第30話 幼馴染の父親と決闘

 俺とカルミーアは、マージアのギルドマスターへの報告を終えると一足先にマージアの街に戻った。


 そして、懐かしい街の人たちが出迎えてくれた。


「カルミーアのお嬢ちゃんと、あんちゃんおかえり!」


「ありがとうね。私たちの街を救ってくれて」


「お嬢ちゃん、うちの飯を食ってくかい」


 俺より、カルミーアの方が人気があるなぁ。


「ごめんなさい、これから寄るところがありますので」


 これから寄るところはカルミーアの実家だ。


 カルミーアの指輪に気がついたおばちゃんがツッコんできた。


「そうかい、そういうことかい。おめでとうねぇ」


「おい、どういうことだい?」


「もう、二人の邪魔をするじゃないわよ」


「あぁ、そりゃぁめでてぇ。兄ちゃん頑張りなよ!」


「は、はい」


 俺たちは街の人たちに応援されながらカルミーアの実家に向かった。


 行く理由は俺とカルミーアとの婚約を認めてもらうためだ。


 しかし、とても緊張する。


 カルミーアの父親は厳格な性格な上に、剣聖の称号を持つほどだ。


 ——怖そうなんだろうな。


 マージアの街から森を抜けてカルミーアの実家に到着する。


 すると、カルミーアのお母様が一番に出てきてカルミーアを抱きしめる。


「おかえり、カルミーア。心配していたのですよ』


 本当に心配していたんだろうな。


 カルミーアのお母様の涙が止まらなかった。


 遅れてカルミーアの父親が出てきた。


 やっぱり体ががっしりしていてとても強面で、機嫌も悪そうだ。


 父親の勧めた婚約者が嫌でカルミーアが家を飛び出してしまったのだから、そうなるよね。


「心配したぞ、カルミーア。それほどあやつのことが嫌だったのか。すまぬことをした」


 怒るどころか、父親の方から謝ってきたので驚いた。


 話によると、ハルトグートが行方不明だから婚約の話は無かったことになっていたらしい。


 ハルトグートが今まで何をしていたかはこの街には全く情報が届いていなかったようだ。


 俺たちはこれまでの経緯をカルミーアの両親に話した。

 

 そして、ついに本題を話す時がきた。


 カルミーアからは「頑張って」と背中を押されて俺は口を開く。


 ——めちゃくちゃドキドキするよ。


「義父様、カルミーアとの婚約をお許しいただけますでしょうか?」


「ああ、わかった。ただし、私との勝負で勝ったら婚約の許可を出そう。私より弱い者は娘の婚約者には相応しくないからな」


「承知いたしました。勝負をお願いいたします」


「うむ」


 俺と義父様は屋敷の庭で勝負をすることになった。


 俺はカルミーアから魔剣を借りる。


 俺は初めて剣を握った。


「お主が魔法使いだからとはいえ、手加減はせんぞ」


「はい、心得ております」


『ブースト!』


 俺は身体強化をして備える。


 義父様は一気に間合いを詰めて攻撃をしてきた。


 俺は攻撃を余裕でかわす。


「ほう、この一撃をかわせるのか。だが!」


 義父様はさらにスピードを上げて剣を振り下ろしてくる。 


 俺は余裕で義父様の剣を受け止める。


「これを止めるか!?」


『ソニックブースト!』


 俺は加速して一瞬で義父様の後ろを取った。


「……降参だ」


 見事、義父様に勝負で勝ち、俺とカルミーアとの婚約を認めてもらう条件を満たすことができた。


「娘を幸せにしなかったら、その時は覚えておくように」


「承知いたしました、義父様。ありがとうございます」

 

 俺と義父様は立ち話を切り上げて客間に戻り、これからのことをお話しすることになった。


「義父様、義母様、婚約のお許しをいただきましてありがとうございます。今後のことですが、結婚はもう少し情勢が安定してからになると思います」


 勇者が失墜して、他に適任者がいないため俺たちが代理で今までも行っていったため引き続き王国から依頼が来る可能性があることを説明した。


「そうか、勇者も其方の弟も堕ちるところまで堕ちたのか。嘆かわしいことだ。娘の見る目の方が正しかったと改めて痛感させられた。カルミーア、辛い思いをさせてすまなかったな」


 カルミーアは首を振る。


「いいえ、お父様は悪くはございません。私の我儘で心配をお掛けしまして申し訳ございませんでした」


 ——うんうん、カルミーアと義父様が和解できてよかったよ。


「クレマーチス様、娘をどうかよろしくお願いしますね」


「はい、義母様。お任せくださいませ」


 カルミーアが両親との時間を満喫した後、次は俺の実家に行くことにした。


 追い返されるかもしれないけど、あいさつはしておこう。


「カルミーア、俺の実家にもついてきてくれないか?」


「ええ、もちろんですとも」


 カルミーアは俺の手をぎゅっと繋いでくれた。


「大丈夫だよ」という気持ちが伝わってきたような気がした。


 俺の実家はカルミーアの家の近くだから寄らないわけにはいかない。


 実家に到着すると、お母様が快く出迎えてくれた。


 お父様はむすっとしていたが、屋敷に入ることには反対しなかった。


 俺たちは客間に案内され、長椅子にお父様とお母様と対面するように俺とカルミーアが座る。


「お父様、お母様、私はカルミーアと婚約いたしました」


「あら、まぁ」


 お母様は手を口に当てて喜びの表情を見せた。


 お父様はむすっとしていて表情を変えない。


「それで、いつ結婚するの?」


「魔王討伐が終わってからになると思います」


 お父様とお母様は予想外の理由が出てきて驚いた顔をした。


「クレマーチスたちが魔王を討伐するのか?」


 お父様は急に口を開いた。


 初級魔法しか使えない俺が魔王討伐に関わると聞けば、それは驚くだろう。


「勇者たちは失墜して、投獄されています。実力的にも魔王討伐は不可能でしょう。おそらく私たちに依頼が来るのではないかと思っています。それと弟のハルトグートですが、盗賊に成り下がり極刑が決まっております」


 ハルトグートの状況を聞いたお父様は力が抜けて愕然としてしまった。


 相当ショックだったのだろう。


 お母様もかなり気を落としていた。


「そうですか。教えてくれてありがとう」


 お母様の言葉は少し弱々しかった。


 実の子供が悪いとはいえ、極刑にされると知ればショックを受けるだろう。


 新しい勇者も失墜してしまったのだから、俺たちの魔王のダンジョン攻略は終わらないだろう。


 少しでも早く王都に戻って、スタンピードの件について報告しないといけない。


「では、お父様、お母様、王都に戻らないといけませんので、この辺で失礼いたします」


「義父様、義母様、失礼いたします」


 俺とカルミーアは屋敷を出て、転移魔法を発動させようとする。


 その様子を見てお父様は驚いているようだ。


「では、お元気で」


 俺とカルミーアが軽くお辞儀をして、魔法を発動させる。


『テレポーテーション!』


 気がついたら、冒険者ギルドの入口に着いていた。


 ギルドマスターに報告をしようと建物の中に入ったらものすごい騒ぎになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る