クレマーチス、支援ありがとう。体が軽く感じるわ」


 炎の壁が消えると、グリーンウルフ5匹が俺たちに一斉に襲いかかってきた。

 俺は『ファイヤーボール』で牽制して、グリーンウルフたちをバラバラに離していく。

 1対1ならカルミーアの方が断然強い!


「たぁぁ! ……ほんと、いつもよりスムーズに動けるわ!」


 カルミーアは1体1体を確実に仕留めていく。


 ——カルミーアの剣技には惚れ惚れするなぁ。


 気がつくと、カルミーアはグリーンウルフたちを全て片付けていた。


「さ、さすが、カルミーアだ」


「ううん、クレマーチスのお陰だよ。ありがとう」


 カルミーアは嬉しさのあまり俺に抱きついてきた。

 

 ——こういう無垢なところは変わっていないんだな。でも、少し恥ずかしいよ。


「こ、ここにいると危険だから、早く街に行こう!」

「そうだね。話は街に行ってからしようね」


 俺とカルミーアはグリーンウルフの素材を回収して、魔物に襲われないように早々と街に向かった。

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