第10話 冒険者たちの嫉妬
俺たちは順調にカールス周辺の魔王のダンジョン攻略を進めていく。
10日ほどで今出現している魔王のダンジョンを全て片付けてしまったので、次の街に向かうこととなった。
次の街はトゥーリアという街で、
「やったぁ、全部片付けたわよ。今日はお祝いの呑み会でいいでしょ?」
カルミーアは大喜びで、誰も止められそうもない。
「約束したからね。でも呑みすぎ注意だよ、カルミーア」
「はーい、わかってまーす」
カルミーアは適当そうに返事をする。
誰もカルミーアの言葉を信用していない。
絶対呑んだら止まらないことは……。
——まぁ、たくさん頑張ったご
「まぁ、しゃぁねぇなぁ。約束しちまったからな」
タフネスはため息を吐いて、
「大丈夫です。カルミーアさんの
リリーアがいてくれて心強いよ。
そして、俺たちは
翌朝、案の定カルミーアは二日酔いになっていた。
誰も明るく嬉しそうに呑んでいるカルミーアを無理やり止めることはできなかった。
「はい、カルミーア。二日酔いの薬だよ」
「ありがとう」
カルミーアは
「うぎゃぁ」
カルミーアは顔をしかめたかなと思ったら、あっという間にスッキリした表情に変わった。
ちゃんと薬が効いたようだ。
「臭いと味はすごいけど、
「カルミーア、あまり薬に頼りすぎると効果がだんだん薄れていくからね」
「はーい」
これ、全然聞いてない表情だ……はぁ。
俺たちはカルミーアの調子を見ながらトゥーリアの街へ向かう。
以前のように
カールスの街とは違ってとても
高級そうなお店も何軒かあって
今日は軽くクエストをこなして宿屋に泊まる予定にしている。
俺たちはまずはトゥーリアの冒険者ギルドに立ち寄ることにした。
ギルドの建物に入ると、トゥーリアの冒険者たちの視線が冷たかった。
よそ者は
俺たちはそんな視線を無視して受付へ向かう。
「受付のお姉さん、私たち魔王のダンジョンを攻略して回っているのだけど。この街の状況を教えてもらえるかしら」
「はい、申し訳ございません。トゥーリア周辺のダンジョンは全くの手付かずでございます」
受付のお姉さんは
こんなに街が栄えているのに、実力がある冒険者の数は少ないのだろうか。
「
そういうことか。
しかし、スタンピードが発生して街が無くなってしまったら元もこもない。
ここの冒険者たちは目先の利益しか見えていないようだ。
「わかりました。今日はあまり時間がないのでAクラスのダンジョンを受注します。明日からはバリバリ攻略していきますのでご安心ください」
カルミーアはやる気満々で、目を輝かせている。
「かしこまりました。ありがとうございます」
受付のお姉さんからは、カルミーアのハイテンションをさらりと無視して
俺たちが受注したAクラスダンジョンだけど、かなりの期間放置されていてどんな状態になっているか不安だ。
馬車を飛ばしてダンジョンに到着する。
ダンジョンの扉を開けてみるとワイバーンがひしめきあっていた。
以前の同じようなダンジョンを攻略した時より10倍以上の数がいる。
もうスタンピードが起こる寸前といったところだろうか。
普通のパーティーなら怖がるところだ。
しかし、俺とカルミーアにとっては宝の山だ。
「カルミーア、あの時みたいにいくよ!」
「ええ、わかったわ。と言っても私たちは何もやることはないんだけどね」
タフネスとリリーアはキョトンとしていた。
二人はこれから初めての光景を見ることになるからね。
『アイスミスト!』
俺はワイバーンを片っ端から凍らせてホイホイ回収していった。
「…………」
タフネスとリリーアからは凍ったワイバーンがどんどん消えていくようにしか見えていない。
二人は見てはいけないものを見てしまったような表情で
「クレマーチス、ザクザク取れるわね」
「うん、気持ちいいくらい回収できてるよ」
俺たちは全てのワイバーンを回収して、ボスの部屋まで
ボスは予想通りレッドドラゴンだった。
しかし、以前のレッドドラゴンよりパワーが増していた。
放置していた時間が長いとボスの力も
『アイスミスト!』
多少強くなったとはいえ所詮レッドドラゴン、一瞬で凍ってしまった。
そして、そのまま凍らせたレッドドラゴンを『アイテムボックス』に回収して脱出だ!
『エスケープ!』
俺たちが脱出するといつものようにダンジョンは
「お、おい、俺たち何もやることなく終わっちまったぞ」
「タフネス、やることならまだあるわよ!」
カルミーアがタフネスに声をかけると、「任された!」とタフネスが
タフネスの、コア魔石回収だけでもできて嬉しいって感じの表情に笑えてしまった。
「お待たせ、コア魔石を回収してきたぜ!」
タフネスはドヤ顔をして戻ってきた。
ものすごい達成感を感じているようだ。
——タフネス、いつもありがとう。いろんな意味で。
俺たちはダンジョン攻略が済むと、馬車を飛ばしてトゥーリアの冒険者ギルドに戻った。
「受付のお姉さん、コア魔石の鑑定をお願いするわ」
カルミーアはいつものようにハイテンションだ。
周りの冒険者たちがビクッと驚くくらいだ。
「はい、随分と早いんですね」
受付のお姉さんは、額に汗が出ている感じでひいている。
こんなにも早く攻略ができるなんて信じられないのだろう。
「それはもう、前の街でも片っ端から片付けてきたもの」
カルミーア、その説明だけだと受付のお姉さんは何がなんだかわからないぞ。
案の定、受付のお姉さんは頭の上に「???」が浮かんでいるようだった。
「素敵なパーティーにお越しいただけて、大感激です。では、『鑑定』……Aクラスですね。報酬は金貨10枚ですね」
受付のお姉さんは考えることを放棄して、ほぼ棒読みで社交辞令の言葉を言って魔石鑑定の対応をする。
そして、カルミーアは受付のお姉さんから金貨10枚を受け取った。
俺たちにはもう報酬が多いという実感はない。
だが、トゥーリアの冒険者たちにとっては破格の報酬金額なんだろう。
報酬の金額を耳にして冒険者たちは驚き、ざわざわと騒ぎ始めた。
俺たちが冒険者ギルドから出る際も、冒険者たちから嫉妬のような目線を送られた。
Aクラスダンジョンくらいなら、それなりに鍛錬していれば攻略は難しくない。
嫉妬されるほどのことでもないと思うのは俺たちだけのようだ。
冒険者ギルドを出て、俺たちはトゥーリアの高級のお店が並ぶ通りを歩いている。
「さあて、今日はどこに泊まりましょうか?」
「そういえば、トゥーリアに有名な宿屋があったよなぁ」
「あ、はい。『明星亭』という高級宿屋ですね」
「じゃぁ、その宿屋に泊まりましょうか!」
『賛成!』
全会一致で「明星亭」という宿屋に泊まることになった。
魔王のダンジョンを攻略しまくったので、俺たちの
「明星亭」という宿屋に着くと俺たちは豪華すぎる建物に驚いた。
普通の冒険者は絶対に泊まることはできないだろう。
カルミーアはそれほど驚くことなくすぅっと宿屋の中に入っていった。
それを見て俺たちは慌ててついて行った。
「いらっしゃいませ。4名様でよろしいでしょうか?」
宿屋の中に入ると、上品な女将さんが出迎えてくれた。
外も外だが、中の作りも別格の宿屋だ!
「はい、一人ずつ4部屋借りられるかしら? とりあえず10泊でお願いします」
「ええ、大丈夫ですよ。それでは、1泊銀貨100枚ですので、金貨4
カルミーアは金貨4枚を女将さんに渡した。
普通の人にとっては、1泊銀貨100枚はそこそこの値段だ。
だけど、俺たちにとっては安すぎる金額だ。
俺たちの金銭感覚がどんどん常人からかけ離れていっている。
でも、俺たちは基本的に呑むか、食べるか、寝るかくらいにしかお金の使い道がない。
お金は貯まっていく一方なのだ。
使用人に案内され、これから泊まる部屋に入ると俺たちは中の様子を見て絶句した。
これを一人一部屋とは
「キッチンがあるなんて素敵じゃない。今夜はクレマーチスの部屋で夕食をとりましょう」
カルミーアが目を輝かせてキッチンを見つめている。
「おう、それはいい。レア食材もたくさん貯まっているしな」
「わかりました。着替えたらこちらにまいりますね」
みんなは各自の部屋に戻り、部屋着に着替えてから俺の部屋に集まることになった。
カルミーアが一番早く俺の部屋に戻ってきて、キッチンで手際よく夕食の準備を始める。
カルミーアが料理をしてくれる姿を見るのは久しぶりだなぁ。
俺もお皿を並べるのを手伝い、テーブルに次々と出来上がった料理を置いて行った。
そして、やっぱり俺は強制的にレバー料理だった……。
——俺もステーキ食べたいよう。
全員が俺の部屋に
俺はレバー以外にも食べたいなと思い、カルミーアの美味しそうなステーキを
「クレマーチス、何? ステーキも食べたいの?」
俺の目線に気がついて俺の方に振り向いた。
俺は「うんうん」と首を振る。
「仕方ないわね。じゃぁ、あーん」
カルミーアはステーキを一口サイズに切り分けてフォークで俺の口元に持ってきた。
「あーん、ぱく。うんまー。噛んでないのに口の中でとろけたよ!」
もう幸せな気分だ。
カルミーアはまだこっちを見ている。
「それはよかった。もう一口食べる?」
俺の表情を見て、カルミーアはステーキをもう一口フォークで俺の口元に持ってきた。
遠慮なく俺はカルミーアからステーキを食べさせてもらう。
「おーい、俺たちの前でイチャつくなよー」
タフネスは大きく息を吐きながら言ってきた。
「え、何よ。イチャついてなんていないわよ!」
カルミーアにとってはこれはイチャついているうちに入らないようだ。
俺は、タフネスの言葉に対して、ハッとして顔を赤めてしまった。
タフネスは「はいはい」と言って、これ以上追及するのは諦めた。
タフネスは口論でカルミーアに勝てないことは分かっている。
リリーアも意味ありげに温かい目で俺たちを見守っていた……。
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