第32話 魔王四天王との対決
俺たちは、騎士団の馬車で新しいダンジョンまで送り届けてもらった。
今までの魔王のダンジョンとは違い、レンガ状のキッチリとした塔の形をしていた。
禍々しい魔力もビンビンに感じる。これまで以上に厳しい戦いになると思っていた。
「すごいなぁ、見た目だけでもやばそうって感じがするぜ」
タフネスはそれほど緊張感を出すことなく、ダンジョンを見上げる。
カルミーアとリリーアも同じような感じだ。
ダンジョンにいる者の魔力は俺以外は感じないようだ。
「じゃぁ、入る前に支援魔法をかけるよ」
『アタックブースト、ディフェンスアップ、ソニックブースト!』
「ありがとう、クレマーチス」
「あんがとよ!」
「ありがとうございます」
みんなは俺にお礼を言って、気合の入った表情に変わる。
「あと、リリーアにはこれも」
『マジックブースト!』
「クレマーチスさん、これは?」
リリーアは急な魔力の上昇に戸惑っているようだ。
「ああ、これは一時的に魔力を底上げする魔法なんだ。おそらくボスは闇属性を持っていると思うからね」
カルミーアはなんとなく察しがついたようだ。
おそらく、このダンジョンには魔王の幹部がいる。
しかも一人だけじゃない。
「準備はいいわね。突入するわよ」
『おう!』
俺たちがダンジョンの両扉を開けて中に入ると、Sクラスのボスたちがひしめき合っていた。
「こりゃぁ、今までとはレベルが違うダンジョンだな」
タフネスは冷や汗を流しながら警戒をしている。
「タフネスさん、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
「え?」
タフネスの思考が止まってしまった。
いつも思考をしているかはわからないが。
『アイスミスト!』
俺は氷の霧で目の前の魔物を凍らせて回収する。
いつもの素材回収だ。
カルミーアは「いつものことね」という安心した表情をしている。
リリーアはちょっと引き攣っていた。
「クレマーチス、さすがね。これだけ素材が集まればまたいつもの料理を作ってあげられるわね」
「ああ、楽しみにしてるよ」
ふたりの世界に入っている俺たちをみたタフネスは空気を読まないということすらできなかった。
リリーアは微笑ましいものを見たというような表情をしていた。
階層が上がるにつれて魔物の強さが上がっていくも、特に問題はなかった。
凍らせて回収、ただそれだけだ。
魔物の強さが上がれば上がるほど、魔物のレバーは俺の血と魔力になる。
俺とカルミーアは心を躍らせながら進んでいった。
結局、全ての魔物を回収してダンジョンの最上階に到達した。
「ここがボスの部屋ね」
「うん、今回は4体いるよ。気を引き締めてね」
「おい、そんなことがわかるのかよ?」
俺には中にいる者の魔力を感じる。
恐怖を感じるほどではないのだけどね。
「あ、私もクレマーチスさんの支援魔法のお陰でなんとなく感じ取れます」
リリーアも俺の支援で魔力が上がっているため、相手の魔力が感じることができたようだ。
俺たちがボス部屋に入ると、いち早くケイオスディスカトールが声をかけてきた。
「わぁっはっはっは、待ち侘びていたぞ小僧。なかなかの面構えになったじゃないか。これは楽しめそうだ」
ケイオスディスカトールはものすごく陽気だ。
恐怖を感じないように見えるが、この中で一番強い敵だ。
目の前にいるのは魔族だ。
魔王の直属の配下だから油断はできない。
「ケイオスディスカトール、遊びじゃないんですよ。それをお忘れなく」
1体の魔族がケイオスディスカトールに話しかけていると、俺は魔力の移動を感じた。
『アイスウォール!』
俺はリリーアの前に氷の壁を展開させた。
すると、釜のようなものをキシンと音を立てて弾いたのがわかった。
「ちぃ、バレていたか」
「ファイクザーンクック、卑怯ではないか?」
ケイオスディスカトールは正々堂々と戦いたいようだ。
しかし、ファイクザーンクックは勝つためには卑怯な手段を平気でやってくる性格のようだ。
「うるさいわね。これが私のやり方なのよ」
会話中悪いが、この隙を利用させてもらうよ。
『ホーリーアロー!』
俺は聖属性の矢を生成してファイクザーンクック向けて放った。
「うぎゃぁぁぁ!」
ファイクザーンクックは俺の光の矢で急所を射抜かれ聖属性の癒しの力もあり、消え去っていった。
「悪いね、ケイオスディスカトールさん。正々堂々と戦いたかったようだけど、隙を利用させてもらったよ」
俺がファイクザーンクックを倒すと、2体の魔族が怒り狂って襲いかかってきた。
「くそう、よくもファイクザーンクックをやったな!」
「お前たちを食い殺してやる!」
「ドゥムアホトール、ドゥムハイトポカーン、待て。迂闊に突撃するな!」
ドゥムアホトールとドゥムハイトポカーンにはケイオスディスカトールの声は届かなかったようだ。
「リリーア、いくよ!」
「はい」
『ホーリーアロー!』『ホーリークロス!』
俺は光の矢を、リリーアは光の十字架をドゥムアホトールとドゥムハイトポカーンに向けて放った。
「うぎゃぁぁ、体が、からだがぁぁぁ!」
「なんだこの魔力は、押し潰される。うぎょえぇぇぇ!」
ドゥムアホトールとドゥムハイトポカーンは光の圧力によって消え去っていった。
「全く、愚かな。魔王様の配下としてみっともない」
ケイオスディスカトールは大きなため息を吐いた。
無惨にやられたことよりも、攻を焦った行動に対してがっかりしているようだ。
「実力は小僧たちの方が圧倒的に上か……。この期に及んでと思うかもしれんが、1体1の勝負を所望する。受けてはくれまいか?」
ケイオスディスカトールは魔族では珍しい武人という感じだ。
すると、カルミーアが俺の前に出た。
「私にやらせてちょうだい。ケイオスディスカトール、私が相手ではご不満かしら?」
カルミーアは魔剣を構えて臨戦体制の状態だ。
「おお、それは小僧にあげた魔剣ではないか。良い良い。よろしくお願いする」
ケイオスディスカトールは戦うことが好きなようで、顔が笑っている。
「いくわよ!」
『獄炎爆炎剣!』
カルミーアは魔剣に獄炎を纏わせる。
「おお、魔剣を使いこなしているとはさすがだ。嬉しいぞ。では、こちらも」
『獄炎爆炎けぇぇん!』
ケイオスディスカトールも魔剣に獄炎を纏わせる。
お互い魔剣同士の戦いだ。
剣技を使いこなすカルミーアとパワーで押してくるケイオスディスカトールの攻防が凄まじい。
一進一退の攻防がこのまま続くのだと思った。
だが……。
「ちょっと待ってくれ!」
ケイオスディスカトールがいきなり待ったをかけてきた。
カルミーアは手を止める。
何事かと俺たちはケイオスディスカトールに注目する。
どうやら何か念話を受けているようだ。
念話が終わったのかと思ったらケイオスディスカトールは剣を引いた。
驚きの行動に俺たちは何が起きたのか理解ができなかった。
「勝負の途中だが申し訳ない。俺は魔王様の命令で魔界に帰ることになった。このまま行かせてもらえるだろうか?」
カルミーアが俺の方を見て確認を取ろうとした。俺は「うん」と頷いた。
「ええ、構わないわよ」
「そうか、感謝する。これはお前たちにとって悪いことではないと思う。では」
ケイオスディスカトールは一瞬で姿を消した。
魔力も感じないから、本当に魔界に帰ったようだ。
そして、主がいなくなったダンジョンが崩れ始めた。
急いで俺たちはダンジョンを脱出する。
そして今までのダンジョンと同じように瓦礫の山と化してしまった。
いつものようにタフネスは瓦礫の中に入りコア魔石を回収する。
「それにしても何が起きたのかしら?」
「うーん、俺にも何が起きたかわからないね」
「悪いことではないとは、どういうことでしょう?」
ケイオスディスカトールの最後の言葉に悩まされながら俺たちは王都に帰還した。
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