第39話 魔王との最後じゃない晩餐

「料理は使用人に運ばせましょう。お二方は食堂にご案内いたします」


 料理の運搬は使用人に全て任せて、俺たちは先に食堂へ案内された。


 食堂では長いテーブルに白いテーブルクロスが敷かれていて、魔王とケイオスディスカトールが待っていた。


 一番奥の席に魔王が座り、斜め後ろの席にケイオスディスカトールが座っていた。


「お待ちしておりました。お客さまに調理をお任せしてしまいまして申し訳ございません。ささ、こちらにお掛けください」


 本当に調子が狂うな。


 魔王に案内されながら俺たちは席に着く。


 すると、使用人たちが出てきて料理が並べられていく。


 食前酒としてかなり上物のお酒が用意されていた。


 ガラスのグラスに丁寧にそのお酒が注がれていく。


「では、本日のクレマーチスご夫妻との出会いに乾杯いたしましょう。乾杯!」


『乾杯!』


 ——魔王と一緒に乾杯ってどうなの?


 俺たちは何も疑わず、食前酒を飲みほす。


 とても上質でほんのりした甘味があり少し軽めの良いお酒だ。


 その後、俺たちはカルミーアが作った料理に手をつけていった。

 

 俺は一つ気になったことがあったので、魔王に質問をすることにした。


「バル、そういえば、なぜ人間界の進行をやめたんですか?」

 

 俺が質問すると、魔王はガッカリしたような顔つきに変わった。


「勇者が誕生したということで人間界に進行を始めたのですが、興醒めしてやめたのです」


 魔王の説明によると、魔王の配下がルアデコーザたちを捕えて魔王城に連れてきたそうだ。


 勇者たちにものすごく命乞いをされて呆れ果ててやる気を無くしてしまったのだ。


 殺すのも面倒になってしまって奴隷扱いの使用人にしたということだった。


「ところで、クレマーチス様。こちらにはどのようなご用件でお越しになったのでしょうか?」


 魔王は冷や汗をかいているようだ。


 俺がバルの首を狙ってきたと思っているのだろうか?


「いえ、人間界で欲しい魔物がいなくなってしまって、魔界で狩りをしようかなと思って来ただけですよ」


 そんな俺の言葉を聞いて、バルは大きく息を吐いた。


「あはは、そうなんですね。てっきり私の首を……」


 魔王は一生懸命ハンカチで冷や汗を拭っている。


「そういえば忘れていましたね。人間界の進行をやめて頂ければ何もしないですよ」


「も、もちろん、金輪際こんりんざい、人間界に進行はしませんよ。あははは」


 魔王は自分の命が助かったと思い、安堵した表情に変わった。


 なぜ魔王たちがこのような行動をとったのかイマイチよくわからなかった。


「それでは、私とクレマーチス様との友好の証にこちらを差し上げます」


 俺は、魔王から魔道具らしきものをもらった。


 一眼ではこれが何かはわからなかった。


「ありがとうございます。これは何でしょう?」


 魔王は笑顔で答える。


「はい、クレマーチス様がこちらで狩りをされたいとおっしゃっていたので、人間界と魔界を簡単に行き来できる魔道具でございます」

 

 それはなんとも便利なアイテムだ。


 魔界に行こうとするたびに最果ての地を通らないといけないと思っていたから、とてもありがたい。


「クレマーチス、よかったわね。これで魔界でも冒険ができるわね」


「あのう、バル。どの辺なら狩りをしていいのかな?」


 間違って魔王の配下の魔物を倒してしまっては困るだろう。


 一応、確認はしておかないと。


「はい、私の配下には念話でクレマーチス様とご夫人には手を出すなと通知いております。襲ってくる魔物なら容赦無く狩っても大丈夫でございます」


「おお、それはわかり易いですね。ありがとうございます」


「いえいえ、お礼をいただくほどではございませんよ」

 

 今後、俺たちは魔界で自由に狩りを楽しんでもいいことになった。


 とてもありがたいことだ。


 食事も終わって歓談しているところに、使用人が魔王に言付けをした。


「クレマーチス様、人間界ではそろそろ夕時のようでございます。そろそろお戻りになられてはいかがでしょう」


 魔王が俺たちに対して気を遣ってくれるなんて信じられない。


「それでは、そろそろ俺たちは戻らせてもらいますね。今日は楽しかったです。また遊びにきますね」


「ええ、ぜひまた遊びにいらしてください」


 魔王の笑顔が少し引き攣っているように見えた。


 あまり、来ない方がいいのかな?


「それでは、バル。お邪魔しました」


 俺たちは魔王たちに見送られながら、魔道具で人間界に戻った。


 気がつくと、自分の屋敷の前に転移していた。


 これはとても便利な魔道具だ。


「すごいわね。一瞬で屋敷に戻れたわ。これからは気軽に魔界に行けるわね」


 あはは、カルミーアの方がやる気満々のようだ。


「カルミーア、もしかして魔王の城で料理をしようと思っていない?」


「え、バレちゃった?」


 カルミーアの目的は料理をすることだった。


 屋敷では一切料理をさせてもらえないから、たまにはいいか。


 その後、俺たちは領地経営をしながら、暇を見て魔界に遊びに行くようになった。


 俺たちが魔界に行くたびに、魔王たちから歓待を受ける。


 そんなに気を使わなくていいのにと、俺たちは毎回不思議に思うのだった。


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【レバーを食べて魔力アップ!】〜実家にも勇者パーティーにも追放された初級魔法しか使えないクズ魔法使いは、幼馴染のレバー料理で史上最強の存在になってしまう〜 藤野玲 @taasama0079

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