第4話 幼馴染との共同生活が始まる
ある日、カルミーアから話したいことがあるからと俺の部屋にやってきた。
「クレマーチス、入っていい?」
「いいよ」
カルミーアはたくさんの資料を手にして入ってきた。
「ねぇ、これを見て、どれがいい?」
カルミーアが俺に見せてきたのは借家の物件情報だった。
「え、カルミーア、家を借りるの?」
「そうよ。冒険者ランクも上がってきたし、報酬も増えてきたからね。ここは奮発して家を借りちゃおうと思ったのよ!」
うーん、確かにずっと宿屋に泊まっている方が高くつくから悪くはない……。
「うん、わかった。けど、カルミーアと二人で同じ屋根の下で暮らすことになるんだよ?」
「え? 別に構わないわ。キッチン、リビングと部屋が2つある物件を選ぶから!」
——いやいや、そういうことを言っているんじゃないんだけどなぁ……。
「料理は私に任せてちょうだい! 腕によりをかけて作るからね!」
やっぱり、食事管理はカルミーアになるようだ。
カルミーアは「冒険者たるもの食事での栄養摂取も大事だわ!」と言っていたからなぁ。
「で、やっぱり毎食ニラレバ定食になるの?」
「私が料理を作ることに文句があるの?」
カルミーアの表情が怖い。
ちゃんとカルミーアの機嫌をとってあげないと……。
「嬉しいなぁ、カルミーアが作ってくれる料理が食べたいなぁ。けど、いろんなレシピのものも食べたいなぁ、なんて」
「それもそうね。いつも同じレシピだと飽きるわよね」
——いや、とっくに飽きてるんですけど……。怖くて言えない。
「じゃぁ、これで決定ね。また明日ね。おやすみ、クレマーチス」
結局、借りたい物件は既にカルミーアが決めていたみたいだった……。
「うん、おやすみ、カルミーア」
カルミーアの行動力はすごいな、ずっと引っ張ってもらっている気がする。
——俺も頑張って成長しないといけないな。
翌朝……。
——うん? 誰かの気配を感じる……。
俺はそっと目を開くと、カルミーアの顔が目に入った……。
「え!? なんでいるの?」
俺はびっくりして飛び起きて、後退りして壁に寄りかかった。
「おはよう。起こしに来たんだけどなかなか起きないから、ジーっと待ってたのよ」
「あ、ああ、そうなんだ。ごめんね、なかなか起きなくて」
「いいわ、早く行きましょう。今日は予定がいっぱい入っているんですもの」
そうだ。今日は朝食を食べて、借家の契約をして、クエストをこなしてと予定がぎっしりだ。
スケジュール管理は全てカルミーア任せなので大丈夫だろう。
朝食はいつものニラレバ定食を食べて、借家の契約を済ませにいく。
契約できるのは借家だけでなく、お店だったりいろいろな契約関係のことを請け負ってくれるところらしい。
いわゆる何でも屋というところだ。
「はい、いらっしゃいませ。おお、この間のお嬢ちゃんかい。もう物件は決まったかい?」
「はい、この家を借りたいんですが、まだ空いてますか?」
カルミーアは自分が選んだ物件の紙をお店のおじさんに見せた。
お店のおじさんは片目の眼鏡をしていて、体つきは結構いい。
昔は冒険者でもやっていたのだろうか。
「おお、ここならまだ借り手はいないよ。契約前に一回見にいこうか?」
「はい、よろしくお願いします」
俺とカルミーアはおじさんに、これから借りる家を案内してもらった。
その家はもう何年も誰も住んでいなかったようで、かなりコケなどが生えていて中も煤だらけだった。
「うわぁ、素敵なお家ですね。ちゃんとキッチンもある。寝室用のお部屋も素敵だわ。ちゃんとお風呂もある。おじさん、即決で!」
カルミーアはものすごいハイテンションだ。しかも即決!?
「毎度! じゃぁ、この契約書にサインしておくれ」
「あ、はい」
カルミーアは契約書にサインをして、補償金として銀貨10枚、1ヶ月分の家賃銅貨100枚を支払った。
家賃は宿屋に居続けるよりお得なんだけど、最初の補償金が高いんだよね。
「よし、契約成立! 今日からお嬢ちゃん達の愛の巣だ。頑張れよ!」
「も、もう、幼馴染って言ってるでしょう!」
「あはは、はいはい。頑張れよー」
おじさんはカルミーアの言葉に全く耳を傾けずに行ってしまった。
——俺たちの愛の巣って、はたから見たらそう見えるよね?
「クレマーチス、必要そうなものを買ってくるから家のお掃除をお願いしてもいい?」
「あ、うん。大丈夫だよ。やっておくよ」
「じゃぁ、行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
カルミーアは買い出しのため市場の方へ歩いて行った。
「よし、ちゃっちゃと掃除を終わらせちゃいますかぁ」
俺は魔法使い、生活魔法は初級中の初級の魔法だから得意なのだ。
って、自慢できることじゃないから実家から追い出されたんだけどね……。
『ハウスクリーニング!』
家の中や外の汚れや煤などを除去する生活魔法だ。
キッチン、リビング、寝室と順番に綺麗にしていった。
最後に外回りを綺麗にして掃除の完了だ!
薄汚れた家があっという間に新築みたいに綺麗に仕上がった。
「あとは雑草を刈るだけだな。よし」
『エアカッター!』
初級の風魔法で、草刈りにはちょうど良い。
だがしかし、魔法の威力が上がっていたのを忘れていた。
近くの林の木々を薙ぎ倒してしまった……。
——ぬぉぉぉ、やってしまった!?
俺は頭を抱える。
とりあえず怒られないように林を綺麗にしておこう。
薙ぎ倒した木々は『アイテムボックス』に収納した。
家の囲いを作ったりする材料にもなるからね。
後は不自然にならないようにならして終わりだ。
——よし、これで大丈夫だろう。たぶん……。
まさか草刈りが一番苦労するとは思わなかった。
『エアカッター』を最小出力に調整するのがかなり難しかった。
地道に道具を使って草刈りをした方が早かったかもしれない。
しばらくすると、カルミーアがたくさんの荷物を抱えて帰ってきた。
「ただいまぁ」
「おかえりー、カルミーア。荷物たくさんだね。半分持つよ」
「うん、ありがとう。って、すごく綺麗になったじゃない。これをクレマーチス一人でやったの?」
「うんそうだよ。中も確認してよ。びっくりするから」
そう言いながら、俺とカルミーアは家の中に入っていく。
「うわぁ、何これー! 新築の家みたいに綺麗になっているじゃない!」
俺は「よし!」と小さくガッツポーズをする。
カルミーアは、はしゃぎながら部屋中を飛び回っている。
——はしゃいでるカルミーア、可愛いなぁ……。
「ぼうっとしちゃって、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。喜んでくれてよかったよ」
「うん、ありがとう」
こうして、新しく借りた家で俺とカルミーアとの共同生活が始まるのだった。
しかしながら、やっぱり毎食レバー料理だった。
レシピのレパートリーが増えたのがせめてもの救いだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます