第11話 同時多発スタンピードと嫉妬した冒険者の末路

 翌日以降は、俺たちはペースを上げて魔王のダンジョンを攻略していった。

 放置されていたダンジョンがかなり多いので攻略件数が多い分、報酬もそれなりに高額になっていった。


 しかし、それに対してトゥーリアの冒険者たち俺たちへの嫉妬心はどんどん高まっていっているように感じた。


「さあて、今日もじゃんじゃんダンジョンを攻略していくわよ!」


 最近はお酒を控えているので、カルミーアは絶好調だ。


 とてもさわやかな笑顔で一番最初に冒険者ギルドにけて行った。


「うん、あと少しでSクラスダンジョンは制覇だね。頑張ろう!」


 俺たちはカルミーアの後をゆっくりと歩いて追っていく。


 別にクエストは逃げないから急ぐ必要はない。


「でもよう、ここの連中の目つきさぁ、めちゃくちゃヤバくなかったか?」


 タフネスは深刻そうな顔で俺たちに話かけてくる。


「そうですね。私たちだけがたくさんの報酬をいただいているせいなのか、冒険者たちの目つきが怖いですね」


 冒険者の前で高額の報酬をもらっているのだから、俺たちが大金を所持しているのは明白だ。


 俺たちのお金目当てで何かし企んでるのではないかと、タフネスとリリーアは警戒しているようだ。


 俺たちの実力からしたら返り討ちにできるけど、あまり人間を相手にしたくないよなぁ。

 

 ——穏便に済ませてくれたらいいのだけど……。


 俺たちはクエストをこなし冒険者ギルドに到着すると、すぐに違和感に気がついた。


 俺たち以外の冒険者の数が異様に少なく、新米の冒険者くらいしかいなかった。


「おはようございます。ずいぶん今日は静かですね」


 俺は異様な雰囲気を感じながら受付のお姉さんに質問をした。


「そうですね。いつもより人が少なくて驚いています」


 受付のお姉さんもこの状態は異常と感じているようだ。


「受付のお姉さん、ダンジョンのクエスト受注をお願いするわ」


 カルミーアはこんな異常な状況を特に気にしていなく、淡々たんたんとクエストの受注をする。


「はい、かしこまりました。あら、今回でSクラスダンジョンは現状は全てになりますね。こんな短期間にありがとうございます」


 受付のお姉さんは、もう俺たちのダンジョン攻略をしていく速さに慣れてしまったようで、全く表情を変えることはない。


 俺たちはクエストの受注をすると、まずは一番近いAクラスダンジョンへ向かう。

 

 カルミーアは真っ先に馬車に乗り込み、その後に俺とリリーアが乗車する。


 タフネスは馬車の操縦担当そうじゅうたんとうだ。



 目標のAクラスダンジョンい近づくと、大勢の冒険者が傷だらけでダンジョンから脱出してきた。


 すれ違いざま、ものすごい目つきでにらまれる。


 俺たちには思い当たるふしがない。


「なんなのよ、あの人たち」


 さすがのカルミーアも不機嫌な表情になった。


「俺たちがうらやましくて、ダンジョンに挑んだんじゃねぇ? それで返り討ちにあって逃げてきたってオチだろうな」


 タフネスの言うような単純なことならいいのだけどね。


「でも、なんで私たちをにらむのでしょうか」

 

 リリーアは片手をほほに当て、首をかしげる。


 ダンジョン攻略に失敗したからとはいえ、俺たちをうら道理どうりはない。


「Aクラスなら、コツコツ腕を上げてパーティー構成を工夫すれば攻略できないわけはないと思うんだけどね」


 俺たちは、初めからSクラスダンジョンを攻略できたわけではない。


 俺の魔力アップの影響もあると思うけど、Bクラスからコツコツと挑戦してきたからこそ今がある。


 しばらくすると、冒険者たちが逃げてきたダンジョンに到着する。


 そこははワイバーンの巣窟だった。


 トゥーリア周辺のダンジョンはどこもそのような状態だ。


 実力がない者が知らずに挑めば無傷では出てこられないだろうな。


 俺たちはいつも通りにダンジョンを攻略すると、また次、また次と、Sクラスダンジョン2つとAクラスダンジョン4つを攻略していった。


 これでSクラスはトゥーリア周辺では攻略完了だ。


「これでSクラスダンジョンは完了ね」


 カルミーアはやっと終わったと思い大きく息をいた。


「そうだね。この調子だとBクラスも手付かずのようだからどうしよう?」


「Bクラスはスタンピードが起きにくいとされています。トゥーリアのギルドに任せればよろしいかと……」


 リリーアの言う通りかな。

 

 Bランク冒険者はそこそこいるはずだから攻略できないことはない。


 俺たちは、Bクラスダンジョンはトゥーリアのギルドに任せるという結論に達した。


 気がつくと、辺りはかなり暗い時間なになっていたので、俺たちは急いでトゥーリアの冒険者ギルドに戻る。


 冒険者ギルドの建物に入ると、傷だらけの冒険者が俺たちを睨んでいた。


 全く心当たりがなくて気持ちが悪い。


 ——俺たちが何をしたのだろうか?


「なんか、私たちを睨んでいますよ。怖いです」


 リリーアは不気味な雰囲気に怖がっている様子だ。


「無視よ、無視。何されるかわからないから気をつけてね」


 カルミーアもこの不気味さは異常と感じているが、冷静さを保とうとしている。


 俺たちはクエストの報告をして報酬を受け取ると、そそくさと冒険者ギルドを後にした。



 翌朝、俺たちは新しくクエストを受注しようと冒険者ギルドに向かった。


 しかし、トゥーリアの冒険者たちがギルドの入口を占拠して俺たちを建物の中に入れさせないようしていた。


 今はギルドマスターが不在で冒険者たちのやりたい放題のようだ。


「お前たちが、こいつらをめたんだろう?」


 ダンジョン攻略に参加していなかった冒険者が俺たちをにらみながら因縁いんねんきかけてきた。


「なんの話よ?」


 俺たちには全く心当たりがない。


「なら、なんでこいつらが大怪我をして戻ってくるんだ?」


 目の前の冒険者は、傷だらけの冒険者たちを指差して怒っているように見せている。


「それはダンジョンで魔物にボコボコにされたからでしょう!」


「そんなこと、信用できるか!」


「私たちには、この人たちを傷つけるメリットなんてこれっぽっちもないわ」


「うるさい、今後ギルド内には入れさせない。いいな」


「はいはい、わかりました。じゃぁ、Aクラスダンジョンは貴方たちに任せるわ。頑張ってね」


 俺たちは諦めて、明星亭の10泊が終わるまでは街でゆっくり過ごすことにした。


「あれは完全に逆恨みだな」


「でもなんであの冒険者たちが無謀にもAクラスダンジョンに行っていたのかしら?」


「あいつらがダンジョンで待ちせして、俺たちのお金をねらっていたりしてな」


「私たち、明星亭みょうじょうていに泊まってて良かったかもしれませんね。普通の宿屋なら夜におそわれていたかもしれないです」


 さすがに高級宿屋に突撃する度胸どきょうはないよね。


 その後はみんなの装備を整えたり、物資ぶっし補給ほきゅうをしたり、観光したりとゆっくりな3日間を過ごしていた。



 宿泊最終日の朝、街中がずいぶんとさわがしくなっていた。


「ねぇ、女将おかみさん。外で何か起きたの?」


 カルミーアは不安そうな表情をした女将おかみさんに声をかけた。


「複数のダンジョンからスタンピードが発生したようです。街の人たちは逃げるかどうか必死なようです」

 

「それにしても、女将おかみさんは落ち着いていますね。逃げないんですか?」


「ええ、内心は恐ろしいですよ。ですが、逃げ道がなく逃げる方が先に魔物のえさになるだけですから……」


 女将おかみさんは逃げたくても逃げ道がないから、怖くてもここを動けないようだ。


女将おかみさん、大丈夫ですよ。俺たちがなんとかしますから」


 俺は余裕の表情で 女将おかみさんをはげます。


「ああ、最高のパーティーだからな俺たちは!」


 タフネスは誰よりも自信満々な表情で話す。


「もう、タフネスが威張るところじゃないでしょ」


 カルミーアはすぐさまタフネスにツッコミを入れる。


『あははは』


 俺たちの余裕の表情に女将さんは理解ができない様子だった。


 ——それはそうだよね。


「とりあえず、ギルドへ向かいましょう」


 まずは状況把握のため、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。


 入口にはギルドマスターが立っていた。


「お、お前たち、まだこの街にいてくれたんだな」


 ギルドマスターは驚きと安堵あんどの表情を見せた。


「たまたまですよ。もう1日ずれていたら別の街に行ってましたよ」


 本当にその通りだ。


 俺たちが直ぐにこの街を出ていたら、トゥーリアは終わっていただろう。


「すまん、俺が不在の間にいろいろあったと報告を受けている」


 数日前の冒険者たちの暴走がギルドマスターに報告が上がっているのか。


 受付のお姉さんたちだけではどうにもできないよね。


「別に気にしていませんよ。それより魔物の殲滅が先でしょ」


 カルミーアは冒険者ギルドの問題よりも、街の住民を早く助けたいという表情をしている。


 俺も同じだ。


「ああ、ありがとう。助かるよ」


 しかし、辺りを見回すと冒険者の数が少ない。


「あのう、冒険者の数が少なくないですか?」


 俺はギルドマスターに質問すると、暗い顔で答えてくれた。


「ああ、トゥーリアが出身じゃない冒険者はみんな逃げていったさ。逃げ道なんてないのにな」


 ギルドマスターの情報によると、4ヶ所のAクラスダンジョンからスタンピードが発生したそうだ。


 四方を塞がれている状態でこの街を出ていくのは、自ら魔物のえさになりにいくようなものだ。


 おそらくはもう……。


 しばらくすると、兵士が駆け込んできて報告をしてきた。


「ギルドマスター、報告です。ワイバーンの集団が2つ、オークの集団とゴブリンの集団が街に向かってきています!」


 ギルドマスターは腕を組んで考え事をしているようだ。


 そこへ俺はギルドマスターに提案をする。


「ギルドマスター、俺とカルミーアで3集団を殲滅せんめつします。タフネスとリリーアにここの冒険者が協力してゴブリンの集団をお任せしたいと思いますがよろしいでしょうか?」


「おい、二人であの数を相手できるのか?」


 ギルドマスターは俺の提案に対して驚愕きょうがくしている。


 無理もない、俺たちが滞在している期間はギルドマスターは不在だったのだからね。


 受付のお姉さんたちは特に驚いてはいなかった。


「俺たちに普通の常識は通用しないぜ。おい、そこの冒険者たち俺について来い! ゴブリンカイザーをぶっ倒すぜ!」


 タフネスはノリノリのようだ。

 残った冒険者たちはトゥーリアの街がとても大事なようで、素直にタフネスについて行くようだ。


「ではギルドマスター、行ってきますね」


「ああ、お前たちに任せる」


「では、ここにいる全員に支援魔法をかけるね」


『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』


「うわぁ、すごい。体に力がみなぎってきたよ」

「クレマーチスさん、ありがとう」

「よし、みんなでトゥーリアの街を守るんだ!」


 初めて俺の支援を受けた冒険者たちは、いつも以上に身体能力しんたいのうりょくが上がって驚いているようだ。


『おう!』


 タフネスとリリーアと冒険者たちは勢いよくゴブリンの集団へ向かっていた。


「カルミーア、俺たちも行こう」


「ええ、頑張りましょう!」


 俺はワイバーンの集団を、カルミーアはオークの集団へ向かって駆けて行った……。 

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