第14話 魔法大会でお父様に勝ってしまう!

 魔法大会当日、俺は清々しい朝を迎えた。

 特に緊張感はなく、普段通りにやればいいだけだ。


「クレマーチス、頑張ってね!」

「お前なら優勝間違いなしだな」

「クレマーチスさん、応援しています」


 俺はカルミーアたちに応援されて魔法大会の開催場所である闘技場へ向かった。


 闘技場に着くと、出場者の中に、やはりお父様の姿もあった。

 

 お父様に睨まれたような気がしたが気にせず素通りする。


「誰か知っている魔法使いかね?」

「いや、知らない男だ」


 俺の耳に入ってきた会話に対して全く思うことはなかった。


 俺は大会出場の受付を済ませ、待機部屋へ案内された。


 どの魔法使いも高級なスタッフを持ち、防具も個性あふれる物を着るものばかりだった。


 黒で揃えている俺が一番目立ちそうなくらいだ。


 待機室にいる魔法使いはほぼ魔法大会の常連のようだ。


 俺は初顔で珍しいようだ。基本的に各街で名を轟かせた名家かツワモノしか集まっていないようだ。


 つまり、エリートの中のエリートの魔法使いしかいないということだ。


 一人の魔法使いがすたすたと近づいてきて、スタッフを持っていない俺を罵ってきた。


「スタッフも持っていないのか? 初戦でお前に当たる奴はラッキーだな。あははは」


 そんなフラグを立ててどうするのかな。


 俺は初戦で罵ってきた人と当たる気がした。


 俺を罵る魔法使いは一人だけではなく、ほとんどの魔法使いがそんな感じだった。


 基本的にスタッフは、自分の魔力を増幅させる道具である。


 スタッフによって使える魔力量というものが決まっている。


 魔力が高いものが安いスタッフを使えば使い手の魔力量に耐えきれず壊れてしまう。


 おそらく俺の魔力に耐えられるスタッフはなかなか存在しないだろう。

 むしろ必要ないくらいだ。


 控室で待っていると、係の者が準備するように俺に言ってきた。


 そして、闘技場で実況をする人が声を大きくする魔道具を使って叫ぶ。


『それでは呼ばれた番号の選手は闘技場の舞台に上がってください。1番、2番の選手お願いいたします』


 いきなり俺の出番だ。

 俺の番号は1番だから当たり前だよね。


『それでは、第1回戦。クレマーチス選手対ボムクーラ選手です。試合開始!』


 まずは1回戦、相手はボムクーラというらしい。

 先ほど俺を罵ってきた人だ。


「あれー、俺ラッキーだなぁ。初戦でこんなのと対戦できるなんて。ボーナスゲームだねぇ」


「それはよかったです。お手柔らかにお願いします」


「俺、優しいから。『ファイヤーボール』でお相手してあげるよー。えへへ」


「わかりました。俺も『ファイヤーボール』でお応えします」


「えー、もっと強い魔法で応戦しないと死んじゃうよー。大丈夫かなー」


「問題ないです。早くやりましょう」


「ちっ!」


 ボムクーラはスタッフを構える。


『ファイヤーボール!』


『ファイヤーボール!』


 俺はスタッフなしで放つと、ボムクーラの『ファイヤーボール』をかき消して、ボムクーラを場外へ吹き飛ばした。


 ボムクーラは黒焦げになって戦闘不能となった。


 もう少し出力を低くしないといけないかな。

 手加減がとても難しい。


『試合終了、勝者クレマーチス選手!』


 1回戦ではそんなに歓声は上がらなかった。


 むしろ、ボムクーラに対しての失笑の方が多かった。


 あれだけ相手を煽っておいてボロ負けの黒焦げなのだから仕方がない。


 その後、他の選手の1回戦の様子を見たが、ほとんどの魔法使いはガウラスの数倍の強さ程度だった。


 中にはまだ実力を出していない者もいたようだけど、それほど脅威と思える者はいなかった。


 俺が控室に戻るところをカルミーアが手を振って褒めてくれた。


「クレマーチス、さすがね。スッキリしたわ」

「うん、ありがとう」


 しばらく休んでいると、2回戦が始まるようで係の者に闘技舞台に行くように言われた。


『それでは2回戦です。クレマーチス選手対スコシマーシ選手です。試合開始!』


「1回戦の様子は見させてもらった。初めから全力でいく。悪く思わんでくれよ」


「はい、よろしくお願いします」


 スコシマーシはスタッフを構え魔法を放とうとする。


『ウォータースマッシュ!』


 全力で行くと言いながら、中級魔法だった。

 魔力の温存なのだろうか。


『ファイヤーウォール!』


「お前は素人か、水属性に弱い属性で防ごうとするとはな」


 俺の出した炎の壁はスコシマーシの水つぶてを吸収して蒸発させた。


「なんだと、そんなことはありえん。出し惜しみしていられんか」


『ウォーターハリケーン!』


 スコシマーシは今度こそ上級の水魔法を放ってきた。


 しかし、水の嵐も俺の炎の壁に吸収され蒸発してしまった。


「なんてことだ。ありえん。ありえんぞぉぉぉ!」


 スコシマーシは冷静さを失い、水属性の魔法を連発する。


 結局、スコシマーシは魔力切れを起こし倒れてしまった。観客からはため息の嵐だ。


 ——あれ、何もしないで勝ってしまったラッキー!


『試合終了、勝者クレマーチス選手!』


 俺は順当に勝ち上がっていった。


 対戦するたびに相手の魔法使いから罵りを受けるのは本当にうんざりした。


 そして、歓声ではなく失笑やため息の嵐が会場を響かせるのは異様な光景だった。


 結局、決勝戦は俺とお父様との対戦となった。


 何かの因果か、お父様とやり合う日が来るとは思ってもいなかった。



『それでは最終試合、決勝戦です。クレマーチス選手対マーレスボルコ選手です。試合開始!』


「久しぶりだな、クレマーチス。まさかお前と戦う日が来るとは皮肉なものだな」


「お父様には感謝しています。俺を追い出さなかったらこんな日は訪れなかったですからね」


「ふん、ぬかせ。クズ魔法使いに実力の差というものを見せつけてやる。お前を殺すことに躊躇ちゅうちょはしない」


「はい、全力でいかせていただきます」


「ふん、生意気な」


『召喚、フィアンマ・フーガ・ゴーレム!』


 お父様は火属性の最強のゴーレムを召喚した。

 並の上級魔法使いなら手に負えない相手だろう……。


『ブースト!』


 俺は身体強化をしてフィアンマ・フーガ・ゴーレムの攻撃を待つ。


「気でも狂ったか。フィアンマ・フーガ・ゴーレムの攻撃を受け止められるはずがない。いけ!」


 フィアンマ・フーガ・ゴーレムは獄炎をまとった腕で俺を攻撃してくる。


 しかし、俺は片手で受け止める。


「なっ、身体強化で受け止めたか。だが、獄炎で焼き尽くされるぞ! あははは」


 お父様は勝ち誇った顔をしている。


『アイスミスト!』


 俺はフィアンマ・フーガ・ゴーレムを一瞬で凍らせた。


『スタン!』


 さらに重力系魔法で俺はフィアンマ・フーガ・ゴーレムを粉砕した。


「なぜだ!? なぜフィアンマ・フーガ・ゴーレムが凍る、おかしいだろう!?」


 お父様は訳がわからないという顔をしている。


 おかしいと言われても、単純に獄炎を凍らせるほど魔力が高いということだけなのだけど……。


「ええい、1体がダメなら5体ならどうだ」


『召喚、フィアンマ・フーガ・ゴーレム×5!』


「いけぇ! あいつを叩き殺すんだ!」


 フィアンマ・フーガ・ゴーレム5体が一斉に飛びかかってくる。


「何体いても変わらないよ!」


『アイスミスト!』


 俺はフィアンマ・フーガ・ゴーレム5体を一瞬で凍らせる。


『スタン!』


 そして、あっという間に全てのゴーレムたちを粉砕した。


「まさか、こんなことが……」


「お父様、終わりにしましょう!」


『ファイヤーボール!』


「最後にそんな初級魔法か。本当にお前はクズ魔法使いだな」


 お父様は魔力障壁で防ごうとする。


 しかし、魔力障壁にヒビがはいる。


「なにぃぃ!? そんなことがあってたまるかぁぁぁぁぁ」


 魔力障壁が壊れ、お父様は炎に包まれ吹き飛んでいった。


『試合終了、優勝はクレマーチス選手!』


 俺はお父様に勝った。


 追放されたことはショックだったけれど、なんだかスッキリしない気分に僕は違和感を覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る