第38話 偵察
ここが限界だな。これ以上先へ進めば敵軍の感知部隊に感づかれるだろう。
そして、ここまでで十分。
スーに乗った自分たちが険しい山林の中腹に降り立ち、目を凝らせば、彼方の平原に連合軍の行軍が目に入った。
軍の規模は2万ほど……流石に異大陸に数十万規模の超大軍で来ることはない。
大魔王たる自分がいて、今となっては五人の戦乙女勇者たちが敵となっていることも連合の上層部の耳には入っているはず。
兵たちは動揺するだろうから知らぬか?
とはいえ、行軍の様子からそれなりに練り上げられた精鋭たちと思われる空気を放っている。
そして2万の中に……
「ふむ……ディヴィアスの故郷のアマゾネス部隊……ふむ、居たな。将の一人……『ヴァギヌア』……だな。たしか魔槍使いとして有名な」
「むっ、ヴァギヌア将軍が居いらしているのですか?」
「わ~、ヴァギヌアさんか~、ラブリィちょっと苦手ぇ~っていうか、ジャーくんのお目目すごいね。ラブリィも目は良い方だけど、この距離から、しかもあんなに沢山の人からアッサリ見つけちゃうなんて」
「ヴァギヌアだけではないな……その奥には……『魔導将軍ハーメシア』か……」
「なんと、ハーメシア先輩まで!?」
「わぁ~……向こうも私たち居ない中での最高戦力連れてきちゃったね~」
個々の力だけならば戦乙女勇者五人には劣るも、それでも匹敵する力と、こやつらよりは年上ゆえに経験値も備わっている。
もちろん、こやつらの戦い方や手も分かっているであろう。
「どーする、ジャーくん? ラブリィの弓で今のうちにヤッちゃう?」
「やめておけ。この距離ではいかにそなたの弓でも奴らには気づかれる。必要なのは敵の中で厄介そうな将の把握、配置、そして総大将の存在。奴らの中で最も位の高い人物……シャイニの国の王子か……それとも……」
更に全体を広範囲この肉眼に収め、これまで記憶した連合軍の主要な一人一人の情報と照らし合わせ……
「見つけた。連合軍の中で最も大国にして王族の格付けをするならあの2万の中で最高位……『セクシィ』……」
「ふぇ? ぇ……」
「そなたの姉だな……ラブリィ」
2万の大軍の中で中央から少し外れた位置。恐らくは奇襲や暗殺に備えて本陣を最後尾や中央中心などの分かりやすい場所に配置しないように工夫したのかもしれぬが、自分の目は誤魔化せん。
「お姉ちゃんが……そうなんだ……」
ラブリィの故郷のハート王国の若き女王。
勇猛だった前女王を病で早くに亡くし、十代で女王に即位。
武の才はからきしだったようだが、その知や統率力でハート王国の国力を倍にし、連合軍の中でも信用と信頼を得る。
さらに姉に無かった武の才能は妹であるラブリィに全て引き継がれ、ラブリィが連合軍の新たなる勇者の象徴の一人となってからは、セクシィの連合軍内の格は最上位。
あやつが総大将として連合を率いることに何の疑いもない。
「あの三人だな……この二万を支えるのは……奴らは狩場に足を踏み入れ、場が混乱した状況の中で片づけたいところ」
「ええ。ですが、一騎打ちであれば私たちはヴァギヌア将軍にもハーメシア先輩にも負けません。それに、セクシィ女王を守る護衛部隊は強力ではありますが、セクシィ女王ご本人に武力はありません。護衛部隊さえどうにかできれば……」
アネストと淡々と話しながら、チラッとラブリィを見てみる。
少し小声でブツブツと何かを呟いている様子。
「そっか……お姉ちゃんが……そっか……」
かつての家族にはやはり何か複雑な……と、思おうとしたが、恐らく違う。
そんなものではなく……
「うん♥ お姉ちゃんにジャーくんを紹介しないと! これでお姉ちゃんが祝福してくれるなら、もう私たちを邪魔しないと約束するなら、私はお姉ちゃんだけは助けたいな~……でも……認めてくれないなら……」
ただ、喜びに震えているだけ。
家族に自分の夫を紹介するのだとウキウキして、しかし望む反応が返ってこない場合は……
「心臓を撃ち抜いちゃうかも♥」
そう言って、ぺろりと舌を出して小悪魔的な表情を見せるが……本気だな……こやつはもはや本物の悪魔に近い非情さを内に秘めているのだからな。
「とにかく、大体連合のことは分かった。さっさと戻ってシャイニたちに合流するぞ。あやつらもどうせ、先行の部隊と衝突し、ウォーミングアップを済ませているだろうからな」
いずれにせよ、命令をされてしまった以上は自分はこやつらが勝つための動きをする。
内心では連合に頑張ってもらって、こやつらを疲弊させることで、魔王軍が動きやすくしてほしいところ。
「そうですね。でも、そ、その前に……♥」
「うん……えへへ、まだ時間もあるし~、ジャーくぅ~ん♥」
だが、どうやらその望みは叶いそうもないな――――っていうか、その前にこやつら……
「ば、待て、ここは外だぞ!?」
「たまには森の中でするのも良いかと……♥ アナタ、服を脱ぎなさい♥」
「ラブリィたちとアオカンっていうのをやっちゃおうよぉ♥」
こんな状況下、これから戦だというのに興奮を抑えきれずに、自分たちは森で一発ずつ――――……はぁ……連合軍……頼むからこの馬鹿どもに鉄槌を……いやいや、まさか自分が連合軍の頑張りを祈る日が来るとは世の中分からぬものだ。
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