第5話 勇者パーティーからスカウトされる
俺とカルミーアは、共同生活を始めてからぐんぐんと成長していきあともう少しでBランク冒険者になれるところまできた。
そして今日、Bランク冒険者に昇格するためのクエストを受けることになっている。
「クレマーチス、やっとここまで来れたわね」
「うん、このクエストを攻略すればBランク昇格だ!」
Bランク昇格の条件は、Bクラスダンジョンの攻略だった。
迷宮や洞窟などと違って、魔王が各地に突如と出現させたダンジョンである。
魔王のダンジョンはSクラスからBクラスで区別されている。
なぜ昇格条件がBクラスダンジョンの攻略なのかは、Bランクパーティー以上は魔王のダンジョン攻略が義務化されるからだ。
俺とカルミーアはクエストを受注して、ギルドから地図をもらい魔王のダンジョンへ向かう。
馬車を走らせていると、段々と黒っぽい土の壁で出来た粗末な塔が見えてきた。
「ここが魔王の作ったダンジョン?」
「想像してたのと全然違うわね」
俺たちは、きっちりと作り込まれていた塔を想像していた。
見た感じはただ単に土を盛っただけの建物とは言えないものだった。
「ちょっと待って、カルミーア」
カルミーアはびっくっとして振り返る。
『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』
俺はカルミーアに支援魔法をかける。
「ありがとう、クレマーチス」
「ううん、何が起きるかわからないからね。備えは必要だよ!」
俺とカルミーアは「せーの」でダンジョンの両扉を開ける。
ダンジョンの中はワイバーンの巣窟だった。
「この数だったら、俺に任せて!」
『アイスミスト!』
目の前のワイバーンたちは一気に凍りついた。
「やるじゃない!」
カルミーアはワイバーンが凍っていくところを目を輝かせながら見ていた。
「じゃぁ、素材を丸ごと回収するね」
『アイテムボックス』
凍らせたワイバーンをひゅんひゅんと回収していく。
「ねぇ。その『アイテムボックス』はどのくらい入るの?」
「うん? 魔力が上がるたびに収容できる量が増えているみたいで底はわからないだ」
「ふーん、そうなんだ。で、まだまだ入る?」
「うん、余裕で入るよ」
「じゃぁ、ここのダンジョンのワイバーンは全て回収しちゃいましょう!」
ワイバーンは5匹で金貨1枚分くらいの価値がある。
金策、金策と心躍らせながら、向かってくるワイバーンは全て凍らせて回収していく。
ボスの部屋に到着すると、カルミーアの合図とともに突入する。
部屋の中には、レッドドラゴンが待ち構えていた。
レッドドラゴンは先制して火炎のブレスを放ってきた。
『アイスウォール!』
俺は氷の壁を作って、カルミーアへのレッドドラゴンのブレスを防ぐ。
「やってくれるわね。行くよ」
「うん!」
『アイスアロー!』
氷の矢を魔法で生成して矢のように連発で飛ばす。
レッドドラゴンの翼に相当のダメージを与えたので飛び上がることができない。
「クレマーチス、やるわね」
「カルミーア、余所見しないで」
「わかってるわ」
レッドドラゴンが怯んでいるうちに、カルミーアがレッドドラゴンの頭上から飛び降りてきて首を切り落とした。
「やったわ。討伐完了よ」
「それじゃ、レッドドラゴンも回収しちゃうね」
レッドドラゴンを凍らせ回収が終わると、急にダンジョンがガタガタと音を立てて揺れ始めた。
「これ、ダンジョンが崩れるんじゃない?」
カルミーアは脱出しようにも、ものすごい揺れで動揺してしまってあたふたしている。
「カルミーア、俺の手を取って!」
カルミーアは「うん」と頷き、俺の手を取る。
『エスケープ!』
俺とカルミーアは瞬時にしてダンジョンを脱出した。
これはダンジョンなどから脱出する無属性魔法だ。
脱出すると、ダンジョンは崩壊して
「そういえば、ダンジョンのコア魔石を回収しないといけないのよね」
「そうだね、ここから探さないといけないんだよね……」
俺たちは瓦礫の山を見て大きなため息を吐いた。
ダンジョンはコア魔石というもので構成されている。
ボスの魔力を吸収してダンジョンが育っていく仕組みになっているようだ。
ボスを倒してコア魔石に魔力が供給されなくなったからダンジョンは崩壊したということだ。
俺とカルミーアは一生懸命にコア魔石を瓦礫の山から探す。
「クレマーチス、あったわよ!」
カルミーアがコア魔石を見つけて、手を振って俺を呼ぶ。
「あぁ、よかった。見つからないかと思ったよ」
コア魔石は凶々しい血のようなくすんだ赤色をしていた。
「これを冒険者ギルドに持ち帰ればBクラス冒険者に昇格ね」
馬車を飛ばして来た道を戻り、俺たちは嬉しさのあまり冒険者ギルドの建物の中に飛び込むように入っていった。
「受付のお姉さん、Bクラスダンジョンを攻略してきたわ!」
カルミーアもかなりハイテンションだ。
「おかえりなさい。随分と早かったのね。では、コア魔石の提出をお願いしますね」
カルミーアはダンジョンのコア魔石を受付のお姉さんに渡す。
「『鑑定』……Bクラス。ふぅ、間違い無いわね。おめでとう、Bランク冒険者に昇格よ!」
俺とカルミーアは受付のお姉さんに冒険者証をBランクに更新してもらい、クエスト報酬として金貨1枚をもらった。
「やったわね、クレマーチス」
「うん、Bランク冒険者なんて夢みたい!」
俺とカルミーアが喜びあっているところに、金ピカの派手な装備をした冒険者が近づいてきた。
「カルミーアさん、Bランク昇格おめでとう。貴女を待っておりました」
「誰ですか? 私は貴方を知らないんですけど」
「これは申し遅れました。私は勇者バリスでございます。剣聖のご息女である貴女がBランクになるのを待っていたのです」
どうやら、カルミーアを仲間にしたくてBランク冒険者になるのを待っていたようだ。
「私たち、勇者パーティーに加入していただけますでしょうか。貴女のお父様には許可をいただいております」
「なんで私が勇者パーティーに加わらないといけないの? お父様が勝手に決めたことなんて知らないわ」
——そうだ、すでに俺とパーティーを組んでいるし、これからも頑張っていくって決めてるんだ。
「そうですか。ですが、貴女が仲間に加わっていただけないと魔王のダンジョン攻略が進まず、スタンピードが起きて街の人たちが犠牲になりますよ。それでも断るのですか?」
——別にカルミーアじゃなくても優秀な剣士はいくらでもいるじゃないか。
カルミーアじゃなきゃいけない理由はなんなんだろう……。
しかも半分脅しじゃないか。
「なら、クレマーチスも一緒に加入するということなら引き受けるわ」
バリスは少し首を捻りながら考えている。
——何か変な策略でも考えていなければいいが……。
「分かりました。予定していた魔法使いが大怪我をして今は戦えないようなので、宜しいですよ」
意外とすんなり受け入れられて拍子抜けした。
でも油断はしない方がいいよね。
その後、他の勇者パーティーメンバーを紹介された。
「俺はタンク役のタフネスだよろしくな!」
タフネスは大盾持ちの剣士で、ザ・漢って感じの人だ。
3つくらい歳上で頼り甲斐がありそうだ。
「私は回復役のリリーアです。よろしくお願いしますね」
リリーアは少し小柄でしっかり者という感じだ。
勇者パーティーが目指すのはSランクダンジョンの攻略と魔王討伐だ。
しかし、パーティーメンバーはまだBランク冒険者しかいなのでいきなりSランクは難しい。
幸い、マージア周辺にSクラスダンジョンが存在していない。
勇者パーティーの実力の底上げをしていくという目標も含めて、マージア周辺のダンジョンを全て攻略していくことになった。
「クレマーチス、ごめんね巻き込んじゃって」
「ううん、カルミーアと一緒に冒険できるならなんだっていいよ」
「ありがとう」
——Bクラスダンジョンを俺とカルミーアで余裕で攻略できたんだ。実力的に劣ってついていけなくなることはないだろう。
勇者パーティーに加入すると、毎朝定時に冒険者ギルドに集合して片っ端からダンジョンを攻略していった。
Bクラスダンジョンは余裕だったが、Aクラスとなると手下の魔物がBクラスのボスと同じくらいの強さになっていて最初は結構苦戦していた。
「Aクラスとなるとかなりダメージを受けるな」
タフネスは大盾剣士で魔物の攻撃を引き受ける役目をしている。
いくら支援魔法をかけているとはいえ全攻撃を一人で引き受けたらかなりのダメージになる。
「タフネスさん、回復します『ヒール!』」
そしてリリーアがタフネスを回復させる。
あとはバリスとカルミーアで魔物のトドメを刺していく。
俺は支援だけでいいらしい。
——俺の扱いだけ雑なのは気のせいだろうか……。
クエスト攻略を重ね順調に勇者パーティーの実力がそれなりについてくる頃には、マージア周辺のダンジョンを全て攻略していた。
そして、俺たちはSランクダンジョンが存在するカールスという街に向うことになった……。
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