第9話 二日酔いとダンジョン攻略

「うぷ。だめ、止めてもらえる?」


 カルミーアが馬車酔ばしゃよいしたようだ。

 二日酔いの二重攻撃だからな無理もない。


 タフネスは馬車を止め、カルミーアは草陰くさかげの方へ走っていった。

 目と耳はふさいでおこう。


 出すだけ出して、カルミーアは戻ってきた。

 しかし、まだ調子が良くなさそうだ。


「カルミーア。二日酔いによく効く薬を持っているけど、飲む?」


 カルミーアは「うんうん」と頷いた。

 俺は『アイテムボックス』から薬を取り出す。

 カルミーアが薬のせんを開けると鼻をつまんで嫌な顔をした。


「何これ? 凄い匂いがするわよ」


「即効性のある薬なんてそんなものだよ」


 タフネスとリリーアはカルミーアから少し距離をとる。


 カルミーアは鼻をつまみながら薬を飲み込んだ。

 「うげぇ」と言いながら我慢がまんしているようだ。


 しばらくすると、カルミーアの表情がすうっと良くなったのがわかった。


「すごい! 一気に気分が良くなったわ。ありがとう、クレマーチス」


「ああ、それはよかったよ」


 カルミーアの調子が良くなったので、再度ダンジョンを目指しはじめた。


 しばらくすると、一つ目のダンジョンに到着した。

 

 到着したのはAクラスダンジョンだった。


 中はゴブリンの上位種じょういしゅだらけで難なくボスの部屋に到着した。


 ボスはゴブリンカイザーだ。

 名前は凄そうに聞こえる。

 だが、やっぱりゴブリンだった……。


「みんな、お疲れさま。そういえば、クレマーチス。素材は回収しなくてよかったの?」


「さすがにゴブリンはいらないでしょ」


「まぁ、誰もゴブリンの素材そざいを欲しがるヤツはいないよな」


 みんな「そうだな」と言い合って笑い合う。


 タフネスがコア魔石魔石瓦礫がれきの山から見つけ出してくると出発になる。

 コア魔石回収はタフネスの仕事になってしまったようだ。


 タフネスをおだてると喜んでやってくれるので自然にそうなってしまった。


 全員が揃うと、再出発して次はSクラスダンジョンを目指す。


 Sクラスダンジョンはまだまだ難易度なんいどが高い。


 失敗はある意味、死を意味するから気を引きめなくてはならない。


 ダンジョンに到着すると俺はみんなに声をかける。


「まずは入る前に強化をしておこう」


『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』


「クレマーチス、ありがとう。みんな気合を入れていきましょう!」


 俺たちは慎重しんちょうにダンジョンに侵入する。


 すぐには魔物はおそってはこなかった。


 前回のようにオークの巣窟そうくつとなっていないかったので少しホッとした。


 中は階段状になっていて何階層かを登っていく形になっている。

 さすがにSクラスのダンジョンだけあり手下の魔物も強さはAクラスダンジョンのボス並みだ。


 そして、俺の支援魔法の効果もあり、無事にボスの間までたどり着くことができた。

 このダンジョンのボスはミノタウロスキングだ。


 ミノタウロスキングの色は赤い。

 火属性ひぞくせいだろうか。加えて、もの凄く重そうな斧を持っている。 


 俺たちを見るなり、いきなりミノタウロスキングが突進して大きな斧を振るう。


 床がくだけて破片はへんが俺たちに飛んでくる。


『ビッグシールド!』


 タフネスがスキルで防御する。


 ミノタウロスキングが追い打ちをかけるようにタフネスに向かって斧を振るう。


 タフネスはミノタウロスキングの力に耐えられず吹き飛ばされる。

 後ろにいたリリーアも巻き込まれてしまう。


「す、すまん」


 タフネスがなんとか立ち上がって盾を構える。

 リリーアは気を失っている。


「カルミーア、うまくミノタウロスキングの斧を剣で受け流してくれ。その隙に2人を回復する」


「ええ、わかったわ」


 俺はタフネスのところへ向かう。


 カルミーアはミノタウロスキングを引きつけようとする。


「タフネスさん、大丈夫ですか?」


「ああ、なんとかな」


『ヒール!』


 俺は一人ずつ回復させていく。

 ただリリーアはまだ気絶したままだ。


「タフネスさん、リリーアを任せたました。行ってきます」


「ああ、気をつけてな」


 カルミーアはうまくミノタウロスキングを剣でいなしながらかわしている。

 ミノタウロスキングはかなり巨体のわりに素早い。

 少しでも気を抜くと一撃をらいそうだ。


 俺は、ミノタウロスキングがカルミーアにブレスを放とうとするのがわかった。

 しかし、カルミーアは気がついていない。

 ミノタウロスキングはカルミーアがかわせないように炎のブレスを放った。


「きゃぁぁ!」


『ソニックブースト!』


 俺は速度アップの魔法をかけてカルミーアのところへ走り、カルミーアをだききしめて魔力障壁まりょくしょうへき展開てんかいする。


「クレマーチス?」


「カルミーア大丈夫?」


「うん、ありがとう」


 俺はカルミーアを降ろして、臨戦体制りんせんたいせいに入る。


 ミノタウロスキングは全力で斧を振るうが、魔力障壁まりょくしょうへきはじかれる。

 魔力障壁まりょくしょうへきは傷一つもつかない。


獄炎爆炎剣ごくえんばくえんけん!』


 カルミーアは魔剣に炎をまとわせて、ミノタウロスキングが振り下ろす斧に向かって斬撃ざんげきを放つ。


 斧は無惨むざんにも砕け散った。ミノタウロスキングは狼狽うろたえて後退あとずさりする。


「逃がさないよ!」


『エアカッター!』


 風のやいばはミノタウロスキングの首を綺麗きれいに切断した。

 そのままミノタウロスキングは力つきその場で倒れた。


「クレマーチス、脱出するわよ!」


「うん」


 俺は素早くタフネスたちに合流して、気絶しているリリーアを抱える。


「みんな、俺につかまって!」


 カルミーアとタフネスは俺に急いで掴まる。


『エスケープ!』


 俺たちは瞬時しゅんじにダンジョンを脱出した。

 間も無くしてダンジョンは崩壊ほうかいして瓦礫がれきの山と化した。


「クレマーチスさん、ありがとうございます。降ろしていただいて結構けっこうです」


 リリーアは目を覚ましたようで、俺はそっとリリーアを下ろす。


「クレマーチス、すげぇなぁ。そんな魔法も使えるのか?」


「はい、無属性魔法むぞくせいまほうです」


「クレマーチスは全属性持ぜんぞくせいもちなんだからね。すごいでしょ!」


 カルミーアが威張いばることではないが、魔力を上げて有効性ゆうこうせいを上げてくれたのは事実だ。


全属性ぜんぞくせいって、すごいですね。でもなんで実家を追い出されたんでしょうか?」


「あはは、全属性持ぜんぞくせいもちのせいで初級魔法しょきゅうまほうしか使えなかったからなんだ」


「ふーん、でもそれだけ魔力があればそんなハンデなんて関係ないよな」


「うん、でも最初は本当にダメダメだったんだ。カルミーアが栄養管理えいようかんりなどしてくれたから順調に魔力が上がっていったと思うんだ。ありがとう、カルミーア」


「え、そ、そう、クレマーチスの魔力をどうやって上げるかレシピを研究してるのよ。あははは」


「そうか、クレマーチスはカルミーアに胃袋いぶくろと魔力をつかまれているってわけか。あははは」


 カルミーアはタフネスをにらんで、八つ当たりっぽくタフネスのスネをった。


「いててて、悪かったよ。言いすぎたよー」


「もー、ふん」


 タフネスは逃げるようにしてダンジョンの瓦礫がれきの山の方へコア魔石の回収に行った。


 タフネスが戻ってくると、すぐに馬車を走らせてカールスの街へ戻り、コア魔石の鑑定かんていをしてもらう。


「お疲れ様です。コア魔石を鑑定かんていいたしますね。『鑑定かんてい』……SクラスとAクラスですね。報酬ほうしゅう金貨きんか110枚になります」


 今回も大金を手に入れてカルミーアは呑み会を提案ていあんしてきたが、みんなで却下した。


 さすがに2日連続で二日酔いは勘弁かんべんしてくれという切実せつじつな願いだった。


「残念だわぁ」


「カルミーア、まだまだダンジョン攻略はたくさん残っているんだから少しは我慢がまんしよう」


「うん、仕方ないわね」


 呑み会はカールスの街周辺のダンジョンを全て攻略してからにしようということになった。


 まだまだSクラスダンジョンは苦戦する可能性もある。

 装備をしっかりと整えて万全ばんぜんな体制にしておくことも大事だよね。


「あ、そういえば、この前こんな魔物を手に入れたけど食べられるかな?」


 俺は『アイテムボックス』から凍らせたグレートロースタイガーを取り出した。


「こ、これレア食材じゃない! どこで倒したの?」


「そんなすごい魔物だったの? 場所は知らず知らずに立ち入った森だったので覚えてないよ」 


 カルミーアは目をキラキラさせながら「私に調理させてくれ」と訴えてきた。

 

 俺はカルミーアの圧力に負けて素材を全て渡した。


 カルミーアは宿屋の調理場ちょうりばを借りてみんなの分の食事を作ってくれた。


 当然、俺はレバー料理だった……。

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