第3章 魔法使いの街

第12話 魔法使いしかいないギルドでの洗礼

『獄炎爆炎剣!』


 カルミーアの魔剣の技を発動する声が聞こえてきた。

 今頃、オークたちを獄炎で薙ぎ倒している頃だろう。


 俺は、ワイバーンの集団がやっと見えてきたところだ。


『アイスミスト!』


 ワイバーンの群れが射程圏内に入ると、俺は氷の霧の魔法を放ち全てを凍らせた。


『スタン!』


 俺は重力系魔法で凍らせたワイバーンを粉々にしていく。

 流石に数が多すぎて回収するのは面倒だ。


 そして、2体のレッドドラゴンがこちらに向かってきた。


 レッドドラゴン2体は同時に火炎のブレスを吐いた。


『アイスウォール!』


 氷の壁で簡単にレッドドラゴンのブレスを防ぐ。


『エアカッター!』


 風の刃はいとも簡単にレッドドラゴンの首をねていく。

 討伐完了だ。


 そして、遠くの方でダンジョンが崩壊する音が聞こえた。


 ボスであるレッドドラゴンを倒したから崩壊したのだろう。


 俺はそのままダンジョンへ行き、コア魔石を回収した。

 


 トゥーリアの街に戻ると、カルミーアたちも無事に討伐を完了してコア魔石も回収をしていた。


「おかえり、クレマーチス」


「うん、みんなも無事に討伐できたようだね」


「ええ、私はオークキングだったわよ。獄炎爆炎剣で一撃よ」


「カルミーアもすごいね。魔剣もちゃんと使いこなせているようだね」


「えっへん」


 カルミーアは俺に褒められて嬉しいようだ。


 表情が分かり易い。


「おお、みんな。戻ってきてたのか。こっちも問題なく殲滅したぜ。ほら、コア魔石だ」


 タフネスは、勝利の証のコア魔石を見せてガッツポーズをした。


「あはは……」


 トゥーリアの冒険者たちは、タフネスを尊敬の眼差しで見つめている。


 ——タフネスはどんな戦い方をしたのだろう。


「クレマーチスさん、タフネスさんはねぇ……」


「おい、リリーア、言わない約束だろう」


 うん、タフネスの名誉のために聞かないでおこう。


 カルミーアは全てのコア魔石を回収して、ギルドマスターのところへ近づいていく。


「ギルドマスター、全部片付いたわよ。証拠のコア魔石よ」


「おい、マジかよ。あんな短時間で全てのスタンピードをおさめてしまうなんて……」


 ギルドマスターは信じられないという表情をしている。


「あ、ああ、悪い。ここじゃなんだから、中に入ろうか」


 俺たちは立ち話をするのも悪いということで、ギルドマスターの部屋まで案内された。


「今回は申し訳ないことをしたのに、トゥーリアを助けてくれてありがとう」


「いえいえ、私たちは当たり前のことをしただけですよ」


 そう、俺たちは魔王のダンジョンを片付けていくだけ。


 飛び出してきた魔物も殲滅するのも俺たちの役目だ。


 そして、受付のお姉さんが報酬として金貨40枚を持ってきてくれた。


 Aクラスのコア魔石4つ分だ。


「なぁ、報酬はこれだけでいいのか? スタンピードを解決してくれた報酬はいいのかい?」


「ええ、私たちは特にお金に困っているわけではありませんので大丈夫ですよ」


「そうか、いろいろとありがとう」


「あ、ギルドマスター、私たちはこれから次の街に向かいます。残ったAクラスダンジョンはそちらにお任せします」


 本当は全てのAクラスダンジョンを片付ける予定だったが、妨害を受けて滞在しているうちに全てのダンジョンを攻略することができなかった。


「ああ、今いる冒険者を鍛えてスタンピードが起きる前に攻略できるようにしておくよ」


 俺たちはギルドの職員たちに見送られながら次の街へ向かった。


 次の目的地は「マジックール」という街だ。



 俺たちは馬車の中で爆睡をしていて、気がついたらマジックールという街に到着していた。


 この街は魔法使いの街と言われているらしく、魔法使いが非常に多い。


 街を歩いている人の服装を見る限り、かなり優秀な魔法使いが多そうだ。


 マジックールに着いて一番最初に冒険者ギルドに俺たちは立ち寄った。


 冒険者ギルドの建物に入ると、異様な光景に驚いた。

 

 冒険者は魔法使いしかいなかった。


 俺たちはとりあえず受付にいってダンジョンのクエストを受注しようとした。


「いらっしゃいませ。マジックールの冒険者ギルドは初めてでしょうか」


「はい、そうです。ギルドに魔法使いしかいないんですね」


「はい、この街は優秀な魔法使いが集まる場所ですので、ほぼ魔法使いだけでパーティーを組んでいます」


 上級魔法の火力で押し切るということなのだろうか。


 魔法使いも属性によって役割が異なるので不可能ではない。


「なるほど。教えてくれてありがとう」


「いいえ、どういたしまして。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「えーと、Sクラスダンジョンのクエストを1つ受けたいのですが」


 カルミーアが「Sクラスダンジョン」という言葉を発した瞬間、周りの冒険者達から一斉に目線が送られた。


 ——なんだろう、この異様な空気は。


「あのぅ、あなた方で行かれるのですか?」


「ええ、そうですよ。問題があるのですか?」


「いえ、そういう訳では。Sクラスのダンジョンとなりますとかなり苦戦すると聞いています。しかも、あなた方はAランクパーティーではございませんか」


 俺たちはダンジョンを攻略することばかり頭に入れていて、冒険者ランクのことはすっぽり抜けていたよ。


「問題ないですよ。すでに他のSクラスダンジョンを攻略していますから」


「そうなんですか!?」


 受付のお姉さんは絶句してしまった。


 トゥーリアのギルドマスターに冒険者ランクを上げてもらえばよかったかな。

 

 こうも面倒になるとは思ってはいなかった。


「おいおい、お前ら余所者だな? お前らでSクラスダンジョンを攻略できる訳ないだろうが!」


 何に苛立っているのかわからない。


 なぜ余所者だとSクラスダンジョンを攻略できないのだろうか。


「おい、俺たちは魔王のダンジョンを攻略してまわってるんだ! 問題でもあるのか?」


「ああ、大有りだね。俺とそっちの魔法使いと勝負して実力を示してもらおうか」


「わかった。勝負をして勝てばいいのね」


 カルミーアは勝手に勝負を受けてしまった。


 ——えー、手加減するの難しいよ。


 周りの冒険者たちが笑い出す。


 俺が勝てるわけがないと思っているのだろうか。


「物分かりはいいようだな。ここのギルドには魔法使い用の訓練場がある。そこで勝負だ」


 マジックールの冒険者ギルドでは実力主義のカースト制度があるようだ。


 弱い者は街を出るか服従するかのどちらかしかないように思える。


 俺は喧嘩を売ってきた冒険者と一緒に訓練場へ行き、向かい合う。


「お前から攻撃させてやる。さぁ、魔法を打ってこいよ!」


 俺はとりあえず最小出力で魔法を放つことに心掛ける。


 ——相手を殺してしまっては困るからね。


『ファイヤーボール!』


 最小出力の初級魔法を数発放つが、相手の魔力障壁によって弾かれる。


「おい、こいつ初級魔法しか使えないようだぜ」


「こんなんでSクラスダンジョンを受けようだなんて笑っちまうよ」


「ガウラス、やっちまえー」


 俺を罵る笑い声が沢山飛んでくる。


 目の前の冒険者はガウラスというらしい。


「おいおいおいおい、こんなんでクエストを受けるのか? お前らはバカだろう?」


『わっはっはっは』


「ちぃ!」


 全く動じない俺を見てガウラスは苛立っている。


「ムカつく目だな。俺様の上級魔法を見せてやる。死んだらごめんな。あはは」


「問題ないですよ」


「ああ、お前は死亡確定だ。消し炭にしてやる」


 ガウラスは上級魔法を放とうとしている。


『紅蓮の爆炎よ目の前のクズを焼き尽くせ、ファイヤーフェニックス!』


 ガウラスは俺に向かって炎の上級魔法を放つ。


 ——なんでみんな対象を「クズ」って呼ぶんだろう?


『ファイヤーボール!』


 俺は初級魔法で応戦する。


「おい、お前はバカだろう。初級魔法が上級魔法に勝てる訳ないだろう」


 俺は魔法の出力を徐々に上げていくと、ガウラスの魔法と拮抗するようになる。


「なっ、なんで初級魔法で同じ威力なんだよ、おかしいだろ!」


「何もおかしいことはないですよ。魔力を高めれば可能です」


 俺はさらに魔力を上げる。


 拮抗していた魔法がどんどんガウラスの方へ押し返していく。


 ガウラスは耐えきれなくなり、炎に包まれその場に黒焦げになって倒れた。


 ガウラスの仲間が回復魔法をかけてガウラスの火傷を癒している。


 倒れていたガウラスが仲間に癒され起き上がったが、何が起きたのか理解できていないようだ。


「勝負は私たちの勝ちでいいのよね。クエストを受けても構わないってことでいいかしら?」


「あ、ああ」


 予想外の結果にガウラスと野次馬たちは言葉を失ったようだ。


 俺たちは受付に戻り、Sクラスダンジョンのクエストを受注して目的のダンジョンへ向かった。

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