第27話 新しい勇者も捕まってしまう

 俺はウームを背負って森を抜けて、あともう少しで王都というところで大勢の冒険者たちに道を塞がれてしまった。


 その中心に勇者ルアデコーザの姿があった。


「おい、クズ魔法使い、そこで止まれ!」


 声を発してきたのはハルトグートだった。

 やっぱり脱獄してきたのか。


「クズ魔法使いが幼い少年を森の奥に連れ出し殺したのを冒険者たちが目撃しているんだ。くっくっくく」


 バリスも姿を現して、棒読みのようなセリフを吐いた。


「そういうことだ、俺様の権限でここでクズ魔法使いを処刑する!」


 勇者の権限ってそこまで出来ることなのか? 

 いや、あり得ないだろう。


「何を言っているんだ? その少年は俺の背中にいるよ」


 ルアデコーザたちは死んでいるはずのウームが生きていたことに驚いている。

 

 冒険者の一人が「殺したはずなのになんで生きているんだ?」とうっかり吐いてしまうあたり、ダメダメじゃないかと思ってしまった。


 あまりにも冒険者たちのずさんな行動に俺はため息を吐いてしまった。


「えーい、もうそんなことはどうでもいい。クズ魔法使いを殺せ!」


 もうルアデコーザたちはなりふり構わずって感じで俺に殺意を向ける。


「お前たち、ありったけの魔力を込めろよ!」


『紅蓮の爆炎よ目の前のクズを焼き尽くせ、ファイヤーフェニックス!』


 ハルトグートは炎の上級魔法を放つ。


 俺にはあまりハルトグートの魔力が練られていないように見える。


「打てー、打ちまくれ!」

「跡形も残すなよ!」


 10人くらいの魔法使いが一斉に上級魔法を、弓使いたちも一斉に矢を放ってきた。魔法と矢の集中砲火で俺の手前で大爆発が起こる。


「やったか?」


 しかし、俺は魔力障壁を展開しているから無傷だ。


「なんでクズ魔法使いが魔力障壁を使える!?」


 ハルトグートは信じられないものを見て驚愕している。


 魔法使いの中では、魔力障壁は超級魔法ということになっている。


 おそらく、俺がなぜ超級魔法を使えるのかと勘違いをしているようだ。


「えーい、もういい。俺たちのパワーでねじ伏せる。俺に続け!」


 遠距離攻撃がダメなら、近接攻撃だと言ってルアデコーザは剣士や戦士を引き連れて突進してきた。


 ルアデコーザはバリスと違って聖剣を持っていて魔力障壁で防げるか不安だったが杞憂だった。


 ルアデコーザは聖剣にほとんど魔力を込められなくて本来の聖剣の力が発揮できていない。


 剣士の剣技や斧やハンマーを持った戦士が力ずくで攻撃するも、魔力障壁で全ての攻撃を弾き返す。


「くそう、なんじゃこりゃ?」

「全く攻撃を受け付けないぞ!」


 ルアデコーザたちの必死の攻撃も虚しく、俺の魔力障壁を壊すことが出来なかった。


 ルアデコーザは諦めたのか、後方に下がっていった。


 しかし、それは逃げるためではなく別の手段をとるためだった。


「おい、アレを連れて来い!」


 ルアデコーザに命令されて、一人の冒険者が一人の女性に刃物を突きつけて姿を見せた。


「母ちゃん!?」


 どうやらウームのお母さんらしい。人質に取られていたのか。


「おい、クズ魔法使い。その魔力障壁を解け! さもないと、この女を殺すぞ!」


 ルアデコーザはどこまで卑劣なことをするのだろうか。勇者ってなんだろう?


「ウーム、マントの中に隠れてしっかり掴まってるんだよ」

「うん」


 俺は魔力障壁を解き、じわじわと人質を脅している冒険者のところに近づいていく。


「よし、魔力障壁は無くなった。なぶり殺せ!」


『おおぅ!』


 冒険者たちは一気に攻撃を仕掛けてくる。しかし、物理攻撃も魔法攻撃も全く俺には効かない。


 俺は心底怒っているのだろうか、魔力が溢れて出ている気がした。


 自然と身体強化がされているような感じだった。


「なんだこいつ!?」

「バケモノかよ!?」

「全く刃が通らないっすよ!」


 俺は重力魔法の射程圏内までじわじわと近づいていく。


「止まれ、止まらないとこの女を殺すぞ!」


 俺は殺さないでくれと祈る。


 ウームのお母さんの心配もあるが、怒りに任せてしまうと俺がどうなるかわからないからだ。


 ——この辺りなら大丈夫だろう。


『スタン!』


 俺が重力魔法を放つと、ルアデコーザたちは圧力で地面にへばりついた。


 ウームの母親にも影響があるので、俺は冒険者からウームの母親を引き剥がして連れ出した。


「くっそう、こんなもの、こんなものぉぉ!」


 ルアデコーザはさすが勇者で、根性だけは一流のようだ。


 聖剣を杖代わりにして、必死に立ちあがろうとしている。


 他の者たちは意識を失いかけている。


「母ちゃん、母ちゃん、起きてくれよ!」


「ウーム、大丈夫だ。落ち着いて」


『ヒール!』


 冒険者にかなり酷い目にあわされていたんだろう、殴られた跡やアザなどがあった。


 俺の癒しの魔法でみるみる綺麗な体に戻っていった。


 しばらくするとウームの母親の意識が戻った。


「母ちゃん!」


「ウーム、生きていたのね。嬉しいわ」


 冒険者たちの会話からウームは殺されるのだとウームの母親は感じ取っていたのだろう。


 ウームをぎゅぅっと抱きしめて涙を流していた。


「おい、クズ魔法使い。魔法を解除しろ……」


 こんな状態で偉そうに俺に命令をしてくるなんて……はぁ。



「クレマーチス!」


 カルミーアがルアデコーザの声を遮るように俺の名前を呼んだ。


 気がつくと、タフネスとリリーアもいて、騎士団総出で僕たちのところに向かって来ていた。


「クレマーチス殿、魔法を解除してもらえるだろうか?」


 騎士団長らしき人から声をかけられ、俺は素直に魔法を解除した。


「ありがとう。騎士たちよ、ここの者たちを全て捕らえよ!」


 騎士団長の命令で俺を襲ってきた冒険者たちが捕らえられていく。もちろん、勇者ルアデコーザも例外ではない。


 ルアデコーザは捕縛されていても自分の正当性を主張する。


「お待ちください、騎士団長。この者は幼い少年を森へ誘い殺したのです。なので私の権限で処分しようとしたのです。ですから、この縄を解いてください」


 流石に無理があるルアデコーザの主張に騎士団長は大きなため息を吐いた。


 幼い少年は人質にされていた母親に抱かれながら泣いている。そんな様子を見れば嘘だとすぐにわかる。


「クレマーチス殿、何か言いたいことはあるかな?」


 騎士団長が俺の方を向いて、俺にルアデコーザを黙らせる何かを言ってもらいたいようだ。


 俺はハッと気がついて、ウームが射られた時の矢を取り出す。


「こちらが証拠となるのならば、鑑定をお願いいたします」


 俺は騎士団長に血痕のついた矢を差し出す。


「おい、誰か『鑑定』ができるものはいるか?」


「はい、わたくしにお任せください」


 手を挙げたのは、王都の冒険者ギルドのギルドマスターだった。


 確かに、ギルドマスターなら一番の適任者だ。


 騎士団長からギルドマスターに血痕のついた矢が渡される。


『鑑定』


「……わかりました。この矢を所有していたものは捕らえられている冒険者のものです」


 ウームの血を調べ、血痕もウームのものと判明した。


 ルアデコーザの証言は嘘で、逆に少年を殺そうとしたのはルアデコーザ側であることがはっきりした。


 しかも、ウームの母親に対して行った卑劣な行為に対しても処分が下されることになった。


「本来ならば、勇者の称号を剥奪したいところだ。しかし、魔王の行動が活発化しているから今はそれは出来ない。我々の監視下の元で行動してもらう。いいな!」


「は、はい……」


 ルアデコーザは言葉を無くし、項垂れてしまった。さっきまでの威勢の良さが嘘のようだ。


「無事でよかった」


 カルミーアに泣きながら抱きつかれてしまった。相当心配をさせてしまったようだね。


「心配をかけてごめんよ」


「ううん、大丈夫よ」


 俺はカルミーアからぎゅっと抱きしめられて身動きが取れない。


 騎士団長はそれを見て気を遣ってくれたようだ。


「では、この者たちは騎士団でキッチリ処分させてもらうからゆっくりしていてくれ。では!」


 騎士団たちは敬礼をして、王都に戻っていった。


 タフネスも今回だけは茶化すことはなかった。流石にこの空気は読めたようだ。

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