第2章 新たな出発
第8話 新しいパーティーの結成
「カルミーアさん、それでは1階でパーティー登録をしてくるといい。バリスたちの後始末はこちらでする」
「わかりました。ギルドマスター、いろいろありがとうございました」
みんなで丁寧にギルドマスターにお礼を言って、1階の受付に向かい新しくパーティー登録をした。
俺とカルミーア、タフネス、リリーアの4人パーティーだ。
「すみません、コア魔石の鑑定もお願いします」
カルミーアはダンジョンのコア魔石を受付に渡す。
「はい、コア魔石を鑑定いたしますね。『鑑定』……Sクラスですね。報酬は金貨100枚になります」
『金貨100枚!?』
あまりの報酬の多さに俺たちは口を揃えて叫んでしまった。
他の冒険者たちも「何事?」という表情で注目されてしまった。
「それは、Sクラスダンジョンを攻略できるパーティーは希少ですから。大体はAクラスが限界のようですよ」
受付のお姉さんは淡々と答えるけど、俺たちはすごいことをやっていたんだなと改めて実感した。
「そうなんですね。ありがとうございます」
カルミーアは少し顔を引き攣りながら受付のお姉さんにお礼を言って、金貨100枚を受け取った。
ずっしりとした皮袋に驚きの表情を隠せないようだ。
「はい、みんな金貨25枚ずつね」
俺たちは金貨の重みをしっかりと噛みしめた。
Sクラスダンジョン攻略はほぼ独占状態だ。
各地で攻略してまわっていったらどのくらい報酬がもらえるのだろうか。
すごい金額になるよね。
「それでは、新しくパーティーを結成した記念に呑みにでもいきますか!」
カルミーアは空元気を出してみんなに呼びかけた。
カルミーアはもう嫌なことは呑んで忘れようとしたいのだろう。
早く本当の笑顔を取り戻してあげたいよ。
「そりゃいい。店中のお酒を呑み尽くしてもお釣りが出るぜ」
タフネスならやりかねないから怖い……。
タフネスはあまりストレスや不安を溜め込まないタイプのようだ。
「じゃぁ、いくわよ。クレマーチスも、ぼうっとしてない」
俺はカルミーアに強引に腕を引っ張られ酒場へ向かう。
「クレマーチスさん、顔が赤いようですよ。大丈夫ですか?」
リリーアが心配そうに俺の表情を見る。
「ええ、大丈夫です。たぶん……」
——いつものことだ、いつものことだ……。
「クレーマチス、もたもたしない。席が埋まっちゃうでしょ!」
「ご、ごめんね」
どうやら、今から行く場所はトゥーリアの街で一番人気の酒場らしい。
まだ辺りは明るいが酒場はかなり混んでいた。
カルミーアが空いている席を見つけて確保をする。
「女将さーん。お酒4つに、焼き鳥10人前、他のつまみも適当に見繕ってちょうだい。あと、レバーの料理もお願いね」
「あいよ。ちょいと待っておくれよ」
店の女将さんは注文が殺到していて大変そうだ。
注文したものがくるまで少々時間がかかりそうだ。
——何でここでもレバーなんだ!?
「カルミーア、たくさん食べるんだね」
「タフネスがたくさん食べるから多めに頼んだのよ」
「おい、俺のせいにするなよ。たくさん食べるけどな」
「私は前衛でたくさん動くから必要なのよ」
タフネスは「やれやれ」という表情をした。
それに対してカルミーアは、タフネスをじーっと睨んでいた。
なんでもないやりとりを見てるのも面白いものだね。
「はいよ、おまたせ。お酒4つの焼き鳥10人前だよ。他のつまみももうすぐ来るからね」
「ありがとう、女将さん」
女将さんは笑顔で返して厨房へ戻っていった。
「さぁ、呑むわよ! 新しいパーティー結成を祝してー、乾杯!」
『乾杯!』
お酒のコップをみんなで合わせてから一気に呑み干す。
「ひゃぁー、最高だなぁ」
「そうね、とても美味しいわ」
カルミーアは本当に美味しそうに呑むなあ。
しかも次々とおかわりをお願いしていく。
「クレマーチスもちゃんと呑んでる? ほら、コップが空いてるじゃない」
空のコップを見つけるなり、カルミーアはどんどん追加注文をしていく。
どこまで呑まされるのやら。
そんな中、リリーアがこっそり話してきた。
「カルミーアさんは、お酒が入ると止まらなくなるのですね」
「いやぁ、みんなで呑むのは初めてなんだ。こんなに呑むなんて俺も驚いてるよ」
リリーアは「うふふ」と呟きながら笑い返した。
勇者パーティーにいた頃はこんなに楽しく食事なんてできなかった。
みんな、のびのびといられるようになって本当によかったよ。
それから俺は酔ったカルミーアに散々お酒を飲まされた。
しかし、一番お酒を呑んで騒いでいたカルミーアが真っ先に寝てしまった。
「やっと静かになったね」
——いろんなしがらみから解放されたんだ、このくらいはいいよね。
「お疲れさん、クレマーチス」
タフネスから背中をバチッと叩かれた。
——もう少し手加減をしてほしいよ。
今日のカルミーアは本当にテンションが高かった。
よっぽど嬉しかったんだな。
でも、本当に気持ちよく寝ているよな。
カルミーアが眠ってしまい落ち着いたところで俺たちは引き上げ始めた。
「カルミーアをどうしよう?」
俺が質問すると、タフネスとリリーアが一斉に俺を見る。
タフネスはゴツゴツの鎧を着ているし、リリーアに任せるわけにはいかない。
結局俺がカルミーアをおんぶして宿屋まで連れていくことになった。
「意外と軽いんだね」
「意外と軽いって、女の子に失礼じゃない?」
「起きていたのか。ごめんね、深い意味はないよ」
「そういうことを言ってるんじゃないの。デリカシーの問題」
——あはは、またやっちゃったよ。
「悪かったよ。これからは気をつけるよ」
「よろしい」
カルミーアは酔っているのか、酔っていないのかいまいちよくわからないな。
「ねぇ、クレマーチス。あなた、本当に強くなったね。嬉しいわ」
「カルミーア、いつもありがとう」
返事が返ってこない。
どうやら、また眠ってしまったようだ。
——やれやれ。
「クレマーチスさん、部屋はこちらです」
リリーアが部屋まで案内してくれる。
カルミーアとリリーアは同じ部屋のようだ。
俺はカルミーアをベッドに下ろす。
着替えなどはリリーアにお任せるとしよう。
「カルミーアさんを運んでいただいて、ありがとうございました」
リリーアからとても丁寧にお礼を言われた。
カルミーアたちの部屋を出て、たまたますれ違ったタフネスにも軽く挨拶をした。
俺はまだ宿屋で部屋をとっていなかったので、新たに部屋を借りた。
部屋に入るなり俺はベッドの上に横になった。
疲れとお酒の酔いのせいか、すぐに眠りについた。
翌朝はいい目覚めだった。
気分爽快、絶好調!
早く起きすぎたので、俺は街を散歩することにした。
俺たちが泊まっている宿屋付近を通りかかると妙な声が聞こえた。
「うぉぉぇぇ」
「大丈夫? カルミーアさん」
妙な声はカルミーアだった。
俺は「ふっ」と思わず吹いてしまった。
あれだけ調子良く呑んでいたからね。
でも、二日酔いで今日のクエストは大丈夫だろうか?
『キュアヒール』
「ありがとう、リリーア。少し楽になったみたい」
「もう、これからはあまり呑みすぎないでよ」
リリーアがちゃんと介抱しているようだ。
今日のクエストは大丈夫そうだね。
宿屋に戻って朝食を取ろう。
——って、俺だけまたレバー料理がある!?
「おはよう、クレマーチス。ちゃんと全部食べるのよ!」
カルミーアの言葉と表情が一致していないのが怖い。
「うぷっ」
リリーアが慌てて介抱する。
カルミーアの二日酔いは重症のようだ。
朝食を終えて冒険者ギルドに行き、カルミーアの顔を見て「ふっ」と思い出し笑いをしてしまった。
「なによー、クレマーチス」
カルミーアは、両手を腰に当て、ぷんぷんとした表情で怒ってきた。
「あ、いや。ごめん。思い出し笑いをしてしまっただけだよ」
カルミーアのぷんぷんとした表情で余計に笑いが込み上げてきた。
「人の顔を見るなり笑うなんて失礼じゃない?」
カルミーアは下から覗き込んで俺を睨みつけてくる。
笑いを堪えるのが大変だ。
誰かカルミーアを止めてくれよ。
「だから、ごめんて言ってるでしょ」
「いやぁ、カルミーアを見て笑わずにすむ奴なんていないだろう」
タフネスのいいタイミングの言葉に感謝だ。
「タフネスまでー」
気がついたら、みんなも笑いを堪えているか、吹いてるかのどちらかだった。
「もう、カルミーアさんが呑み過ぎなのが悪いのですよ」
「はーい。反省してまーす」
どうやらカルミーアはリリーアに頭が上がらないようだ。
カルミーアが反省したところで、ダンジョン攻略に向けて出発することになった。
今日は、2ヵ所のダンジョンに向かう予定だ。
大丈夫だろうか……。
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