第13話 冒険者たちの嫌がらせは続く

 マジックールでの初めてのSクラスダンジョンは、魔法耐性がある魔物の巣窟だった。


 物質系の属性のものが多く魔法使いパーティーからは嫌がられるダンジョンだ。


 しかし、俺たちは問題なく手下たちを撃破してボスの部屋へ進んでいく。


 ここのボスはミスリルゴーレムだった。


「ミスリルゴーレムって初めて見るわ」


「素材の塊だよね」


「俺も新しい武器や防具が欲しいぜ」


 タフネスには市販品の一番高い装備で我慢してもらっている。


 カルミーアには魔剣があるし、俺とリリーアは金属性の装備は必要としていない。


 凄腕の鍛冶師を見つけてタフネスにプレゼントしないといけないと常々思っていた。


『アイスミスト!』


 俺は氷の霧でミスリルゴーレムを凍らせる。


 しかし、魔法耐性が強いのと物質系なのでミスリルゴーレムは凍らせられて死ぬことはない。


「じゃぁ、私がトドメをもらっちゃうわよ」


『獄炎爆炎剣!』


 カルミーアは魔剣に炎を纏わせ、ミスリルゴーレムを切り刻んだ。


 ミスリル金属の大量確保だ!


 俺は、ホイホイとミスリル金属を回収していく。


 タフネスも「俺の装備、俺の装備」と呟きながら散らばった素材を回収していた。


「よし、みんな脱出するよ!」


 みんなは俺に掴まる。


『エスケープ!』


 魔法でダンジョンを脱出して、崩壊したダンジョンからコア魔石を回収した。

 

 俺たちは冒険者ギルドに戻り、クエスト報告をして報酬の金貨100枚を受け取った。


「さて、今日はどこに泊まりましょうか?」


「この街は結構、高級宿屋が多いんだね」


 マジックールは高級なお店が多く並んでいて、宿屋もどこを選ぼうか悩むほどだった。


 そこへ、高級な馬車がレストランの前に止まり、降りてくる人を見て驚いた。

 

 俺のお父様だった。


 俺は見なかったことにして素通りする。


 お父様の目線が一瞬感じたが俺は気にすることなく宿屋探しを手伝った。


「ねぇ、クレマーチス。さっきのあなたのお父様じゃない?」


「うん、そうだね。若干目線を感じたけど、向こうも関わるつもりはなさそうだね」


 俺はまさか、お父様とマジックールの街で顔を合わせるなんて思ってもいなかった。


 結局、探しまわって俺たちは「マジリンス」という宿屋に泊まることにした。


「女将さん、私たち1部屋ずつ10泊でお願いします」


「はい、かしこまりました。金貨4枚を頂戴いたしますね」


 カルミーアは全員分の宿賃を支払った。


 今ではもうカルミーアはパーティーの財布を握っている。


 あるとき、タフネスが無駄使いし放題で散財しそうになった。


 それが原因で、パーティーの報酬はカルミーアが一括管理することになり、俺とタフネスは完全お小遣い制だ。


 翌日、カルミーアから魔法の街ということで、俺の装備を新調しようということになった。


 いくつかの高級店を俺はカルミーアとリリーアで梯子した。


 俺たちは高級店の中でも一番高そうな店を選んで入っていく。


「いらっしゃいませ。何かお求めのものはございますか?」


 店員は嫌なものを見る目であいさつをしてきた。


 俺たちは貧乏人に見えるのだろうか。


 そもそも冒険者が来るようなお店ではないような気がしてきた。


「えーと、大丈夫です。私たちで彼の似合いそうなものを選びますから」


「さ、さようでございますか……」


 ——店員さん、そこでホッとした顔を見せないでよー。


 さて、新しい装備はどうしようか悩む。


 白のローブは……似合わない。


 赤は……3倍速く動けそうだがこれも俺のカラーではないな。


 結局、黒基調の凝ったデザインのものを選んだ。


 俺は試着をしてみて、カルミーアとリリーアに見てもらう。


「うん、いいわね。格好良いわよ」


「そうですね。出来る魔法使いって感じで、すごく格好良いですね」


 二人に合格点をもらえたので、俺は試着しているものを全て購入することに決めた。


「店員さん、この4着をくださーい。いくらですか?」


「はい、全てで金貨5枚でございます」


 店員は「こんなに払えないだろう」というような顔をしている。

 ふんふん鼻息が荒い。


「金貨5枚か、意外と少ないんだね」


 カルミーアの財布から金貨5枚を店員に渡した。

 店員は「まさか払えるとは」とショックを受けているような表情をした。


「確かにいただきました。毎度ありがとうございました」


「うん、また来るねー」

 

 その後は、カルミーアとリリーアの普段着と装備品を探しに店をまわった。


 さすがに魔法の街と呼ばれるだけのことはある。


 剣士用の装備には魔法耐性やブレス耐性の施されたものがたくさん取り扱っていた。


 さらに、普段着用の洋服選びには特に時間がかかった。


 タフネスが逃げるわけだ。


「どう、クレマーチス。似合う?」


「うん、カルミーアは赤の色がとても似合うね。可愛いいよ」


 カルミーアは突然顔を赤らめた。


「あ、ありがとう。じゃぁ、これにしようかな」


「カルミーア、どうしたの? 大丈夫?」


「な、なんでもないわよ!」


「うふふ、カルミーアさん、とてもわかりやすいわね」


 リリーアがカルミーアを茶化していた。


 カルミーアは俺に褒められて照れていたようだけど、他に何かあるのかな?


 俺たちは買い物が落ち着くと一旦宿屋に戻り、着替えることにした。


 俺は先ほど購入したもの一式を着て、姿見の前で自分の格好をチェックする。

 

 ——おお、結構カッコいいな。強そうな魔法使いに見えるかなぁ……。


 鏡越しの俺の姿にうっとりしているところを、カルミーアたちに見られてしまった。


「うふふ。面白いものを見せてもらったわ」


 ——恥ずかしい、穴があったら入りたいくらいだ。



 その後、俺たちは時間の許す限り、魔王のダンジョン攻略をしていった。


 辺りが暗くなってきたなと感じると、冒険者ギルドに報告へ戻ることにした。


 俺たちが冒険者ギルドに戻ると、周りの冒険者たちがニヤニヤしながら俺を見る。

 

 気持ちが悪いな、今度は何を企んでいるんだろうか。


 俺たちは無視をして受付まで行く。


 冒険者ギルドでクエストの報告が終わり、宿屋へ帰ろうとするとガウラスが行く手を阻んできた。


「クレマーチスとか言ったな。あれを見ろ!」


 ガウラスが指差した先に張り紙が一枚貼られていた。

 『魔法大会開催のお知らせ』と書かれている。


「えーと、魔法大会がどうしたの?」


「それでこれだ!」


 ガウラスは一枚の紙を取り出した。

 それは魔法大会の出場認定証だった。

 しかも俺の名前が書かれている!?


「なんで、クレマーチスの名前が書かれているのよ?」


「マジックールの冒険者たちの代表として大会に出場してもらいたいんだ」


「何を言ってるのよ。私たちはマジックールの冒険者じゃないわよ!」


 ガウラスは聞く耳を持たないという態度をしている。


 魔法大会の優勝賞金は金貨100枚。


 俺たちにとっては微妙な金額だなと感じてしまう。


「逃げるなよ。逃げたら腰抜け呼ばわりされて冒険者ギルド追放だからな」


 なんでそういう結論になるのか意味がわからない。

 ——みんな追放が好きなんだなぁ。


「わかったわ。受ければいいのね。クレマーチス、優勝をかっさらっちゃいなさい!」


「おいおい、優勝する気でいるのかよ。俺より数倍強い魔法使いが集まるからな。この大会は相手を殺してしまっても問題ない決まりなんだ。せいぜい死なないように頑張れよ。うぷぷ」


 ガウラスは捨て台詞を吐いて俺に魔法大会の出場認定証を粗々と渡して冒険者ギルドを出て行った。


 『魔法大会開催のお知らせ』を読むと開催日は明後日になっていた。


 ——もうすぐじゃないか!


 まさか、この大会に出るためにお父様がマジックールの街にきていた訳じゃないよね。


 お父様は博識で、魔力もそこそこ高い。


 あまり関わりたくないなぁ。


 俺たちは魔法大会のチラシをもらい宿屋に戻った。


「おかえりなさいませ。お客様」


「はい、ただいま」


「あら、お客様も魔法大会に出場されるのですか?」


「そうですけど、よくわかりましたね」


「その手に握っている紙を見ればわかります。この辺の高級宿に泊まる魔法使いはほとんど大会に出場される方々なんですよ」


 宿屋の女将さんの話からすると、魔法大会に出るような魔法使いはそれなりの実力もあるが財力もあるということのようだ。


 やっぱりお父様も大会に出場するよね……。

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