第3話 弟のハルトグートが連行せれる
翌朝……。
「うげぇぇ!」
いきなりお腹に衝撃が入り、俺は声を上げながら目を覚ました。
目を開くとカルミーアが俺に乗っかっていた。
「クレマーチス、いつまで寝てるの? 朝ごはんを食べに行くわよ」
「おはよう、カルミーア。重たいから降りてもらえるかな?」
カルミーアは顔を赤くしてひょいっと俺から降りた。
「女の子に対して『重い』って失礼じゃない? ふん」
——カルミーアはこれでも女の子だから、言葉は選んだ方がいいよね。
——って、「これでも」って言ったらまた怒られそうだな。
「ごめんよ。機嫌直してくれよ……」
グゥゥゥゥ!
「あはは、もういいわ。昨日の定食屋に行きましょう」
「え、朝からやってるの?」
「そうよ、だから早く支度してよね」
俺は支度を終えて部屋を出ると、カルミーアが俺の腕を強引に掴み引っ張られていく。
——だから、柔らかいものが当たってるんですけど……。
俺たちはカルミーアに引っ張られて昨日の定食屋に到着した。
「おお、お嬢ちゃん、おはよう。今日も彼氏と一緒かい?」
「だから違うって言ってるじゃない……。おじさん、いつものお願いね2人前よ」
「あいよ」
席について俺たちは朝ごはんを待っている……。
「はい、お待たせ。いつものやつだよ」
朝ごはんもニラレバ定食だった……。
「うん、やっぱり」
「え、なにがやっぱりなの?」
「ううん、なんでもない。気にせず食べて」
カルミーアは何か考え込んでいる感じで、俺がニラレバ定食を食べてる様子を見ていた。
まさか毎日3食全部ニラレバ定食じゃないよね、ないよね?
その後、俺とカルミーアのコンビで次々とクエストをこなしていった。
案の定、毎日3食ニラレバ定食だった……。
いつもカルミーアは俺がニラレバ定食を食べるのを嬉しそうに眺めているから嫌だとは言いなかった。
——たまには別の料理を食べたいよう。
◇
カルミーアとの出会いから数週間が経って、今日も冒険者ギルドに向かう。
「早くBランク冒険者になれるように頑張りましょう!」
「お、おう!」
カルミーアはいつも元気だ。その元気にいつも勇気づけられているんだけどね。
しかし、もう二度と会いたくない奴と顔を合わせてしまった。
「カルミーアさん、探しましたよ。私と一緒にご実家に帰りましょう。そして婚約をいたしましょう」
弟のハルトグートは以前よりも増して贅沢な体つきになっていた。
——いったい何を食べればこんな体つきになるんだろう。
「嫌よ、なんで、ぶ……いえ、あんたなんかと婚約しないといけないわけ?」
「親同士が決めたことです。それに私は貴女をとても気に入っています。それにしても、なぜクズ魔法使いと一緒にいるのですか?」
「クレマーチスを馬鹿にしないでちょうだい。私のパートナーなのよ。『クズ魔法使い』って言ったことを撤回してちょうだい」
カルミーアは必死な顔でハルトグートに抵抗する。
——カルミーアの言葉がとても嬉しいよ。
「クズにクズと言って何が悪い? こいつは『初級魔法しか使えない』出来損ないの魔法使いだよ?」
カルミーアは強く拳を握りしめる。
「クレマーチスは出来損ないの魔法使いなんかじゃないわ。あんたよりも優れているんだからね!」
ハルトグートの眉毛がピクリと動いた。
何か癇に障ったようだ。
「うーん、それは聞き捨てならないな。俺様がそのクズより劣ると?」
「だからそう言っているじゃない!」
ハルトグートは激情し始めた。
——何をやらかしてくるかわからないぞ!
「そこまで言うのなら、俺様とクズで勝負をしよう。俺様より優れているんだろう?」
「ええ、構わないわ。クレマーチス、全力で勝負してあげなさい!」
「え、俺が?」
「そうよ。大丈夫よ、クレマーチスなら絶対に勝てるわ!」
——本当に大丈夫だろうか。でもカルミーアを渡す訳にはいかない。
俺は意を決してハルトグートの前に立つ。
「俺様は上級魔法を習得したんだ。クズに勝てる訳がない。あははは」
ハルトグートは余裕の表情をしている。
——しかし、いつの間に上級の魔法を!?
でも、カルミーアの瞳は自信に満ち溢れている。
——カルミーアを信じよう、やれるはずだ。
「クズ魔法使い、死んじまいな。安心しろ、カルミーアをたっぷり可愛がってあげるからよ」
『紅蓮の爆炎よ目の前のクズを焼き尽くせ、ファイヤーフェニックス!』
——マジで上級魔法を放ってきた!
『ファイヤーボール!』
「あはは、そんなん初級魔法で防げるはずが……!?」
ハルトグートは「ありえない」という表情を見せた。
自分でも驚いたことに、魔法が拮抗している。
いや、やや俺の方が押しているのか?
俺がハルトグートの魔法を弾くと、鳥のような形をした炎がハルトグートの方へ戻っていった。
「うぎゃぁぁぁ、熱い、熱い、熱い! だずげでぇぇぇ!」
取り巻きたちが必死に水をかけて、ハルトグートに巻きついた炎を消していく。
しばらくすると、騒ぎを聞きつけた兵士たちがやってきた。
「街中で禁止されている上級魔法を放ったのはどいつだ?」
見物人たちが「こいつです」とハルトグートを指差した。
ハルトグートは兵士に捕縛され連行されていった。
周りの人たちの目にはハルトグートが上級魔法を仕掛けて自爆したようにしか見えなかったようだ。
俺は初級魔法だったので注意だけでお咎めなしだった。
——でも何で俺が上級魔法を弾き返せたんだ?
「…………」
俺は不思議そうに自分の両手を見つめる。
いつもと違う感覚に戸惑っている。
「クレマーチス、やったじゃない!」
カルミーアはものすごい笑顔で勢いよく俺に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと、カルミーア」
「クレマーチス、本当にありがとう」
——ああ、カルミーアを助けられて本当によかったよ。
「ヒューヒュー、お熱いねぇ」
周りの人のヤジでカルミーアはハッとして俺から恥ずかしそうにして離れた。
「あっ、ごめんね。でも、さっきのクレマーチスの魔法はすごかったわ」
「ありがとう、カルミーア。でも、なんで俺がハルトグートに勝てるって思ったんだ? 正直、何が何だかよくわからなくて驚いているんだ」
「そ、それはクレマーチスの魔力が上がってるからに決まってるじゃない」
うーん、ただ戦っているだけで魔力が上がっていくのだろうか。
基本的にカルミーアの支援にまわっているので、あまり実感が湧かないんだよね。
「でも、よく俺の魔力が上がっているって気がついたよね。どうしてなの?」
「それは毎日一緒にクエスをこなしているもの。支援魔法の効果が日に日に上がっているのを実感しているからだよ。それに私がちゃんと魔力が付くように栄養管理をしているからね」
——そうか、カルミーアのお陰で魔力が上がっていたんだね。鍛錬ももっと気合いを入れてしていこう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます