第31話 勇者たちの脱獄

 俺たちは2階のギルドマスターの部屋へ行き、マージアの件を報告した。


「ありがとう。間に合ってよかったよ」


 ギルドマスターに手を握られながら感謝された。


「それより、下が騒がしいようですね。何かあったのですか?」


 俺がギルドマスターに質問すると、ギルドマスターは顔色を曇らせた。


「ああ、勇者のルアデコーザたちが行方をくらませたのだよ。今回はお灸をすえる程度の処罰だったのに逃亡してしまったようなんだ」


 王国ではもう勇者の信用はガタ落ちだろう。


 資格があっても勇者になりたがる人がいなくなるんじゃないか心配だ。


「では、また俺たちが魔王のダンジョン攻略をしてまわるということになりますね」


 懸念していたことが現実に起こってしまって俺は深くため息を吐いてしまった。


「申し訳ないねぇ。頼れるのは君たちしかいないんだよ」


 こればかりは仕方ないな。


 ブルット周辺のようなことは起こってほしくないからね。


 報告はしていないが、王都周辺のSクラスダンジョンは全て攻略済みだからまた他の街へ行かないといけなくなるようだ。

 

 俺たちが宿屋の部屋に戻ると、タフネスとリリーアが待っていてくれた。


「おお、おかえり」


「おかえりなさいませ」


 二人は心配そうな顔で近寄ってきてくれた。


「大丈夫だったよ。ちゃんと間に合って殲滅させてきたから」


「おう、それは何よりだ」


「それより、タフネスとリリーアは勇者の件のことを聞いている?」


 カルミーアが尋ねると、二人は深刻な顔になった。


「ああ、聞いてるぜ。脱獄したってな。バリスとハルトグートもだってよ」


「はい、兵士の方も何人か犠牲になったらしいです。指名手配されています」


 リリーアは脱獄した三人の指名手配書を見せてくれた。


 もうため息すら吐く気力も失せたよ。


「あと、騎士団からお呼びがかかったよ。明日の朝に迎えに来るそうだ」


「クレマーチスの予想通りね。王国も勇者の成長を待っている余裕はないってことね」


 ——俺の予想通りだけど、当たってほしくなかったよ。


 俺たちは早々に食事を済ませ、明日に備えることにした。


 あ、タフネスたちに俺たちが婚約したことを言うのを忘れていた。


 まぁ、落ち着いてからでいいか。

 

 解散した後は俺とカルミーアの二人っきりだ。


「まだまだ落ち着きそうにないね」


「ああ、そうだね。終わりが見えないのは辛いね」


「うん」


 せっかく婚約できたのに先が見えないと言うのは不安が積もるばかりだ。

 憂鬱にもなる。


 お互い、冒険者になってもっと楽しい生活を想像していたはずだ。


 今の問題を早く片付けてしまいたいな。


「カルミーア、先にお風呂どうぞ」


「うん、お風呂に入ってくるね」


 カルミーアがお風呂に入っている間、ベッドに横になりながらいろいろと物思いに耽っていた。


 家族とは和解とまではいかなくても煩わしい思いはなくなった。


 カルミーアとも婚約ができた。


 俺たちの幸せはあとそこまできているのに……。


「お待たせ、お次どうぞ」


 カルミーアがお風呂から上がってきた。


 石鹸やシャンプーのいい香りが俺の心を癒してくれるようだ。


「うん、お風呂に入ってくるね」


 お風呂に入ってさっぱりしてくると気持ちが少し和らいだ。


 悩んでても仕方がないな。


 俺がお風呂から上がって戻ってくると、カルミーアはすでに眠っていた。


 布団をそっとかけようとしたら、カルミーアは起きてしまった。


「ありがとう」


 カルミーアの顔を見て、今まで以上に愛おしく感じた。


 その後、俺はカルミーアと一緒の布団に入り抱きしめあった……。


 翌朝、俺が目覚めると近くにカルミーアの顔があった。


 お互いに「おはよう」と言い合って朝のキスをした。


「早く起きないと、またタフネスがいきなりきちゃうかもね」


「あはは、そう何度も……」


 ズドーンと思いっきり扉を開けてタフネスが入ってきた。


「おはよう! イチャイチャ中かな?」


 やはり、タフネスは空気を読まなかった……。


 あれ、鍵をかけていたはずなんだけど。


 そして、タフネスは俺たちを見て固まってしまった。


 ——いやいや、そこで固まらないでくれ。


 タフネスの行動にイライラしたカルミーアはタフネスに向かって枕をぶつけた。


「早く部屋から出ていきなさい!」


 カルミーアが怒ると、タフネスは縮こまって部屋から出ていった。


 俺とカルミーアは揃って大きなため息を吐いた。

 

 俺たちはリリーアが来ないうちに着替えを済ませ、装備を整えた。


 しばらくすると、リリーアが縮こまったタフネスを引っ張って連れてきた。


「ごめんなさいね。朝から迷惑をかけて。タフネスさんは何度叱っっても懲りないんですから」


 でも、縮こまったタフネスを見るのも面白いな。


 それにしてもどんな感じでタフネスはリリーアに叱られているんだろう。

 想像できないな。


「リリーア、言うのを忘れてたわ。私たちは婚約したのよ。お互いの両親の公認をいただいたわ」


「そうなんですね。お二人とも、おめでとうございます」


 おめでたいんだけど、これからのことを考えると少し憂鬱になるよ。


「さぁ、ちゃっちゃと朝ごはんを食べちゃいましょう。もたもたしていると騎士団のお迎えがきてしまうわ」


 カルミーアはテキパキと動き、朝食の準備をしていく。


 俺も少し手伝うことにした。


 皿出し程度しかできないけどね。


 カルミーアがささっと朝食を用意して、ささっと俺たちは朝食を食べる。


 俺たちが食べ終わった頃に、メイドから騎士団の方がお迎えに来たと知らせに来た。


「おはようございます。お迎えに参りました。こちらの馬車にご乗車ください」


 俺たちは騎士団の用意した馬車に乗り込んだ。


 俺たちを乗せた馬車は王宮へ向かって走り出した。


 冒険者が王宮に呼ばれることはまずない。


 初めての王宮に俺たちはとても緊張していた。


「リリーアは大丈夫だと思うけど、タフネスは気をつけてね。ちゃんと私たちを真似て礼儀はしっかりしてね」


「おう、わかった」


 いや、わかっていないと思う。


「タフネス、違うわよ。『はい、わかりました』ですよ」


「は、はい、わ、わかりました」


 いきなりは無理だと思う。


 あまり話さなくていいように誘導するしかないかな。


 王宮に到着すると、俺たちは騎士団長室へ案内された。


「ようこそ、来てくださってありがとうございます。いろいろとお察しと思いますがお願いがございます」


 もう俺たちは察している、勇者の代わりにダンジョン攻略を続けることを。


「はい。いつものことですから」


 カルミーアははっきりと答える。


「本当に申し訳ない。こうも勇者が立て続けに問題を起こすとは思ってもいなかった」


 騎士団長も気が気ではないよね。


 王国の権威を失墜しかけない事件の連発だったからね。



 俺たちが騎士団長と話をしているところに、一人の騎士が慌てて部屋に入ってきた。


「緊急のご報告です。王都の近くに新たなダンジョンが出現いたしました。ダンジョンのクラスはSクラスを超えるものと思われます」


 Sクラス以上ということは、魔王の幹部クラスの魔物か魔族がいそうだな。


 ケイオスディスカトールという魔王の四天王の本体がいるのだろうか?


「早速で悪いが、君たちに動いてもらえないだろうか?」


 俺たちしかいないのだから必然的にそうなることは覚悟していた。


「ええ、承知いたしました。お任せください」


 カルミーアが自信を持って承諾した。


「ありがとう。ご武運を祈らせてもらうよ」


 報告に来た騎士が道案内をしてくれるらしい。


 俺たちは騎士団の馬車に乗り込み、新しくできたダンジョンに向かった。

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