第26話 冒険者たちの罠に嵌められる

 翌朝、目を覚ますと、カルミーアが俺の部屋のキッチンで料理をしているのがわかった。


「カルミーア、おはよう」

「うん、おはよう」


 カルミーアは料理の手際も良く、テンションも高いように感じた。


 しばらくすると、俺の部屋で一緒に朝食を取るためにタフネスとリリーアもやってきた。


「おはよう、お二人さん。二人の邪魔をして悪いねぇ」


 タフネスはまた茶化してくるなぁ。


「うん、そうね」


 いつもはカルミーアが「違うわよ!」と言い返してくるのに、いつもと違う反応が返ってきたのでタフネスは困惑してしまった。


「もう、タフネスさん、カルミーアさんをからかうのはやめてあげて」


「別に大丈夫だよ。ねー、クレマーチス」


「う、うん、そうだね」


 リリーアまで一瞬固まってしまった。


 俺には心当たりがあるけど、言葉にするのはやめておいた。


 俺たちは微妙な雰囲気で朝食を終えて、冒険者ギルドへ様子を見にいくことにした。



 俺たちが冒険者ギルドに着くと、ものすごい人だかりができていた。


 その中心には勇者ルアデコーザがいた。


 どうやら勇者パーティーが決まった後のようだ。


「おお、お前たちが噂のSランクパーティーか。代役ご苦労。あとは俺様が魔王のダンジョンを攻略して、魔王を討伐する。以降は手出し無用だ」


 勇者ルアデコーザもバリスと同じように、勇者という地位に酔っているようだ。


 俺たちはかなり稼がせてもらえたので、あとはスローライフを送るだけだからそれはそれでいいかな。


「勇者様、それはありがたいことでございます。後のことはよろしくお願いいたします」


 カルミーアは少し感情に嫌味を込めてルアデコーザに返事をした。


「おお、いい女だな。俺様のパーティーに入らないか?」


「結構でございます」


 ルアデコーザの誘いにカルミーアはキッパリと断った。


「ルアデコーザ様、例の魔法使いの件を……」


 どこかで聞いたことがある声だ。


 まさかね、もうすでに処刑されていてこの世にいないはずだからね。


「うん? どうやらSランクパーティーに『初級魔法しか使えない』クズ魔法使いが紛れ込んでいるらしいが本当か?」


 この言い方、やっぱりあいつなのか?


 そんなはずはないが、まさか脱獄してきたのか?


「私たちのパーティーにクズ魔法使いなんていません。これ以上仲間を侮辱することは許しませんよ」


 カルミーアは俺が侮辱されたことに対してとても怒っている。


 カルミーアも薄々気がついているんだと思う。


「行きましょう、みんな」


「ああ、気分が悪いぜ」


 俺たちが冒険者ギルドを出ようとすると、ルアデコーザがさらに声をかけてきた。


「ああ、それとお前たちは俺様の権限でこのギルドには出入り禁止だ。クエストの受注などさせないからな」


 俺たちはルアデコーザの言葉に耳を貸さず、ギルドを出ていった。


「もう、なんなのよあいつ!」


「ああ、バリス以上に嫌味なやつだったな」


「カルミーア、気がついた? あいつらがいるんじゃないか?」


「ええ、私もまさかと思ったけど、勇者の言い回しだと仲間にいると思うわ」


「まさか、脱獄してきたのか?」


「そんな人たちを仲間に入れるなんて……」


 最初は疑ったが、ルアデコーザの俺への罵りを聞いたら確信が持てた。


 バリスとハルトグートが脱獄して、勇者のパーティーに入っていると。


 犯罪者を仲間に入れるなんて信じられない。


「私たちとしては王都でのやることは済ませたから、残りの期間はゆっくりしましょう」


「そうだね。今までは代役でやっていたんだから、全部任せればいいよね」


「まぁ、そうなってくれるとありがたいんだがね」


 タフネスの言いたいことはわかる。


 でも、それを口に出しちゃうとこちらに面倒事が降ってきそうだから言わないでいたのに……。



 俺たちはギルドに立ち入ることができなくなったので、宿泊期間が終わるまでは自由に王都観光を楽しむことになった。


 俺が一人で市場いちばを見て回っていると、一人の幼い少年に声をかけられた。


「魔法使いのお兄ちゃん、僕のお願いを聞いてほしいんだけど」

 

 小さな子供が切実そうな顔をしている。


「ぼく、どうしたんだい?」


「あ、あのう、母ちゃんのために薬草をとってきたいんだ。僕、お金がなくて……」


 ——そうか、お母さん思いの子なんだな。


「わかった、お兄さんが一緒についていってあげるよ」


「本当? ありがとう」


「ちなみに、君の名前は?」


「僕は、ウームって言うんだ」


「ウーム、お兄さんから絶対に離れないでね」


「うん」


 俺とウームで薬草採集のために森へ向かった。


 でも、森には薬草が一つも生えていない。


 ——この森じゃないのかな?


 しかし、突然ウームが走り出し先に行ってしまった。


「一人で行ったら危ないよ!」


 俺は声をかけてウームを追いかける。


 やっと追いついたと思ったら、ウームが泣いている。


 ——なんでだろう?


「お兄ちゃん、ごめんね」


 ウームは涙を流しながら来た道を走っていった。


「だから一人で走って行ったら危ないよ!」


 俺がウームを追いかけようとした瞬間、ウームが矢で射られて倒れ込んだ。


 ——冒険者の罠か!?


 俺はウームに駆け寄ってウームの状態を確認したら、幸い急所からは外れていた。


「ウームがんばれ、すぐに回復させてやるからな」


 俺はウームに刺さっている矢を抜く。そして回復魔法をかける。


『ヒール!』


 ウームの傷が一瞬で治った。


 ウームは驚きのあまり目をパチクリさせている。  


「みんなやれ、一斉に矢を放つんだ!」


 俺を狙えと言う号令が聞こえてきた。

 

 こんな幼い子まで使って、しかも後で始末するつもりだったんだな。

 

 俺は魔力障壁を張って、全ての攻撃を防いだ。


「ダメか、次の手段だアレを放て!」


 ——アレってなんだ?


 妙な薬が入った布袋を矢にくくりつけて放ってきた。


「よし、撤退だ!」


 俺を狙ってた奴らは逃げていったようだ。


 しかし、布袋に入っていた薬は魔物をおびき寄せるものだった。


 しかもこの量だとかなりの数の魔物が寄ってくる。


「ウーム、俺の背中に乗ってくれ」


「え? 僕を助けてくれるの?」


「ああ、当たりまだ」


「あ、ありがとう」


 ウームは泣きじゃくって、俺の背中がびしょ濡れだ。


 しばらくすると、大きな足音がたくさん近づいてくるのがわかった。


 かなりの数だ。


「お兄ちゃん、いっぱいきたよ」


「大丈夫だ。落ちないようにしっかり掴まってろよ」


『アイスミスト!』


 氷の霧の魔法で押し寄せてきた魔物を周辺の林ごと凍らせた。


『スタン!』


 重力系魔法で凍らせたものを全て粉々にした。


「お兄ちゃんすごい!」


「さて、いつまでもここにいるつもりはない。ウーム、帰るぞ」


「うん、お兄ちゃん、本当にごめんなさい」


「いいって、どうせ怖いおじさんに脅されたんだろう?」


「なんでわかったの?」


 まだ幼い子供には状況がわからないか。


「俺は強いからな。人の気配とかすぐに分かるのさ」


「すごーい。僕もお兄ちゃんみたいな立派な魔法使いになりたいな」


「ああ、なってくれ。でも鍛錬は厳しいぞ!」


「うん、頑張る!」


 俺はウームを背中に抱えながら急いで王都へ戻っていった。

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