第25話 幼馴染の打ち明け話
俺たちは高級レストラン襲撃事件後も、精力的にSクラスダンジョン攻略を続けていた。
俺たちがダンジョン攻略をすればするほど、冒険者たちの嫉妬心が高まっていっていた。
毎日同じようなことを呟くだけなので、慣れてしまって全く気にならなくなっていた。
「お姉さん、Sクラスダンジョンはあとどれくらい残ってますか?」
受付のお姉さんは地図を開き、残りのダンジョンの数を確認する。
「そうですね。あと30ってとこかしら」
カルミーアはどうしようか腕を組みながら考えている。
おそらく、今日は何ヵ所まわるかを考えているのだろう。
「ねえ、クレマーチス。25くらいはいけそう?」
「うん、特に問題ないと思うよ」
「そう、ありがとう。お姉さん、では今日は25ヶ所まわってくるわ」
「はい、かしこまりました。あと少しですね。よろしくお願いいたします」
ギルドの職員はとても友好的なのだけど、冒険者は曲者が多い感じだ。
ギルドとしてはクエストをしっかりとこなしてくれればそれでいいというスタンスだから曲者でも受け入れてくれる。
でも、そのせいで壊滅している冒険者ギルドが結構あるのだけどね。
「25ヶ所だってよ」
「どんだけ稼げば気が済むんだろうな」
「底辺で頑張ってる俺らのことなんてわからないだろうさ」
——気にしない気にしない。
俺たちは言いたいことを言う冒険者たちを無視してダンジョン攻略に向かった。
「なぁ、もうどうせなら全部行っちゃおうぜ」
「うん? 実際は全部片付けちゃうよ」
「そうなのですか?」
「まあね。独占だぁって騒ぐ冒険者が出てきそうだから少しは残っているように見せたいのよ」
「前みたいにギルドに入れてもらえないことが起きたりしたら大変だよね」
「そう、私たちにとっては報酬はもう必要ないのよ。妨害されてスタンピードが起きることのほうが嫌だわ」
結局、残りの30ヶ所のSクラスダンジョンを今日中に全部片付けるため、いつも以上にペースを上げて攻略していった。
流石に、30ヶ所は多く日が落ちる寸前で月も見えてくる時間帯までかかってしまった。
「なんだかんだで、結構時間がかかったね」
「そうだね。クレマーチス、お疲れさま」
「まぁ、明日からはゆっくりできるんだからいいだろう」
「そうですね。明日は思いっきりゆっくりしましょう」
俺たちが冒険者ギルドに戻ると、建物内が騒がしかった。
それで陰口も言われず受付まで行けたのはよかったかな。
「おかえりなさいませ。随分と時間がかかったのですね」
「えー、実は30ヶ所まわったんです」
カルミーアが周りの冒険者に聞こえないように受付のお姉さんに話す。
「そ、そうなんですか?」
「ええ、前にも嫌がらせでギルドに入れてもらえなかったことがあったの。そのせいでスタンピードが起きたら大変だから。5つは保留にしておいてください」
「かしこまりました。それでは受注分の25個のコア魔石を鑑定いたしますね。
『鑑定』……Sクラス25……白金貨2枚と金貨500枚ですね」
「ありがとう。それにしても今日は騒がしいわね。何があったのかしら?」
カルミーアは受付のお姉さんから報酬をもらいながら質問をした。
「それは新しい勇者がこの王都で任命されたからなんですよ」
新しい勇者の名前はルアデコーザというらしい。
まだ実力はBクラス程度で、パーティーを募るとしたらBランク以上の冒険者が選ばれるらしい。
どうやら冒険者たちは勇者パーティーに入れてもらいたくてざわついているらしい。
「俺たちは懲り懲りだなぁ」
「そうですね」
タフネスとリリーアもうんざりという感じでため息を吐いた。
「最近の勇者はなんで性格が悪い人ばかりなんだろうね」
「まぁ、あれだろう? 地位や名誉がもらえるとそれに溺れてしまうんだよ」
「みんな、冒険者たちがざわついているうちに帰りましょう」
カルミーアの言う通りだ、またゴタゴタに巻き込まれる前に俺たちは宿屋に帰ることにした。
宿屋に戻り、俺は「やりきったぁ」と呟きながらベッドにダイブした。
Sクラスダンジョンを制覇したので、残りの期間はゆっくり過ごせそうだ。
俺はダイブした格好のまま夢の世界へ入っていってしまった……。
「クレマーチス、クレマーチス!」
俺の体を揺すりながら誰かが呼んでいる……。
そっと目を開けるとカルミーアの顔が見えた。
「おはよう。カルミーア」
「何言ってるのよ。まだ夜中よ」
「え?」
外をも見ると真っ暗だ、本当に夜中だよ。
でも、何かいい匂いがする。
「気持ちよさそうに寝てたから、みんなそっとしてあげてたのよ」
「ごめん、疲れてて知らない間に寝ていたよ」
「別にいいわ。逆にこっちが無理させちゃったんだから。それより、ご飯を温め直すからこっちへ来て」
「うん、わかった」
俺は起き上がり、部屋着に着替えてテーブルに座る。
カルミーアが冷めてしまった料理を温め直して待っていてくれた。
「カルミーアは食べたの?」
「うん、食べたわ。さぁ、召し上がって」
「うん、いただきまーす」
俺はお腹がペコペコだったので、掻き込むようにご飯を食べ始めた。
しかし、ふと違和感に気が付く。
「あれ、今日はレバーが入ってないんだね」
「うん、もうクレマーチスには必要ないかなって思って」
俺に必要ないってどういうことなんだろう?
「実はね、初めてクレマーチスとあのおじさんのニラレバ定食を食べたことがあったでしょう」
カルミーアと再会して初めて食べた料理だからね。忘れられないよ。
「うん」
「その時にね、少しクレマーチスの体が光ったんだ。2度それを確認して、レバーを食べさせればクレマーチスの悩みが解決できるかなぁと思って」
それでずっと3食レバー料理だったんだ。
やっと理解ができたよ。
「じゃぁ、俺が強くなれたのはカルミーアのお陰だね。ありがとう」
なんかカルミーアは悩んでいることがまだありそうだ、なんだろう。
「でもね、最近はレバーを食べても光ることが少なくなったの。もう私は必要ないのかなって思っちゃって……」
「そんなことないよ。俺はずっとカルミーアとずっと一緒にいたいよ」
「ずっとクレマーチスと一緒にいていいの?」
「もちろんだよ。あと、魔力が上がらない原因はなんとなくわかる気がする」
カルミーアは「え?」っと言いながら驚いた表情に変わった。
「食べてる魔物が俺より弱いと上がりにくくなるんだと思うよ。もっと強い魔物を捕獲して食べればもっと上がると思う」
「そうなの?」
「まぁ、試してみないとわからないけどね」
カルミーアは少し安心した表情に変わった。
——よかたよかった。
「そっかぁ、良かった。安心したら眠くなってきちゃったよ。ありがとう」
カルミーアが席を立ち、部屋を出ると思ったら俺の方にやってきた。
「チュッ」
カルミーアは俺の左の頬にキスをした。
「じゃぁ、また明日ね。おやすみ」
「う、うん。おやすみ」
俺は何が起きたのか理解するのに時間がかかった。
そして、俺はベッドに横になり左頬をさすりながら物思いに耽りながら眠りについた。
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