第7話 勇者と弟が刑に処される

 俺はバリスとハルトグートが走ってきた道を辿っていくと、ダンジョンに到着した。


 しかし、ダンジョンの扉は固く閉じられていて開かない。


「くそぅ、仕方ない」


『エアカッター!』


 風の魔法を数発放ちダンジョンの壁を壊すと、おぞましい光景が目に入った。


 ダンジョンの中は一つのフロアしかなく、多種多様なオークの軍勢がそのフロアを埋め尽くしていた。


 タフネスが大盾でリリーアを庇い、すり抜けて襲い掛かるオークをカルミーアが一人で応戦していた。

 リリーアはタフネスに回復を小まめにしている。

 それは、タフネスがやられたら一気に残りの二人が喰い殺されるからだ。


『アイスミスト!』


 俺はカルミーアたちの安全を確保するため、時間稼ぎのために周りのオーク達を凍らせようと氷の魔法を放った。


「クレマーチス!?」


 カルミーアは「なんで?」と意外そうな表情をして俺を見つめた。

 でも、半分嬉しそうな顔に見えた。


「カルミーア、助けに来たよ!」

「なんで分かったの?」

「説明は後回しだよ。このオークの軍勢をなんとかしないと。今のうちに体制を整えて!」


 俺は必死に指示を出そうとしたら、カルミーアたちはタフネスたちの方を見て驚きの表情を見せた。


「おい、ありえないだろう。クレマーチス、何をしたらこのオークの軍勢全てを凍らせることができるんだ?」


 タフネスとリリーアも信じられないという表情を見せる。

 タフネスの目線の先を見たら、フロア内のオークが全て凍っていた。

 ボスのオークエンペラーの足元も凍っていて身動きが取れないようだ。


 ——なんでこうなってるの!?


 魔法を放った俺も信じられなかった。

 本当に俺がやったことなのか?


 基本的に勇者パーティーでの戦いでは支援しかさせてもらえなかった。

 自分の魔法の威力がこれだけ上がっていたなんて気がつかなかった。


「カルミーア、これを使って」


 俺は先ほどのダンジョンで手に入れた魔剣をカルミーアに渡した。


「なにこれ、魔剣じゃない!?」


 カルミーアは見たこともない剣を手に入れ、魔剣に目を奪われている。


『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』


 俺はみんなに支援魔法をかける。


「うぉぉぉぉ! 力がみなぎってきたぜ! これだよ、これ!」


 タフネスは雄叫びを上げて、目が炎のように輝いていた。


『リペア!』


 リペアは装備の耐久値を上げる無属性魔法だ。上級になれば壊れたものも直せるらしい。


「タフネスさん、装備の耐久値を半分ほど回復させました」

「ありがとよ、クレマーチス!」


 タフネスは親指を立てて返事をしてくれた。

 タフネスはいい人だよな。


「それでは、皆さんを回復させますね」


『エリアヒール!』


 範囲の回復魔法だ。

 みんなの傷がみるみる回復していく。


 ——さすが、リリーアは高位の僧侶だ。俺はリリーアの回復魔法にはかなわないや。


「さぁて、いくぜ!」


 みんなの顔が絶望の表情から希望に満ちた表情に変わったのがわかった。


『シールドアタック!』


 盾もちの攻撃スキルだ。凍ったオークたちを次々と粉砕していく。


「カルミーア、『獄炎爆炎剣ごくえんばくえんけん』って叫んでみて!」


「え、なにそれ? 恥ずかしいよ……」


 カルミーアは顔を赤くしたが、意を決して叫ぶことにした。


獄炎爆炎剣ごくえんばくえんけん!』


 カルミーアが叫ぶと地獄の炎が魔剣にまとった。

 カルミアが魔剣を一振りしただけで周囲の凍ったオークたちが粉砕されていく。


「この魔剣すごい威力だわ。いくら凍っているとはいえAクラスの強さの魔物たちよ」


 カルミーアは息を吹き返したかのようにオークたちを粉砕して前進し始めた。


 ——俺も負けていられないな。


『スタン!』


 初級の重力系魔法だ。

 本当は一定範囲に圧力をかけて相手を動けなくさせるために使う。

 俺はオークエンペラーに向かって凍った魔物を一気に粉砕していく。


「おい、おい、おい、なんじゃそりゃ」


 タフネスはびっくりして足を止める。

 俺とカルミーアはオークエンペラーを目掛けて前進していく。

 そして、オークエンペラーは凍った足をなんとか払い除けて俺たちに襲い掛かってきた。


「クレマーチス、来るわよ!」

「うん、先に牽制するね」


『エアカッター!』


「あっ……」


 牽制のつもりで風の魔法を放ったが、風の刃はオークエンペラーの両腕と首を一瞬でねてしまった。


「さすがクレマーチスね」


 ——え? なんでカルミーアは驚かずに落ち着いているんだろう……。


 しばらくするとダンジョンが崩壊しはじめた。

 タフネスとリリーアは出口近くにいたのですぐに脱出できた。

 残るは俺とカルミーア……仕方ない。


『ソニックブースト!』


 俺はカルミーアをお姫様抱っこして全速力で出口に向かった。

 間一髪、ダンジョンから脱出した直後に完全にダンジョンは完全に崩壊した。


「ふぅ、間に合ってよかった」


「クレマーチス、降ろしてくれないかな。恥ずかしいんだけど……」

「ご、ごめん」


 カルミーアは俺の腕の中で顔を赤めていた。


 ——でも、ちょっと可愛いかな。あはは。


「おかえり、お姫様。あははは」


 俺からカルミーアが降りると、カルミーアは茶化すタフネスを睨む。


「悪い悪い、さてコア魔石を回収しないと……」


 タフネスは逃げるようにダンジョンの瓦礫の山に行き、コア魔石を探しに行った。


「もう!」


「クレマーチスさん、助けてくれて本当にありがとうございました」


 リリーアは律儀に丁寧にお礼を言ってきた。


「いいえ、間に合ってよかったです」

「でもなんで私たちが危機にひんしているって分かったの?」


 カルミーアは首を傾げて質問してきた。

 まぁ、普通なら分からないよね。


「それは……、タフネスが戻ってきたら話すよ」

「ええ、わかったわ」


 俺の言葉の意図をカルミーアは理解してくれて、タフネスが戻るのを待つことにした。


 しばらくすると、タフネスがコア魔石を回収して戻ってくる。

 俺はみんなに一連の経緯を話した。


「なんてことよ!?」

「いきなり消えたと思ったらそういうことだったのか。許せねぇ」

「私たちをおとりにして自分たちだけ逃げるなんてひどいですわ……」


 みんなは落胆と怒りと悔しさが入り混じってなんともいえない表情をしていた。

 バリスとハルトグートの行為は許されることではない。

 冒険者ギルドにことの経緯を報告することにして、俺たちはカールスの街へ戻ることになった。


 けれど、みんなの足取りはとても重い……。


「なぁ、クレマーチス。さっきカルミーアに魔剣をあげたじゃないか、俺には何かないのか?」


 どうやらタフネスは空気を読むのは苦手らしい。

 だけど、今は少しありがたいかな。


「うーん、鎧は持ってないけど盾なら……」


「おぉおぉ!」


 タフネスは期待をして待っている。

 俺は『アイテムボックス』から盾を取り出す。


「木の盾じゃないかい、おい!」

 

 タフネスは俺にツッコミを入れてきた。


「冗談だよ。立派な盾も持っていないよ。ごめんね」


 俺は申し訳なさそうな顔をする。


「あはは、クレマーチスが冗談を言うなんて驚いたわ」


 俺とタフネスのやりとりにカルミーアは吹いてしまった。


「何を言っているの。俺だって冗談の一つや二つは言えるよ」


 みんながお腹を抱えて笑っている。

 そんなに俺の冗談がウケたのだろうか……。


 ——まぁ、少しはみんな明るくなれたからいいか。


 冒険者ギルドに到着すると、そこにはバリスとハルトグートの姿はなかった。

 カルミーアは受付に行き、ギルドマスターを呼んでもらうようお願いした。

 ギルドマスターが2階から降りてくると、俺たちの表情や状態を察知して、ギルドマスターは自室へ俺たちを案内してくれた。


「報告を聞きましょう。そちらに掛けてください」


 応接用の長椅子に俺たちは座り、ギルドマスターと対面して一連の経緯を報告した。


「なるほど、仲間を囮にしてダンジョンからバリスとハルトグートが逃げ出したと……。証拠はありますか?」


 俺は、ハルトグートが使ったと思われる脱出用のアイテムの残骸をギルドマスターに渡した。


「ありがとう。『鑑定』……なるほど。ハルトグートの魔力の痕跡がある。確かな証拠だ」


 脱出用のアイテムを使うためには多少の魔力が必要で、誰が使ったかを『鑑定』スキルを持った者なら調べることができる。

 しかし、微かな魔力の痕跡から誰の魔力かわかるなんて、さすがはギルドマスターだ。


 仲間を囮にして自分だけ逃げる行為は許されることではない。

 すでに仲間が全員死んでいて死人に口無し状態で逃げ切れるかもしれない。

 けれど、カルミーアたちは全員生存しているので言い逃れはできない。

 バリスとハルトグートはなにかしらの刑が下されるだろう。


「こちらで兵士を呼びにいく。君たちはバリスとハルトグートを探して、見つけたら報告を頼む」


「わかりました。ありがとうございます」


 カルミーアは拳を強く握り締め、冷静を装いながらギルドマスターにお礼を言った。

 おそらくバリスとハルトグートがいる場所は予想できているらしい。

 カルミーアたちについていくと、バリスが泊まっている宿屋に着いた。


 宿屋の女将さんに確認したら、思った通り二人は宿屋に戻っているようだ。


 俺たちはギルドマスターと兵士たちが合流してくれるのを待った。

 兵士が突入して、しばらくするとバリスとハルトグートが手枷を付けられて宿屋から出てきた。


 バリスとハルトグートは俺に向けて鋭い視線を送ってきた。

 「お前がいなければ」とでも思っているのだろうか。

 全く反省しているようには見えなかった。


 兵士たちは冒険者ギルドにバリスとハルトグートを連行する。

 冒険者ギルドの1階の他の冒険者たちがいる場所で、バリスとハルトグートに刑が下される。


「バリス、君には失望した。勇者の称号を剥奪する。ハルトグート、冒険者の身分を剥奪する。二度と冒険者になれないと思え。以上だ。兵士の方々、あとはお願いします」

「はっ!」


 ギルドマスターは無表情で淡々と刑を下した。

 用がなくなったバリスとハルトグートは罪人として兵士たちに牢獄まで連れていかれた……。


 俺たちはギルドマスターに案内され、2階の応接室に向かう。

 長椅子に座り、ギルドマスターと向かい合う。


「勇者がいなくなったことで、勇者パーティーは解散となる。よろしいか?」

「はい、問題ありません」


 カルミーアが代表してギルドマスターに対して受け答えをする。


「その後はどうするのだ? できれば魔王のダンジョン攻略を続けてほしい」


「はい、勇者がいなくなっても必要なことですから、新しくパーティーを結成して挑みたいと思います」


 今回の件で、魔王のダンジョンを放置することはどれほど恐ろしいことかを俺たちは認識した。

 オークのような繁殖力が強い魔物がいるダンジョンは特にそうだ。


「わかった。よろしく頼む」


 ギルドマスターは、ホッとしたのか大きく息を吐いた。

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