第17話 魔法使いがいない街での洗礼

「私たちはSクラスダンジョンを攻略して回っています。未攻略のダンジョンはありますでしょうか?」


「え、Sクラスダンジョンですか? まだ誰もブルットの街では攻略者はおりませんが……」


「そうですか、それではSクラスダンジョンのクエストを1つお願いします」


 俺たちがSクラスダンジョンのクエストを受注しようとすると、一人の冒険者が声をかけてきた。


「おい、そこのお前たち。貧弱そうな魔法使いがパーティーにいるようだが大丈夫なのか?」


 俺たちに声をかけてきたのは俺と同じくらいの年齢の剣士だった。


 周りの冒険者の雰囲気からしてこの剣士がここのギルドで一番強いということなのだろうか。


「大丈夫よ。クレマーチスがいれば、Sクラスダンジョンの攻略なんて楽勝なんだから!」


「冗談を言うのはよしてくれよ。こちらはAクラスを攻略するのがやっとだというのに、そんな貧弱魔法使いがいたらSクラスなんて無理だろう」


 ここの冒険者たちは、強くてもAクラスダンジョンを攻略するのがやっとの実力しかないということのようだ。


「問題ないわ。すでにいくつものSクラスダンジョンを攻略しているから。証拠を見せましょうか?」


 目の前の剣士の顔つきからすると、Sクラスダンジョンを攻略しているか、していないかは関係ないようだ。


「おいおい、そんなの捏造でどうとでも誤魔化せるじゃないか。俺に実力を見せてくれよ」


「わかったわ。どうすればいいの?」


 剣士は人差し指を下に指して話し出す。


「地下に訓練場がある。そこで1対1の勝負だ。ちなみに勝負するのはそこの魔法使いだ!」


「わかったわ。私はカルミーア、こちらの魔法使いはクレマーチスよ。そちらも名前を名乗らずってのは失礼じゃない?」


「ああ、すまなかった。俺はインサンスだ。よろしく頼むよ、クレマーチスさん」


『ブースト』


 俺は念の為、小声で身体強化をした。

 どんな罠が仕掛けられているかわからないからね。


 インサンスは不敵な笑みを見せながら地下の訓練場に向かっていき、俺もその後についていった。


 地下の訓練場では他の冒険者たちも見物するようだ。


 しかもいやらしい笑みを見せながら俺を見ている。


 やっぱり何か罠があるようだ。


「心配するな。殺しはしない。気絶するか、降参した方が負けだ」


「そうですか、わかりました」


 地下の訓練場は妙な感じがする。

 罠というより結界のたぐいだ。


 若干抵抗感があるが俺にとっては問題ないレベルだ。


「では始めるぞ。せっかくなので、クレマーチスさんから攻撃させてあげるよ。さぁ、魔法を打ってきなよ。さあさあ」


 インサンスは余裕の表情を見せる。


 この部屋に仕掛けられた罠にそれほど自信があるのだろうか。


『ファイヤーボール!』


 俺は最小出力で魔法を放とうとしたが、炎はすぐに消えてしまった。


 ——そういうことか。


 この地下の訓練場は、魔法使いの能力を制限する結界を張っている。


 これでは殺さないように手加減することができないじゃないか。


「あははは、この部屋では魔法使いは無力なんだよ。クソ魔法使いが。俺の剣で死なない程度に切り刻んでやるよ。あははは」


 いきなりインサンスは狂ったように笑い始めた。


 地下の訓練場に張られている結界は、一定の魔力を放出できないようにする結界のようだ。


「おっと、言い忘れていた。負けたら俺たちの下働き確定だからな。お仲間の魔法使いと仲良くできるぜ!」


 そうやってブルットの街に来た魔法使いを落とし入れて酷い仕打ちをしているのだろうか。


「なにもたもたしてるんだよ。ビビってるのか? あははは」


「いいえ、別にビビってはいませんよ」


「ふん、痩せ我慢ができるのも今のうちだ。俺に切り刻まれな!」


 インサンスは剣を振り上げて俺に向かってきた。


 インサンスは剣を振り下ろすが、俺は簡単にかわせてしまう。


 どう見ても素人が剣を振り回しているようにしか見えない。


「く、くそぅ、なんで……当たらないんだよ!」


「クレマーチス、手加減なんかしてないでとっとと片付けちゃいなさい!」


 カルミーアは少し語気が荒く、少しイライラしているようだ。


「外野はうるさい、黙ってろ! 今からが本番だ。覚悟しな。うぉぉぉぉ!」


 インサンスは突進してきて剣を上から振るう。


 しかし、俺は片手で軽々とインサンスの剣を受け止める。


「なっ、なんで魔法使いなんかに!?」


「終わりにしようよね……ふん!」


 俺は拳をインサンスの腹に一発打ち込んだ。


「うぐあぁっ……」


 インサンスは痛めたお腹に両手を当てながら後退りする。


 それを見たインサンスの仲間たちが一斉に俺に襲いかかってくる。


「このやろう、生かして帰すな」

「一斉にやれば、ヤレる!」

「うおぉぉ!」


 ——やれやれ、魔力解放!!


 俺は結界を打ち破るために魔力を高めていく。


 一定の魔力まで上げると結界が壊れたのがわかった。


『スタン!』


「うげぇぇ」

「なんで魔法が使える!?」

「くそう、動けねぇ」


 インサンスの仲間たちは俺の初級の重力魔法で地べたに這いつくばって動けない。


「な、なんでこの部屋で魔法が使えるんだ? おかしいだろう!?」


 インサンスのさっきまでの余裕の表情が全くなくなってしまった。


「結界なら先ほど俺が吹き飛ばしました。それより、大丈夫ですか?」


「な、舐めるなぁぁ!」


 インサンスは剣を思いっきり振り下ろしてきたが、俺は右手で受け止める。


 そのまま俺は左手でインサンスの剣をへし折った。


 折れた剣先を捨てて俺はインサンスの顔を殴ると、インサンスは吹き飛んでいって壁に激突して意識を失った。


「あ、そう言えば、魔法を解除するのを忘れていましたね」


 俺はインサンスの仲間にかけていた魔法を解除する。


 気がつくとインサンスの仲間たちは口から泡をふいて気を失っていた。


「な、何事だ!?」


 一人のおじさんと受付のお姉さんが1階から降りてきた。


「そこの君、ここで何が起きたか説明してもらおうか。私はここのギルドマスターだ」


 おじさんはギルドマスターだった。


 俺たちは地下での出来事をギルドマスターに説明をした……。


「そうだったのか。申し訳ないことをした。俺の目を盗んでこんなことをしていたのか」


「俺たちは問題ないです。インサンスたちが監禁している魔法使いたちがいるようなので、居場所を聞いて保護をしないと」


「ああ、わかった。こいつらから全て吐かせてなんらかの処置をしよう。ありがとう」


 その後、兵士たちが来てインサンスとその仲間たちが捕えられて牢獄に連れて行かれた。


 結局、今回の騒ぎで今日のクエストの受注は見送りとなってしまった。


 仕方がないので、俺たちはそのままブルットの街で一番高い宿屋に行くことになった。


「『ブリート』という宿屋がここでは一番いいみたいですね」


 リリーアがいつの間にかブルットの街の案内図を手に入れていた。


 どこにあったんだろう?


「では、そこに泊まりましょう。リリーア、場所はわかる?」


「はい、この先を真っ直ぐいって突き当たりを左に曲がれば……」


 俺たちは、リリーアの案内のもと、「ブリート」という宿屋に行き、いつものように10泊することにした。


 今回は1泊1人で銀貨50枚なので金貨2枚を支払った。


「クレマーチス、お疲れさま。並の剣士なら魔法を使わなくても勝てるのね。すごいわ」


「何か罠があると思って、こっそり地下に案内される前に身体強化をかけておいたんだ」


「それでもすごいわ。向こうだって身体強化してたんでしょ」


「うん。ありがとう、カルミーア」


「クレマーチスの身体強化は反則だからな。その辺の剣士の身体強化と比べちゃいかんよ」


 確かに魔法使いは物理系の職業より体を鍛えているわけではない。


 だけど、魔力が高いと身体強化の強度も比例して上がっていくので、一概に物理的に弱いとは言い切れないのは事実だ。


「クレマーチスさんの重力魔法もすごいですね。身体能力が高い剣士たちが身動きが全く取れませんでした」


「そうだね。最小出力で魔法を放てるようにしておいてよかったよ」


 リリーアは「あれで最小出力!」と驚いていた。


 うん、魔力コントロールの鍛錬をしていなかったらとてもグロい状態になってたとは言えないね。


 日々の鍛錬は大切だね。

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