第6話 勇者パーティーから追放される
「クレマーチス、お前はクビだ。初級魔法しか使えないクズ魔法使いは勇者パーティーに必要ない!」
バリスの目は俺の父親と一緒で、非常に冷たい感じがする。
俺は強く拳を握りしめる……。
俺はカールスの冒険者ギルドに到着すると勇者パーティーの追放を宣告された。
「バリス、考え直して! クレマーチスの支援にかなり助けられてたじゃない」
俺の魔力が上がって支援の効果が上がっているのを知っているのはカルミーアだけだ。
他の仲間に俺の魔法はただの初級魔法にしか見えていなかったようだ。
「何を言っている? 初級魔法の支援なんてたかが知れている。俺たちが強くなったんだ。こんなクズがいたところでSクラスダンジョンではお荷物だ。しかも、ちゃんと代わりは用意してある」
バリスが呼んだ魔法使いは、俺の弟のハルトグートだった。
「俺の代役ご苦労さん、クズ魔法使い。くぅくっくっく」
相変わらずハルトグートは見下したような目で俺を見る。
——もう会わずに済むと思っていたのに……。
「それなら私も勇者パーティーを抜けるわ!」
——そうだ、また二人で冒険をしていけばいい。
「それは出来ない相談だな。俺の権限で拒否させていただく」
バリスは計算通りというような表情でキッパリとカルミーアの脱退を拒否をしてきた。
「なんで? 加入の条件はクレマーチスと一緒のはずよ!」
カルミーアはなんでそうなるのか理解できないようだ。
そのはずだ、俺と一緒だから勇者パーティーにいる意味があるのだから。
「加入の条件はそうだが、クレマーチスをクビにする時は貴女も一緒という契約はしていない」
完全に契約の穴をつかれたみたいだ。
バリスは初めからそのつもりでいたというような表情をしている。
今まで俺たちに対して猫をかぶっていたということか……。
「どうしても脱退したいと言うなら、契約違反で貴女の冒険者証の剥奪をさせてもらう。そして、ハルトグートの婚約者になってもらう」
——そいうことか、初めからグルだったのか。
勇者がなんとも言えない悪役ような顔に怒りが込み上げてくる。
「なんでハルトグートの婚約者になる必要があるの?」
ハルトグートはいやらしそうにニヤニヤと笑っている。
やっと俺の女になったという表情だ。
カルミーアは初めからバリスとハルトグートがグルで、これが目的だったといことが理解できていない。
いや、できるはずもない。
「それは私から話そう、貴女のお父様とそういう契約をしているのです。冒険者を辞めることになったら私と婚約すると」
カルミーアは意味がわからないという表情をさらに深めた。
それはそれ、これはこれの約束をうまく組み合わせて利用されてしまった。
俺がカルミーアを匿うと犯罪者扱いされ、俺は処分されてしまう。
常に命を狙われる生活を余儀なくされそうだ。
俺は意を決してカルミーアに近づく。
「カルミーア、君は勇者パーティーに残ってくれ。俺は一人でなんとかやっていくよ」
「クレマーチス、そんなぁ……」
カルミーアの目から涙が溢れてきた。
カルミーアの気持ちはわかる。
わかるけど……。
そんな俺たちのやりとりをバリスとハルトグートは不敵な笑みで眺めている。
本当に迂闊だった、俺だけを突き落とすだけならまだしも、カルミーアの幸せを踏みにじることまでしてくるとは……。
——本当はどちらの選択も嫌だけど、カルミーアがハルトグートの婚約者になることだけは絶対に嫌だ。
俺はカルミーアにだけ届く声の大きさで話す。
「俺は、カルミーアがあいつと婚約することは絶対に嫌だ。いつかパーティーを抜けられるチャンスは来ると思う。本当はどっちも嫌だけど、カルミーアはパーティーに残ってくれ」
カルミーアは「うん」と頷いてくれて、拳を強く握りしめる。
「わかったわ。私はパーティーに残るわ」
カルミーアは涙を拭い、力強い表情でバリスとハルトグートに宣言した。
ハルトグートが少し残念な表情をしたのには呆れてしまった。
本当は剣士がカルミーアでなくても良かったように思える。
「良い判断だ。カルミーア、これからもよろしく頼むよ」
何様のつもりだと殴りかかりたくなったが、強く拳を握りしめ俺は冒険者ギルドから出ていこうとする。
「そうだ、クズ魔法使い。お前と一緒にパーティーを組みたがる冒険者はいないようだぞ。あははは」
ハルトグートは、俺が「初級魔法しか使えないクズ魔法使い」とカールスの冒険者たちに吹聴していたようだ。
周りの冒険者たちは俺を馬鹿にするような目で見てくる。
俺はこの場の雰囲気に耐えられなくなり、駆け足で出ていった。
『あははは、クズ魔法使いいい気味だ』
——今度こそ一人になってしまったなぁ。これからどうしよう……。
俺は俯きながら森の中を歩いていた。
気がついたらかなり森の奥まで来ていたみたいだ。
もうしばらく歩いていると、大きな足音が聞こえてきた。
4つ足で歩く魔物が1匹近づいている。
足音から推測すると体長2メートル以上の大きな魔物だ。
俺は『ソニックブースト』で俊敏性をアップして不意に攻撃されても避けられるように備える。
「グァォォ!」と吠えながら鋭い前足で襲ってきたが、余裕で避けることができた。
相手は巨大なグレートロースタイガーだ。
『エアカッター!』
風の刃の魔法を放ち、グレートロースタイガーの首を一撃で切り落とした。
「ふぅ、意外と弱くて助かったぁ」
俺はグレートロースタイガーを凍らせ『アイテムボックス』に収納した。
さらに森の奥に進んでいくと、とても古びた建物で何年も誰も出入りしていない感じの建物が目に入った。
——ダンジョン? 遺跡?
俺は恐る恐る中に入っていく。
しかし、怖がる必要もなく、襲ってくる魔物はそれほど強くなかった。
魔法で簡単に倒しながら進んでいった。
最奥にたどり着くと扉付きの部屋があり、中では筋肉モリモリの魔族と思われる者が腕組みをしながら待ち受けていた。
今まで戦ってきた魔物よりは強そうだが……。
「小僧、かなり強い魔物を配置していたはずだ。よくぞここまで一人で来れたものだな」
「え、そんなに強い魔物はいなかったですよ」
魔族は意外そうな表情を見せた。
「……まぁ良い。俺は魔王様の配下、ケイオスディスカトールだ。魔剣が欲しければかかってくるがよい!」
辺りを見回すと、人の骨らしきものが転がっていた。
魔剣欲しさに挑んだ者たちだろうか?
「えーと、俺は魔法使いだから魔剣はいらないですね」
「な、なんと!? では、なぜここまで来たのだ?」
——いやぁ、それを冒険者に聞いちゃいます?
「目の前にダンジョンがあったからなんだけど……」
山登りが好きな人に、なぜ山を登るのだと質問するのと同じことだ。
「…………」
ケイオスディスカトールは思考が追いつかないようだ。
しばらく固まっていた。
「まぁいい、勝負だ! 戦わずして逃げるなんて許さないぞ!」
気を取り直したケイオスディスカトールは強引に俺に勝負を挑んできた。
——まぁ、ここで逃げられるとは思ってもいないけどね。
「わかった。勝負しよう!」
「おお、久しぶりの戦いでワクワクしてきたぞ」
なんか、ケイオスディスカトールはものすごく嬉しそうな顔をしている。
おそらく、何年もこのダンジョンに来る冒険者がいなかったんだろうな。
ずっと一人で寂しかたんだね。
「では、こちらからいくよ!」
「おお、かかってこいやぁ!」
『ファイヤーボール!』
俺は炎の魔法をケイオスディスカトールに向かって放つ。
「おいおい、俺に初級魔法なんて……あぢぃ、あぢぃ、あぢぃ……。なかなかやるではないか、ははは」
——さすがは魔族、ファイヤーボールに余裕で耐えるかぁ。
ケイオスディスカトールは余裕そうに振る舞う。
しかし、相当無理をしているように見えるのは気のせいだろうか。
「大丈夫?」
「ああ、これくらいどうということもない」
ケイオスディスカトールの火傷がみるみる治っていく。
自己再生能力があるみたいだ。
「ではこちらからもいかせてもらう。獄炎爆炎けぇぇぇん!」
——獄炎なの? 爆炎なの? どっちなの?
ケイオスディスカトールは魔剣にものすごい炎を纏わせながら切り掛かってきた。
キシンっと音が鳴り、俺の体まで魔剣が届くことはなかった。
「なんだと!? 魔力障壁で俺の剣技を受け止めただと!」
——これで驚くのは何度目だ?
魔力障壁で防御をするのはいつもやっていることだ。
それほど驚かれる程なのだろうか。
『エアカッター!』
「こんなもの、俺に通用するはずが……うぎゃぁぁ!」
ケイオスディスカトールの強がりは虚しくも、風の刃により体は上下真っ二つに切り裂かれてしまった。
人間なら即死なのだ。
さすが魔族だ、まだ息がある。
「見事だ小僧。この俺をあっさりと倒すとは……。この魔剣を小僧にやろう」
ケイオスディスカトールは弱々しい声で語りかけてきた。
「うん、ありがとう」
「この体は俺の分身体だ。本体はもっと強い。また戦えるのを楽しみんしているぞ……」
ケイオスディスカトールは最後の言葉とともに消え去っていった。
——ケイオスディスカトールは嫌いじゃないタイプだったな。
俺はカルミーアにでもあげればいいかと、その場に残った魔剣を『アイテムボックス』に収納した。
ダンジョンから脱出すると、魔王のダンジョンのように崩れ去ることはなかった。
元々あった遺跡か何かに居座っていただけだったのだろうか。
——さて、今日はもう街に戻るとしようか。
俺は森を出て林道に差し掛かったとき、バリスとハルトグートが血相を変えて俺の存在に気づかず走り去っていった。
——勇者パーティーはSクラスダンジョンに挑んでいたはず……。
俺はふと、アイテムの残骸を見つける。
それはダンジョン脱出用のアイテムの残骸だった。
ダンジョン攻略に失敗して逃げてきたように思える。
しかし、カルミーアやタフネス、リリーアが一緒ではない。
——まさか仲間を見捨てて二人で逃げてきた訳じゃないよね。
最悪な状態じゃないかと不安がよぎる。
『ソニックブースト!』
俺は俊敏性を上げてバリスたちが走ってきた方向へ猛ダッシュしていく。
——カルミーア、待ってて。今助けに行くから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます