第33話 魔王の侵攻が止まる
俺たちは王宮の騎士団長室に案内され、ダンジョン攻略の証であるコア魔石を提出した。
「君たちには驚かされるよ。ありがとう。本当に感謝する」
俺たちは騎士団長に深く頭を下げられてしまった。
こちらの方が恐縮してしまう。
カルミーアは、ケイオスディスカトールの最後の言葉についても報告をした。
「うーん、何かが起こるのは確かだろうね。わかった、各地に調査団を派遣して今後魔王がどのような行動をしてくるか監視することにしよう」
魔王が畳み掛けて侵攻してくるのか、それとも撤退を意味するのか全く分からなかった。
結局は様子を見て、対処するしかないのだろうな。
「調査がある程度進むまで、しばらく君たちには王都に待機していただけないだろうか。もちろん、滞在費用はこちらが持つよ」
俺たちが現在滞在している宿屋の延長分は騎士団が出してくれるようだ。
しかし、宿屋の名前と宿泊料を伝えたら騎士団長の顔が引き攣ってしまった。
「別に無理なら構いませんよ」
でも、騎士団長は言ってしまった手前、撤回するのを躊躇しているようだ。
「それでは、半分ずつでいかがでしょうか?」
「ああ、それであればなんとか……」
騎士団長は少しホッとした表情に変わった。
流石に毎日金貨4枚では騎士団として予算オーバーするようだ。
半分でもギリギリといったところのようだ。
結局、俺とカルミーアは同部屋にして、3部屋に減らすことで日々の宿泊料を金貨3枚に抑えた。
騎士団に負担してもらうのは半分ではなく、一部屋分の金貨1枚で納得してもらった。
基本的に俺たちは宿屋待機だ。
危なそうな街があれば対処に出かけるという日々を過ごしていた。
どちらかといえば、平穏な日々の方が多かった。
宿屋待機を始めて10日ほど経った朝……。
「おはよう。今日も平穏だね」
「そうだね、カルミーア」
『チュッ』
俺とカルミーアはゆっくりとした朝をおくっている。
流石にもうタフネスは乱入してくることはない。
俺はカルミーアのサラサラの髪の毛を撫でながら至福の時間を味わっている。
グゥゥゥ。
俺の腹の虫が鳴ってしまった。
「うふふ、じゃぁ、朝ごはんの用意をしましょうか」
カルミーアはベッドから出て、キッチンへ向かう。
しばらくするといい香りが漂ってきて、それにつられるように俺はベッドを出てテーブルの席に着く。
カルミーアは手際よく、料理をテーブルに置いていく。
「はい、お待たせ」
全ての料理が揃うと、カルミーアも席に着く。
「いただきまーす」
俺が料理に手をつけると、柔らかい表情でカルミーアが俺を見つめる。
美味しそうに食べる俺の姿を見るのが嬉しいようだ。
幸せな時間を満喫していたら、トントンとノックの音がした。
「どうぞ」
俺はドアの鍵を解除して、扉を開ける。
部屋にやってきたのはリリーアだった。
そのまま俺はリリーアを部屋の中に招き入れる。
「お寛ぎのところ申し訳ありません。騎士団がこれから迎えにくると伝言がございました。出掛けられるように準備をお願いいたします」
「ありがとう、リリーア。それより、朝食は済ませましたか?」
「いいえ、まだです」
「では、一緒に食べましょう」
「はい、ありがとうございます」
俺たち三人で食事を済ませ、リリーアは自分の部屋に戻り、俺たちは出かけるための準備を整えた。
あれ、誰かを忘れているような……まぁいっか。
しばらくすると、騎士団の馬車が宿屋に到着した。
俺たちは騎士団の馬車に乗車し王宮へ向かうことになった。
「タフネス、どうしたの?」
「いや、まだ朝飯を食べていないんだ。腹が減って……」
「ああ、ごめん。タフネスを忘れていたわ」
タフネスは「なんとご無体な」という表情をして頭を抱えた。
そんなタフネスを見て俺たちはお腹を抱えて笑ってしまった。
「そんなに時間がかかることじゃないと思うから、我慢なさい」
「お、おう」
王宮に到着して、騎士団長室に案内された。
騎士団長から調査結果を教えてもらえるようだ。
「調査結果が出た。朗報だ。魔王のダンジョンの増殖が止まっているとのことだ」
騎士団長から笑みが見えた。
いろいろと事件続きで心労が溜まっていただろう、朗報が来てよかったよ。
しかし、ケイオスディスカトールの最後の言葉はこのことだったのだろうか。
魔王の心境の変化は謎のままだ。
「国王陛下からは、君たちに残りのダンジョンの攻略をお願いしたいとのことだ。よろしくお願いする」
騎士団長からまた頭を下げられた。
「いいえ、そんなにかしこまらないでください」
「いや、君たちには大変助けられている。国王陛下もご存じだ。無事に魔王の脅威がなくなったら、君たちには国王陛下と謁見をしていただくことになる」
騎士団長の言葉に俺たちは言葉を失った。
国王陛下との謁見はなかなか許されることではない。
国王陛下から直接依頼が来るとは思ってもいなかった。
騎士団長は俺たちの助けになればと、調査でわかっているダンジョンの位置が示されている王国の地図を俺たちに渡してくれた。
まだまだ相当数のダンジョンが残っているが、終わりが見えたというのは嬉しいことだ。
「かしこまりました。私たちにお任せください」
カルミーアは誇らしい表情で俺たちを代表して返事をした。
明日から各地へ行き、魔王のダンジョンを攻略していくのだ。
俺たちは依頼を受けると、宿屋に戻って作戦会議をすることにした。
「終わりが見えてよかったけど、Sクラスダンジョンは1000はあるわよ!」
手付かずのダンジョンの数に絶句してしまった。
これだけ残っていて、どうして王国が滅ぼされなかったのか不思議で仕方がない。
「5日で100といったところかな」
単純計算でそれでも50日はかかる。
街から街への移動時間を考えると数ヶ月はかかるだろう。
「なぁ、AクラスやBクラスは無視しても大丈夫なのか?」
タフネス、嫌なことは言わないでくれ。
AクラスとBクラスのダンジョンを加えると1万は超える。
少なくともBクラスは各ギルドで対処してほしいものだ。
「タフネスさん、皆さんに不安を煽ることは言わないようにしましょうね」
「は、はい。気をつけます」
意外とタフネスがリリーアに素直なことに驚いた。
二人はいいパートナーになりそうだ。
俺とカルミーアは「うふふ」とにやけてしまった。
「では明日に備えて今日はもう休みましょう。まだまだ大変だけど頑張りましょう!」
「そうだね。頑張ろう!」
会議が終わると、タフネスとリリーアは自分たちの部屋に戻っていった。
「また冒険が始まるわね」
「うん、そうだね。頑張ろう」
「うん」
俺たちは旅の支度を整えて、明日に備えて早めに眠りにつこうとした。
しかし、俺とカルミーアはしばらくイチャイチャはできそうにないので、今夜は存分にイチャイチャした。
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