第4話 人類の貞操観念
「あのね、ジャーくんの所の筆頭将軍を倒したときに言われたんだ~」
戸惑う自分にシャイニがかつての自分の忠臣……こやつらが討ち取ったあやつのことを口にした。
「あのね、彼は言ったの……『今は人間に称えられていても、戦が終われば必ず人間はお前たちに掌を返す。大魔王を倒しても、大魔王より力を持った脅威の存在として、人はお前たちを必ず迫害するぞ』……って感じで」
「お、う、うむ……あやつは言いそうだな……」
「でね、そのことがずっと引っかかったままだったんだけど、ジャーくんに口説かれて思ったんだ。このままジャーくんを倒して皆に英雄としてキャーキャーされてそこから掌を返されたりされる前に、両者行方不明ってことにしちゃえばいいんじゃないかってさ!」
「……ダメだ、分からぬ!?」
分からん。だけど、そう言って、五人の勇者はもうすでに勇者の面影なく、ただの顔の緩み切った小娘の笑顔で、五人一斉に自分に抱き着いてきた。
「ここに入れば滅多なことで見つからないし~」
「これからたくさんの家族と住むには広い土地ですし……あ、私は最低五人産みますので。御存じの通り私の身体は丈夫です!」
「街でデートもいいけど、部屋や庭や自然の中でイチャイチャもまずは~って♥」
「安心して。私がジャーくんを幸せにしてあげるし、何だったら人間たちから守ってあげる」
「接吻所望」
いかん。ふざけるな。失望もいいところだ。こんな小娘共の思惑通りになってたまるものか。
「ふざっ……ぐっ……」
たとえ魔力のコントロールがうまくいかずとも、この腕で斬る裂くことぐらいできるはず……なのに、腕を振りぬけない。
これが宝玉の力か!?
完全に肉体に食い込んで、今の自分ではどうしようもできん。
すると、五人は……
「もーだめだよぉ、ジャーくん。おいたしたら、怒っちゃうよ? 攻撃できないって分かってても……手足を斬っちゃうよ? 再生するまでシャイニたち抱きしめられないよ? 嫌でしょ? ジャーくんにハグしてもらえないなんて、やだかな、やだかな♥」
「やれやれ、照れているのですね。しかし、新婚早々ドメスティックバイオレンスをしようとする夫はしっかりと調教しないとですね。うふふふ、色々と試したい魔法があるのですよ♥」
「うんうん、まずはラブリィたちの愛を教えてあげないとね。あ、でも安心してね。命令するのはホッペやおでこにチュウまでで、それ以上はお互いの心が通じ合ってからっていう協定だから♪ でも、いつまでも恥ずかしがって私たちを拒否しようとしたら、襲っちゃうよ♥」
「でも、この宝玉便利ね。もしなければ、反抗したりできないように両手足を折ったり斬り落としたりしないといけなかったけど、これなら一生逃がさず済みそうね。ま、仮に逃げたとしても世界の果てだろうと捕まえるけど♥」
「警戒必要。角再生したら外されるかも。定期的に角は切断する。そうすれば生涯何があっても私たちのモノ♥」
ダメだ……それでも腐っても勇者。今の自分ではこやつらを始末する力もない。
逃げようにも屋敷全体を強力な結界で覆っている。
しばらくは逃げられそうにない。
つまり、どうにかできるようになるまで、こやつらとここで生活しないとならぬということか?
この大魔王たる自分が……宿敵である勇者と共同生活を……
ダメだ。やはり死んだ方がマシ――――
「くくくくく、フハハハハハハハハハハハハ!!」
「「「「「ッッッ!!??」」」」」
「なんともお目出たい小娘共だ。人類も哀れであるな。このような脳みそ蕩けた小娘たちなんぞに世界の希望を託すとはな」
ならば、そのように仕向けるだけ。
自分を殺すように。
顔を歪め、邪悪な笑みを浮かべ、大魔王としての……
「自分の大して深い意味のない言葉に簡単に心惑わすとはな……これまでこの数千年……それこそ、数限りない地上と魔界の美女たちと酒池肉林の情欲を貪った自分に、貴様らのような小娘など何の感情も沸かぬ(そんなふしだらなことはしてないがよいだろう)」
「「「「「ッッッ!!!???」」」」」
「それこそ暇な百年ぐらい絶え間なく常に代わる代わる女たちを犯して、よがらせ、狂わせ、壊し、肉人形にして弄んだものだ(うそだが……)」
ふっ、ショックであろうな。まさに恋も男も知らぬ乙女たちには。
まぁ、後世に変態大魔王として名を残すのは気が引けるが、生き恥を晒すぐらいなら……
「う、うそ……」
「な、なんという……」
「ジャーくぅん……」
「そ、そんな、あんた……」
「ゴクリ……」
すると、小娘たちは目を大きく見開いて固まり……次の瞬間には……
「「「「「ジャーくん、そんなにエッチが好き?!」」」」」
「……?」
ん? なんだ? こやつら、真顔かと思ったら急に興奮して嬉しそうに……
「う、うそぉ、ジャーくんが……エッチ大好きなイケメンって、ぁ~~ん♥」
「ぐっ、な、なんという卑猥……ごくり……こんな美男子でスケベなこと大好きなど……♥」
「サイコーだよぉ! エッチな美男子って存在してたんだぁ! しかも経験豊富で……『お兄さんが色々教えてあげるよ』……的なだよぉ♥」
「ねえ、もうさ、や、ヤヤヤヤ、ヤッちゃわない? ねえ、もう興奮してきた♥」
「濡れた♥」
あ……そ、そうか!
「し、しまっ、いや、違うのだ、そなたら、お、落ち着け!」
既に地上の男女比は大きく変わり、男たちは牙が抜けた。
男女の貞操も逆転しているのだ。
つまり、男は数少なくなっただけでなく、全体的に大人しく内向きな性格が多くなり、異性との性的なことにも消極的になっている。
現在の地上では、男女のそう言ったことに対しては女が積極的に動いている。
つまり、自分の発言は、この変態たちをむしろ喜ばせるだけで……
「何という、くっ……ぐぅ!」
今すぐベッドから飛び起きて、この場から離脱しようとした……が、ベッドから自分は降りることすらできない。
「あははは~、駄目だよ~、ジャーくん。知らないの? 勇者からは逃げられないんだよ?」
そして、そんな自分に小娘たちは歪んだ笑みと血走らせた瞳で身体を抑え込んできた。
「ぐっ、やめろ! 貴様ら、勇者としての誇りを! 恥を知れ! やめろ! 殺せ、殺せぇぇ! 自分を殺せ――――やめよ、脱ぐなぁ! 脱がすなぁ!」
「「「「「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ」」」」」
心の底から死んだ方がマシ――――
「「「「「ぶぼっほぉおおおお!!!!」」」」」
「あ……」
だが、次の瞬間、部屋一面が血の海に染まった。
鼻息荒くしながら自分に飛び掛かりそうになった小娘たちが一斉に鼻血を噴き出したのだ。
そうか、免疫ないどころか経験もないために……
こんなことを最初から知っていれば、ワザワザ戦争などしなくても、こやつらに美男子でも宛がえばそれだけで人類に勝てたのでは?
何ともふざけた話だ。
――あとがき――
3連休は12時に3話同時更新! 次話もこのままどうぞ~
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